ネット通販の需要を受け、物流業界はいよいよ存在感を高めている。令和3年の国土交通省「総合物流施策大綱」(2021〜2025年)は、喫緊の課題としてまずDXを挙げた。
株式会社サンシーアは、大手ポータルサイトの構築やIT業務支援などで発展してきたが、近年、独自の物流システムを開発した。その名はサンロジ(SunLOGI)。ECサイトに特化し、最先端の技術を駆使した管理の自在さとサービスの手厚さを誇る。
同社の望月社長は中国で生まれ、日本で起業したエンジニア経営者だ。その視線の先には、IT先進国に躍進する故郷、中国の物流最前線の風景が広がっている。望月氏に日本で起業した経緯、システム開発のきっかけ、展望などの話をうかがった。
技術先進国、日本の幸せな様子に魅了されて
ーー日本で起業された経緯を聞かせてください。
望月敏行:
中国・西安の情報処理の大学を出てNeuSoft社に入社しました。2000年、日本に出張し、その豊かさに驚きました。当時の日本は技術先進国で、食べ物も美味しいし、何よりみんながとても幸せな様子に見えたのです。
日本は良いな、ここで働いて勉強したいと思い、5年間だけのつもりで来日し、エンジニアとして日本最大手の中古車販売サイトのシステム構築などを手がけました。5年後に帰国して中国で会社をつくる予定でしたが、郷里の西安の土地柄ではまだ、私がやりたい事業は難しい予感がしたのです。それなら東京でつくってしまおう、失敗しても私と家族くらいは何とかやっていける、といった軽い気持ちで会社を始めました。
ところがいざ始めたらあっという間にスタッフが増え、とても悩みました。エンジニアと経営者の視点のギャップを痛感し、私に社長の力はないと思ったのです。しかし既に人はたくさん集まっており、もう責任をもって頑張るしかないと覚悟を決めて、経営について猛勉強しました。
スーパーマーケットが消えた中国の風景
ーー物流システムサンロジ(SunLOGI)開発のきっかけを教えてください。
望月敏行:
コロナ禍のあと、知人から空き倉庫の相談を受けたのをきっかけに物流に関心をもちました。その頃は注文管理と受注管理を合わせたシステムがほとんどなく、あったとしても使いにくかったのです。これは有望な分野だと感じ、試行錯誤で物流システムを作りました。サンロジは、ECサイトに特化して受注管理、在庫管理、入庫や出荷業務を統合して、強力に効率化できます。
中小企業の多くの倉庫はいまだに人が中心となって管理されています。モノの所在が社員の記憶頼りで、管理もしづらく発送ミスもある。しかも圧倒的な人材不足です。
一方で、中国の技術力はこの20年間で劇的に上がり、物流の徹底したIT化が進んだことで、リモートで何でも注文できるようになりました。
日本にはコンビニがありますが、中国ではその代わりあちこちに倉庫があります。生活用品から野菜、肉まで何でも注文でき、30分単位で指定できるのでふと気付いた買い忘れの品も、アプリで注文すれば30分以内で家に届きます。
こうした物流システムは日本ではまだ整備されていませんが、これが導入されれば物流のDXが加速し、効率化に貢献できるでしょう。今まで受託開発とSESを主にやっていた頃は、既存のお客さまからの受注が多く、新規顧客の獲得をそれほど意識してきませんでした。しかし、今後はより多くの方にサンロジを知っていただくために、営業を強化したいと思っています。
即戦力養成と資格取得で技を磨く
ーー人材育成についてはどのような考え・施策をお持ちでしょうか。
望月敏行:
人材育成には特に注力しており、新卒、もしくは中途の未経験者は入社後2ヶ月程度しっかり研修を受けてもらいます。サンスクールという法人向けのIT人材育成サービスを設けており、そこで難しい課題を出して、実際に開発まで行うのです。
個人差はありますが、これを修了すると半年後にはほとんどの仕事ができる状態になりますね。またこうした即戦力重視の研修以外に、資格取得を推奨しています。資格取得は仕事に必要な基礎知識が身につくだけでなく、どこへ行っても役立ちます。弊社は1年で昇給が2回あり、半年に1回は上司と部下が相談しながら目標をつくるのですが、資格取得や個人の努力もしっかり評価しています。
人柄としては、目標をもって粘り強く取り組む人、お客さまと信頼関係を作れる人といったところを重視しています。気持ちが落ち込んだときにリカバリーできるのも大切です。人生は悩みが多いですから、その壁を乗り越えるために気分転換してリカバリーし、お互いに粘り強く頑張っていけたらと思います。
編集後記
中国から来たひとりの青年は、幸せそうに見えた日本で長い修業期間を過ごし、日本企業への知見を深め続けた。さまざまな人や企業のニーズに目を凝らしてきた望月社長は、今、故郷・中国の躍進に注目し、物流の最先端サービスを逆に日本に活かす可能性を見ている。日本への洞察と深い知見をもとに、新たな物流システムで攻勢をかける望月社長は、これからも目標へ向けて粘り強く取り組み、着実に成果を得ていくだろう。
望月敏行/1975年中国・西安市生まれ。1998年中国⻄北⼤学コンピューターソフトウェア開発専⾨卒業、中国ソフトウェア企業NeuSoft⼊社。2005年に株式会社サンシーアを創業。2015年、慶應義塾⼤学⾼等経営学で学び、2017年清華⼤学MBA取得。「清華⼤学総裁校友会副会⻑」に任命されグローバルに活躍している。