※本ページ内の情報は2024年8月時点のものです。

日本演劇界の中で昨今、注目を集めているのが、「2.5次元ミュージカル」だ。日本の2次元のマンガやアニメ、ゲームを原作にした3次元の舞台コンテンツの総称で、舞台上で繰り広げられる物語は演劇ファンのみならず、原作ファンにも支持されている。

この「2.5次元ミュージカル」のトップランナーとして業界を牽引しているのが、株式会社ネルケプランニングだ。同社は『テニスの王子様』、「刀剣乱舞ONLINE」、『鬼滅の刃』などの人気コンテンツの舞台化を実現している。2024年10月には同社が携わる「進撃の巨人」-the Musical-がアメリカ・ニューヨークで公演されることが、すでに決定している。今回、社長の野上祥子氏が「2.5次元ミュージカル」と自社の未来を語った。

演劇一直線!原作への愛とリスペクトを込めた舞台づくり

ーー貴社との出会いを教えてください。

野上祥子:
私は小学生の頃から、「演劇で生きていく」と決めていました。中学・高校は演劇部。大学でも演劇を専攻し、並行して「カムカムミニキーナ」という劇団に入りました。その活動の中で出会ったのが、弊社のファウンダー(創業者)で演劇プロデューサーである松田誠です。松田からの誘いもあり、24歳でネルケプランニングに入社しました。

入社後はアニメのキャスティングを担当し、その後、1999年から2008年まで『週刊少年ジャンプ』で連載されていた『テニスの王子様』を舞台化したミュージカル『テニスの王子様』(通称・『テニミュ』)をはじめとする、舞台のキャスティングも手がけるようになりました。現在もプロデューサーとして、「2.5次元ミュージカル」を中心に、さまざまなジャンルの作品に携わっています。

ーー「2.5次元ミュージカル」が広がるきっかけは何でしたか。

野上祥子:
「2.5次元ミュージカル」が広がるきっかけとなったのは、やはり『テニミュ』です。2003年に初演され、今年で22年目を迎えます。

ーー『テニスの王子様』「刀剣乱舞 ONLINE」『鬼滅の刃』などの2次元コンテンツを舞台化するためのポイントは何でしょうか。

野上祥子:
原作へのリスペクトです。私たちは原作元から大切な作品をお預かりして舞台化しているので、私たちの解釈で原作を損なってはいけないと思っています。セリフや演出など、細部について、原作元の方々と対話し、承諾いただいた上で上演してきました。その上で、舞台化する意味でもある、演劇でしか表現できない魅力を織り込んでいます。

ーー社長でありながらプロデューサーでもあり、母親でもあるとうかがいました。

野上祥子:
社長に就いてからも、『テニミュ』には引き続き、プロデューサーとして参加しています。家では、常に子どもが求めていること、すべきことの一歩先を考えています。

お風呂の時間は何時がいいか、子どもに何を着せるか、何を食べたがっているのか。そんな日々の積み重ねが、最高の舞台をつくる思考の要素となり、お客様と同じ目線でつくるエンタメを生み出し、かゆいところに手が届くホスピタリティにつながっているのではないでしょうか。

加えて、社長に就任してからは、社員のみんなが進むべき方向に旗を立て、その後も旗を振り続けることを意識しています。社長に就任して忙しさは3倍になりましたけどね。笑

「好き」を持って対話できる人が理想

ーー採用について、求める人物像を教えてください。

野上祥子:
「好き」を持つ人です。演劇に限らず、旅行が好き、サッカーが好きなど、「好き」があれば何でも構いません。仕事をしていると、ときには失敗することもあるでしょう。しかし、元気の素となる「好き」があれば、また前を向けると思うのです。

そして、私たちがつくるエンターテインメントで、お客様に「観に行くために今日もがんばろう」「観て元気になった」と思っていただきたいので、お客様が「好き」に触れる瞬間を理解できることは重要ですね。

もう1つは、コミュニケーションが取れる人です。ありがたいことに「演劇が好き」「エンタメが好き」というたくさんの人が、弊社を志望してくださいます。作品づくりでは、その熱量を用い、さまざまなことを相手に向かって主張する必要がありますが、主張するだけでは作品をつくることはできません。クリエイターの方々の思いを、耳と心を使って受け止め、対話をすることが大切です。

採用時の最終面接は私が行うので、いつも「対話力」をチェックしています。思いの強さゆえ、主張に偏らず、興味を持って相手の話に耳を傾けられる方と共に作品をつくり出したいですね。

夢はネルケ劇場の所有。100年後にまで承継する企業を目指して

ーー今後の展望をお聞かせください。

野上祥子:
ネルケプランニングは、2024年で30周年を迎えました。

特にこの10年は、身近なマンガやアニメ、ゲームを題材にした作品を多く手掛けたことで、高尚なイメージが先行していた演劇鑑賞のハードルを低くすることに寄与できたのではないかと思っています。今後も演劇へのアクセスがもっと容易になるような、「演劇は楽しい」と思っていただける作品を提供していきたいですね。

海外のインバウンド、アウトバウンドにも注力していきます。インバウンドとしては、「2.5次元ミュージカル」が日本観光の定番になるとうれしいですね。観光と観光の間の短い時間で観ることができる作品を上演し、「2.5次元ミュージカル」にさらに興味を持ってもらいたいと考えています。アウトバウンドとしては、コロナ禍で制限されていた海外公演を再び積極的に行っていきたいですし、日本で弊社が制作した舞台作品をライセンスアウト(自社が有するIP(知的財産)やノウハウを他社に売却したり、使用を許諾したりすること)して、世界各国のカンパニーで上演するスキームもいつかは実現したいですね。

そして、劇場を所有するという夢もあります。常設公演が可能なネルケプランニング専用の劇場を持ちたいですね。劇場があれば常に様々な作品を発信していくことができ、その中に稽古場を設けることができれば作品の完成度をもっと上げることもできるでしょう。

ネルケプランニングは、主に演劇制作一筋で30年間、経営を維持してきました。その実績を掲げて企業としての価値を向上させることも目標としています。その結果、さまざまな企業様・団体様とのお取り引きが生じるので、ビジネスパートナーとしてふさわしいと感じてもらえるように、ガバナンスを強化していきます。他方、社員がさらに楽しく働けるように、良好な職場環境づくりにも取り組んでいきます。

今後、社員も増やし、演劇や「2.5次元ミュージカル」を未来に承継する「百年企業」を目指していきたいと思います。

編集後記

演劇や「2.5次元ミュージカル」への熱い思いがあふれ出し、「聞くことが大事といいながら、話しすぎてしまって」と笑う野上社長。2022年にスタートした「WELCOME KIDS PROJECT」で、子どもも観劇しやすい内容や、公演時間の調整に取り組むのも、演劇界を盛り上げたい一心からだろう。

好きなことを仕事にすることは難しいともいわれるが、野上社長の話をうかがって「好き」こそが仕事となり、また経営の力にもなると実感した。

野上祥子/大学在学中より劇団の制作を開始し、1998年、株式会社ネルケプランニングに入社。同社制作のすべての舞台およびTVアニメ、イベントなどのキャスティングを担い、幅広い作品づくりに貢献。2016年、代表取締役社長に就任。