
全国の人手不足に悩む地域の事業者と、旅をしながら働きたい人をマッチングするプラットフォーム「おてつたび」。このサービスの運営を行っているのが、株式会社おてつたびだ。「旅」をテーマに地域の課題解決に取り組んだきっかけや、過疎地が生き残る方法、人との出会いで生まれる相乗効果などについて、代表取締役の永岡里菜氏にうかがった。
「それ、どこ?」と言われてしまう町の魅力を伝えたいと起業を決意
ーーまずは永岡社長の経歴についてお聞かせください。
永岡里菜:
学生の頃は小学校教諭になりたいと思っていましたが、教育実習で大学を卒業したばかりの自分が教師として子どもたちに伝えられることの幅の狭さを痛感したのです。そこで、3年間は民間企業で働こうとキャリア変更しました。
裁量権を持って働けることと、企画・提案ができる仕事を軸にして、就職活動を始めました。そして、イベントの企画や制作を行うベンチャー企業に入社しました。10年前の当時は、私の周りにはベンチャー企業に就職する人は少なく、まだ珍しかったと思います。それでも世間の常識に合わせるよりも、自分の気持ちを優先しました。
ーー起業のきっかけは何だったのですか。
永岡里菜:
前職の仕事はとても楽しかったのですが、ふと「自分が人生をかけて成し遂げたいことは何だろう」と考えたのです。そこで、もっとお客様と直接触れ合える仕事がしたいと思い、地域活性化に取り組んでいる会社に転職しました。
その中で、私の地元である三重県の尾鷲(おわせ)市のように、魅力が伝わっていない町がたくさんあることに気付いたのです。こうした地域にスポットライトが当たる仕組みをつくりたいと思い、起業を決意しました。
地域の方と旅人との出会いで生まれる予想外の化学反応

ーー貴社の事業内容について教えてください。
永岡里菜:
弊社は旅をしながら働きたい方と、人手不足の宿泊施設や農家さんをマッチングするプラットフォーム「おてつたび」を運営しています。国内で旅行をする旅人にとっては、旅先でもアルバイト代を得られるため、旅費や交通費を気にせず気軽に旅ができるのがメリットです。このサービスを通じて、みなさんにあまり知られていない地域を訪れてもらうきっかけづくりを行っています。
地域の人手不足の解消と、その土地の魅力を知ってもらうことが目的のため、数日から最長2ヶ月間の中期プランを豊富にご用意しています。そのため、時間の融通が利きやすい大学生や転職期間中の方、フリーランスの方などに多くご利用いただいています。また、50~60代のプレシニア・シニア世代の方々の利用も広がっています。
現在は他の企業と連携し、限られた日数しか参加できない会社員向けの短期プログラムも考案しており、より多くの方が参加しやすい体制づくりに励んでいます。
ーーサービスを運営する中で印象に残っているエピソードはありますか。
永岡里菜:
長野県山ノ内町で行ったおてつたびの実証実験に参加した方の一言から、一大プロジェクトにつながったことがありました。その方は建築学部の学生で、「大学は座学ばかりで物足りない。実際に建物の建築に関わりたい」と話したそうです。
「すると地元の方が、「近くにある空き家で何か一緒にやってみないか」と声をかけてくれたんですよ。そこから話が広がり、空き家を活用したアイディアソンの開催に繋がったケースがありました。この話を聞き、人と人との出会いで化学反応が起き、それが大きな原動力になるのだと驚かされましたね。
人口減少が続く地域が生き残るカギは、人材確保の手段を複数持つこと
ーー受け入れ先ではどんな仕事が多いのですか?
