※本ページ内の情報は2024年7月時点のものです。

相続に関する登記申請や銀行での預貯金手続きは、複雑なものと言われている。株式会社AGE technologiesが運営する「そうぞくドットコム不動産」および「そうぞくドットコム預貯金」は、これまでの相続にまつわる負担を払拭し、相続の手続きの際に利便性の高い仕組みを活用してもらうためのサービスを提供している。

今回は、同社のサービスを手がけた代表取締役CEOである塩原優太氏に、今の相続事情を踏まえたビジネス展開と今後の展望を聞いた。

事業承継の現場で知った相続手続きの重要性

ーー貴社の事業について教えてください。

塩原優太:
「そうぞくドットコム不動産」「そうぞくドットコム預貯金」というWebサイトを通して不動産や預貯金の相続手続きが簡単に行えるサービスを提供しています。

相続手続きは、亡くなった方の戸籍謄本を集めて相続人を特定するところから始まりますが、多くの方々にとっては、それは複雑な作業です。

弊社は、こうしたお悩みを解決するため、戸籍謄本などの書類の収集代行と申請書などをWeb上で自動作成できるワンストップサービスを提供しています。

ーー相続サポートの事業化を決めたきっかけは何ですか?

塩原優太:
中小企業の事業承継や相続に特化したコンサルティング会社で働いていたことがきっかけで、「相続」という分野での事業化を決めました。

当時、経営者の方々が、「誰に会社の将来を託そうか」「誰に何を相続させようか」「あるいは生前贈与にすべきか」などと悩む姿をたくさん見てきました。さらに、親子の間の事業承継でも、引き渡す親と引き継ぐ子どもとの間に考え方のギャップがあるといった場面に何度も遭遇しています。

お客さまが悩んでいる姿を目の当たりにして、人の財産が次の世代に移っていくというプロセスやその手続きの煩雑さに関心を抱くようになり、何とかしたいと思いました。

どの世代の方でも使いやすいサービスを目指す

ーー年齢層によってはデジタルに馴染みのない方もいると思いますが、懸念を払拭するための取り組みを教えてください。

塩原優太:
弊社の利用者の平均年齢は約58歳、40代から60代の方々であり、おっしゃる通りパソコンやスマートフォンの操作にはあまり馴染みのない方も含まれます。

実際の相続の場合、「不動産の名義を変更したり、銀行からお金を受け取るなどの重要な手続きを、パソコンやスマートフォンで進めて大丈夫なのか」という懸念点を持たれる方もいます。

また、相続人は複数いるのが一般的であり、相続の当事者全員が弊社のサービスを活用することについて合意していただく必要があるので、弊社は何でもデジタルで完結しようとは考えていません。

弊社では、契約前に相続者全員が情報を共有できるようにパンフレットや付属書類を紙で印刷してお送りしたり、利用にあたって申込書に一筆記入していただいたりといったプロセスをあえて設けています。お問い合せへの対応でも、チャットやLINEだけでなく、電話で直接お話をすることも行っています。利用してくださるお客さまのことを考えて動くのが弊社のサービスのモットーです。

業界の枠を越えた連携によって利用者の懸念を払拭し、社会問題の改善へと導く

ーー相続に関連している業界との関係性や連携策について教えてください。

塩原優太:
弊社が取り組む「エンディング業界」には、銀行、士業、保険会社、不動産会社、または遺品整理の会社など様々なプレイヤーが存在します。

それぞれの事業者が扱う業務範囲が少しずつ異なるかつ弊社サービスが提供できる範囲も限定的であるため、案件の内容によって各社との連携を行う必要があります。弊社では利用者に対してスムーズかつ的確に対応できるように、金融機関や士業の方々、あるいは葬儀会社などとのパートナーシップを締結しました。

たとえば、弊社は相続税の問題は扱っていないので、その場合には税金の専門である税理士などを紹介することもあります。

ーー業務提携において、他に取り組んでいることを教えてください。

塩原優太:
所有者不明土地(※)や空き家の問題では、弊社は自治体との業務提携なども行っています。

日本国内の所有者不明土地の面積は、いまや九州の土地面積よりも広いと言われており、所有者がわからないために手の施しようがなく、防災措置や有効活用の面でも問題となっています。さらに2024年4月1日から相続登記の申請が義務化されました。これを怠ると10万円以下のペナルティが課されます。法律的な整備はできたものの、相続の手続きが簡素化されたわけではありません。

法律改正の実効性を高める上で、弊社のようなウェブ手続きというアプローチで相続手続きの簡素化を目指す事業者が、互いに連携していけば、今の日本の所有者不明土地や空き家といった社会問題の解決の一助になると考えています。弊社が貢献できる余地は大きいと思います。

(※)所有者不明土地:不動産登記簿を確認しても所有者が不明な土地、所有者は判明しても所在が不明で連絡できない土地のこと

サポートのレンジを広げた事業の新たな可能性

ーー相続の手続きが社会問題として挙がっていますが、貴社の今後の事業構想を教えてください。

塩原優太:
相続手続きをフックにビジネスを縦と横に展開することによって新たなビジネスステージに進みたいと考えています。

縦方向の展開としては、相続した土地や家屋をどう活用するか、あるいは処分するかといったアセット領域での事業展開を目指しています。すでに自分の家がある方にとっては、実家の相続というのはかなりの負担になるでしょう。思い出が詰まっている家でも、今の生活拠点を移すわけにはいかない場合は、なおさら扱いが大変です。

横展開では、手続きのデジタル化において、不動産と銀行預貯金のほかに生命保険、株式、証券などに裾野を広げていく予定です。

編集後記

相続とは思い入れのある住まいや財産といった、親族から大切なものを引き継ぐ、極めて複雑なものである。そんな相続手続きに親身に寄り添うなかで信頼感が生まれれば、塩原社長が目指す相続のアセットマネジメントは大きなビジネスチャンスにつながっていくであろう。

塩原優太/大阪府生まれ。大学卒業とともにIT広告代理店に入社し、Web広告の運用実務を経験した後、アプリ開発を行うスタートアップ企業に転職。その後、中小企業の相続・事業承継に特化したコンサルティング企業に入社。超高齢社会が抱える課題を実感するなかで相続サポートビジネスの立ち上げを決意し、2018年、株式会社AGEtechnologiesを創業。2020年、そうぞくドットコムの提供を開始。