※本ページ内の情報は2024年8月時点のものです。

1950年の創業以来、産業廃棄物の収集・活用事業を続けてきた株式会社TOAシブル。本社・工場を置くのは広大な工業団地を有し、産業都市として発展してきた千葉県八千代市だ。産業への思いや業界内でのポジションについて、代表取締役兼CEOの安池慎一郎氏に話をうかがった。

入社から社長就任まで――恩師と呼べる3代目との出会い

ーー社長就任までの経緯をお話しいただけますか。

安池慎一郎:
姉を通して当時の社長(3代目)からお声がけいただき、24歳の頃に営業職としてTOAシブルに入社しました。事業拡大のために若手が大量に採用された時期で、とにかく人手が足りず、一人で何役もこなしながら経験を積みました。

入社してから一度も会社を辞めたいと思ったことがなく、当初から「自分が社長になる」という不思議な感覚がありました。「社長になりたい」というよりも、憧れていた3代目のようになりたかったのかもしれません。本当に人としても社会人としても素敵な方でした。

ーー大切にしている考えを教えてください。

安池慎一郎:
3代目に教えられた「事上磨錬」という言葉は、私の座右の銘であり社訓です。「経験に勝るものはない」と考え、実体験をベースに己をブラッシュアップしています。成功も失敗もひっくるめて、経験から学びを得ることがとても大切です。社員には「一歩を踏み出す勇気を持とう」と伝えています。物事が上手くいかないときは、諦めるのではなく選択肢を見極めてほしい。そのためにも挑戦を恐れず経験値を積んでほしいと思います。

胸に秘めた覚悟――課題は産廃業界のイメージアップ

ーー大きなターニングポイントはありましたか?

安池慎一郎:
営業1年目に、許認可取得にあたって地域住民の同意許可を得る仕事を任されました。在宅中の方が多い夜8時頃に1軒ずつ訪問するのですが、話を聞いていただくことすら困難でした。当時は違法産廃業者による不法投棄が多く、「産業廃棄物処理会社=悪」というイメージがとても強かったのです。

当時は焼却炉を持つ民間企業は全国的にめずらしく、仕事は山のようにありました。工場周辺では搬入車両による待機渋滞が起こり、地域の方に迷惑をおかけしていたことも事実です。とはいえ私も若手だったので、世間からの認識には大きなショックを受けました。

ある時、学生時代の同級生に仕事を尋ねられたことがあり、「産廃処理の仕事をしている」と言えなかった自分が情けなく、「業界の現状を改善して世間に認められたい」と強く思いました。SDGsの時代となり、ようやくリサイクル業界にスポットが当てられています。各社が可能な範囲で自社をブランディングしていけば、業界内に優秀な人材が増え、さらなる好循環が生まれるでしょう。

回収だけにとどまらない廃棄物の活用・処理スキル

ーー改めて事業内容を教えてください。

安池慎一郎:
車のエンジンオイルを回収し、重油の代替品に再生する事業が弊社の始まりです。そのため「産廃処理」というより「リサイクル」の概念が強くあります。「焼却されるものに付加価値を付けたい」という考えから、油性廃棄物を再資源化した再生固形燃料「BWF」や「エマルジョン燃料」の製造をスタートしました。

焼却炉についても、燃焼過程で蒸気や電気を作り出す特別なプラントとなっています。「廃棄物を管理・有効活用できる」というブランド力と長年培ったノウハウや、ここ一番の社内の団結力が強みですね。関東の工業団地にアクセスしやすい地の利の良さと、各地の許認可施設と連携できる幅広いネットワークにより、お客様の困りごとに幅広く対応できています。

また、産業廃棄物という括(くく)りの中で、油に特化した企業は非常にニッチです。取り扱いが難しいため、大手が参入しづらいというメリットもあります。

未来へのステップ――燃料リサイクルの世界で「ものづくり」を続けるために

ーー今後の展望をお聞かせください。

安池慎一郎:
廃棄物を効率的に捌くという方向性ではなく、「ものづくりの会社」を謳うことで発想力を伸ばしています。新商品や新技術の開発においては、大学などの関連施設とも協力しています。日々の改善から生まれるものも含めて、お客様の幅広いニーズに応えられる資源作りを今後も続けていきたいと思います。また、業界全体のイメージアップのために、生産性の向上と働き方改革、女性が参画しやすい体制づくりも進めています。

弊社は「自然と共に生きる未来を創造する」という企業理念を掲げ、環境保全と再資源化にアプローチしています。民間組織は楽な方へ舵を切ることも可能ですが、次の世代に会社を託すべく100年企業を目指し、更なる高みを目指す志のもと、フレキシブルに活動を続けてまいります。

高いハードルを乗り越えて「信用と実力」が認められれば、持続可能な会社として社会を豊かにするPDCAを回していけるはずです。この業界のオンリーワンを目指し、さらに地元である八千代市への私なりの恩返しをしたいと思っています。

編集後記

産廃業界への偏見を目の当たりにし、不退転の覚悟とともに歩み続けてきた安池社長は仕事への誇りに満ちていた。創業70年以上という歴史を持ちながら、燃料リサイクル事業におけるマンネリ化とは無縁なTOAシブル。SDGsが注目される中で、業界が持つポテンシャルを今後も大いに発揮していくことだろう。

安池慎一郎/1966年、東京都生まれ。千葉大学卒業。1990年に株式会社TOAシブルに入社。営業本部長、取締役役員などを経て2018年、代表取締役兼CEOに就任。