永岡里菜:
農業などの一次産業や観光業が全体の8割を占めています。農家さんの場合、人手不足で収穫が間に合わず、出荷できずに食材をだめにしてしまうという悩みが増加しています。旅館やホテルの場合、空室があってもお客様の対応ができず、繁忙期に予約数を減らさざるを得ないケースが出ています。こうした特定の時期に人手が必要になります。
さらに最近では、アクティビティ施設や酒蔵でのお手伝い、雪かきや薪割りなど、仕事のバリエーションが増えてきていますね。
ーー提携先の開拓についてはどのようにお考えですか。
永岡里菜:
全国47都道府県に1700ヶ所の受け入れ先(2024年12月時点)はあるものの、現時点では参加希望者の方が多い状況です。日本には自治体が約1700、集落は8万ほどあるため、まだ受入先は足りておらず、もっと増やしたいと思っています。
地方の方からすると、外部から人が来ることへの抵抗感があるかもしれませんが、人口減少が避けられない中で、人材確保の選択肢を広げることで、地方が存続できる未来もあるのではと考えています。私たちが短期人材と出会えるプラットフォームを提供し、地域の人材不足解消や、地域のファンづくりに貢献したいと思っています。
社員とのつながりも大切に、地域の人と旅人にとってより良いサービスへ
ーー社員の採用についてはいかがですか。
永岡里菜:
サービス自体は認知されてきましたが、地域とつながるプラットフォームを0から自社で開発運営している点をアピールできていないのが課題です。今後はシステムエンジニアやデザイナー、プロダクトマネジャーの採用を強化したいと考えています。
求める人材は、弊社のビジョンに共感しつつ、この会社で実現したい目標を持っている人ですね。必ず達成したいという目標がある方は、つらい局面も乗り切れるでしょう。
ーー組織づくりの取り組みについて教えてください。
永岡里菜:
地域とのつながりをつくる会社として、社員同士のつながりも強化したいと思っています。人と人とが出会うおてつたびのサービスでは、お互いの価値観に触れることで新たなシナジーが生まれます。私たちもそれにならい、自分が大切にしている価値観を開示し、お互いに共感し、認めあえる組織づくりをしたいと考えています。
直近でも千葉の房総でオフサイトミーティングを行い、一人一人が大事にしている価値観や考え方を共有し合う場を設けました。これからも一緒に働く社員との縁を大切にし、お互いの価値観を共有していきたいですね。
ーー最後に今後の展望をお聞かせいただけますか。
永岡里菜:
有名な観光地も素敵ですが、私たちは地方にも日本ならではの文化や魅力が詰まっていると感じています。しかし、地方では少子高齢化が進み、人口減少が避けられない状況の中、移住者の奪い合いが起きています。
そこで私たちが目指しているのが、一人が一役ではなく二役・三役になりながら、地域外の方が助けてくれるエコシステムを作り、人材をシェアする世界の実現です。過疎化が進む町や集落をできるだけ多く、次の世代に残していきたいと思っています。
また、弊社のサービスの最大のメリットは、ユーザーが旅を楽しみながら、地域とのつながりができることです。ただ働くだけでなく、各地域の良いところを知ってもらい、素敵な人との出会いをつくるお手伝いができればと思っています。
編集後記
「旅を楽しみながらお手伝いをする」という、気軽な気持ちで地域貢献ができる新たなシステムをつくり出した永岡社長。この気軽さが多くのユーザーから支持され、新たな地方創生の動きが生まれているのだと感じた。地域貢献のカタチも、人材活用の方法も、決して一つではないことを教えていただいた。株式会社おてつたびはこれからも地域と人々の架け橋となり、地方が存続できる未来を紡いでいく。

永岡 里菜/1990年生まれ。三重県尾鷲市出身、愛知県育ち。2013年に千葉大学教育学部を卒業し、イベント企画・制作会社にディレクターとして入社。2016年に転職した企業で農林水産省との和食推進事業の立ち上げを経験。一見特長のない地域に人を呼ぶ仕組みを創りたいという思いから独立し、2018年に株式会社おてつたびを起業。お手伝いと旅を掛け合わせた人材マッチングサイト「おてつたび」を運営中。