※本ページ内の情報は2024年7月時点のものです。

WATAKI株式会社(旧:株式会社カインドウェア)は、洋装専門の古着商を営んでいた「渡喜商店」から始まり130年以上続く、老舗のフォーマルウェアメーカーだ。同社はフォーマルウェア・テーラーブランド「KINDWARE(カインドウェア)」と、ヘルスケア商品を扱うブランド 「KINDCARE(カインドケア)」を展開している。自社ブランドの強みや、一度退社した家業に戻ったきっかけ、今後の展望などについて5代目経営者の渡邊祥一郎氏にうかがった。

主力事業であるブランドの魅力や新社名に込めた思い

ーーフォーマルウェア・テーラーブランド「KINDWARE」とヘルスケアブランド「KINDCARE」の魅力を聞かせてください。

渡邊祥一郎:
「KINDWARE」は宮内庁御用達のブランドで、英国王室御用達のHUNTSMAN(ハンツマン)ともパートナーシップを組んでいます。これは、私たちが商品の品質や縫製技術、接客力など、細部へのこだわりを積み重ねてきた結果だと自負しています。

ヘルスケア商品を取り扱っている「KINDCARE」は、デザインやカラーバリエーションが豊富なことが特徴です。機能性だけでなくデザイン性も重視し、Finlayson(フィンレイソン)など有名ブランドの生地も使用しています。

また、トップス・ボトムス・アウターを取りそろえ、弊社の商品だけでトータルコーディネートができるように工夫しています。さらにシーズンごとに商品展開を行っているのは、世界でも弊社だけでしょう。

なお、ブランド運営において特に注力しているのが「接客」です。お客様との会話の中で日々の悩み事をヒアリングし、その方に合った商品を提案しています。そのためスタイルコーディネーターは、ブランドショップの販売員というよりもコンサルタントに近いと思います。

ーー2024年に社名変更した理由を聞かせてください。

渡邊祥一郎:
これからさらに100年続く企業を目指すため、原点に立ち返る意味を込め、創業時の「渡喜商店」にちなんで命名しました。グローバル展開に向けてローマ字表記の「WATAKI株式会社」としています。

この渡喜商店は、創業者の渡邊喜之助の文字を取ったものです。私自身も名字が社名の一部に入っていることで背筋が伸び、この名に恥じない経営者であろうと身が引き締まる思いです。

自由に発言できる場を求め15歳で渡米、一度退社した家業に戻ったきっかけ

ーー15歳のときに渡米したきっかけは何だったのですか。

渡邊祥一郎:
ハリウッド映画のシーンで、先生と生徒が議論している光景に憧れたことでした。ただ板書を書き写すのでなく、活発に議論を交わす環境で学んでみたいと思い、家族の勧めもあり、一人でアメリカに行くことを決めました。

ーー家業を継ぐことは以前から意識していたのでしょうか。

渡邊祥一郎:
父親から仕事の話を聞くことがなかったため、まったく意識していませんでした。ただ、大学1年生の時に、自分の学費の出所である父の収入はどのようなビジネスでまかなわれているのか興味を持ちました。そこから家業に興味を持ち、大学の夏休みには店頭に立たせてもらい、卒業後に入社しました。

しかし、アメリカでの生活が長かった私は、日本の縦社会や遠回しに意見を伝える慣習に馴染めず、わずか1年で退社してしまいます。それからアメリカで複数の企業を渡り歩いていた頃、30歳手前で勤め先からグリーンカード(永住権)の話が出たのです。

このままアメリカに残るか帰国するかを考えるタイミングで、自分のバックグラウンドを見つめ直しました。そこでようやく、代々家業を引き継いできた家に生まれたのはとても幸運なことで、その環境でチャレンジをしない選択をすることの愚かさに気づき、日本に戻ることにしたのです。

アメリカで培った経験を活かし、企業改革を実施

ーーアメリカから帰国後は、家業にどのような印象を持ちましたか。

渡邊祥一郎:
各部署が別会社のようにまとまりがなく、全国に点在する店舗の統制が取れていないことに課題を感じました。そこで、自社のブランディングや評価制度の見直し、オフィスの移転、情報の透明化、業務のデジタル化などの社内改革に着手しました。

ブランディングに関しては、アパレル事業とヘルスケア事業を2本柱とし、注力すべき事業を明確化しました。また、各部署をワンフロアに集約し、部署の垣根を超えてコミュニケーションが図れる環境を整えました。

月に1回はバースデーパーティーを開催し、普段接点がない社員同士が会話をする場もいくつか設けています。さらに、店舗で働く人たちも対象となるように表彰制度を改めたほか、オフィス従業員全員にノートPCを支給し、業務改善に努めました。

従業員のスキルを伸ばし、世界トップのブランドへ

ーー社風や会社の制度についてお聞かせください。

渡邊祥一郎:
弊社は雇用形態を、定年まで勤めるメンバーシップ型から職務内容で報酬を定めるジョブ型に移行し、各ポジションで必要なスキルや実務経験のある方を採用しています。

社内教育においては、人間力・交渉力・対応力の向上に力を入れています。そのため、弊社に入ればプロジェクト管理能力や建設的議論をするコミュニケーション力など、さまざまなスキルを得られるでしょう。

また、社内でオンライン学習ができ、仕事に関するセミナーや勉強会への参加も推奨しています。社歴が浅い方にも重要なタスクをお任せしますので、失敗を恐れず果敢に挑戦できる方をお待ちしています。失敗=学びです。

ーー最後に今後の展望をお聞かせください。

渡邊祥一郎:
5年後に「KINDWARE」は世界で20位以内、「KINDCARE」は5位以内の認知度を得ることが目標です。「KINDWARE」はアジア圏を中心に進出し、顧客との接点の場を増やしたいと考えています。「KINDCARE」に関しては、オンライン商品をさらに充実させ、販売力を強化していきます。

そして、フォーマルウェアとヘルスケアの両方で、世界一のブランドになるのが最終的な目標です。どちらもニッチな領域ですが主力事業をしっかり育て、世界トップクラスのブランドを目指していきます。

編集後記

一度家業に入ったものの、日本企業ならではの慣習に馴染めず、アメリカに軸足を移した渡邊CEO/COO。しかし、アメリカで積んだ経験やノウハウは、今の事業にも生きていると感じた。品質にこだわり、丁寧な接客を極めるWATAKI株式会社は、これからも人々の人生を輝かせる商品を提供することだろう。

渡邊祥一郎/2010年、米国Vermont State大学 経営学部卒業後、株式会社カインドウェア(現:WATAKI株式会社)に入社。2011年、米国 HURIC(Hosei University Research Institute California)に入社。2013年、米国Kodama & Company, Inc.(KAC)の副社長に就任。2013年、米国Viator, Inc.に入社。2014年、Viator, Inc.が米国Tripadvisor, Inc.に買収される。2016年に帰国し、株式会社カインドウェアに再入社。2019年に取締役副社長、2021年に取締役COO就任を経て、2022年に代表取締役CEO/COOに就任。