1927年創業の株式会社オカダヤは、手芸用品やランジェリーの販売で、多くの店舗を構え、日本国内では都内を中心に親しまれている。
代表取締役社長を務める蛭川勝五氏に、これまでの取り組みや目指す会社の姿をうかがった。
ニッチな層も柔軟に取り入れて幅広い層に「刺さる」専門店を目指す
ーー入社までの経緯と印象に残った出来事を教えてください。
蛭川勝五:
大学卒業後、高島屋に入社しました。印象的だったのは、外商部に配属され富裕層のお客様に販売を行っていたときのことです。当時は「鉄道系百貨店」が商品を安い価格で販売していましたが、高島屋は同じような商品をほとんど割引することなく、お客さまから購入していただけていたのです。このときに「安いお店で購入せず、あえて信頼できるお店で購入する層がいる」ことを実感しました。
このような経験をしたことで、私はお客さまが満足を見出せるサービスを提供したいと考えるようになりました。安さだけを売りにする商売ではなく、人間関係を構築した方が、お店として長続きできるのではないかと考えるようになりました。
高島屋では5年間働いて、いろいろ学ばせていただいたので、家業である弊社に戻ることを決断しました。
ーー店舗を運営するうえで力を入れていることはありますか。
蛭川勝五:
豊富な品ぞろえです。専門店は一般的に「他のお店にはない商品が販売されているお店」というイメージがあるため、品ぞろえが少ないとお客さまの期待を裏切ってしまうことになります。
たとえば、コンビニは「売れ筋拡大、死筋排除」の原則を基本として、売れにくい商品は入れ替え、効率的に売り上げを最大化しているので無駄がありません。
一方、弊社の場合、「服飾手芸材料部門」では足を運んでくださったお客様の期待に応えられるように、年に2、3個しか売れない商品であっても需要があれば販売しています。特に新宿本店では、生地や洋裁道具などの一般的な手芸材料のほかに、ウィッグやメイク用品、羽根や舞台装飾雑貨まで、約20万点のアイテムを幅広く取り揃えています。
また、「ランジェリー部門」では競合他社に比べると、ランジェリーのサイズのバリエーションは弊社が一番多いでしょう。市場では展開が少ないサイズだと、選べるデザインも限られてしまいがちですが、弊社ではお客さまが商品選びを楽しめるように、幅広くサイズを展開をし、さまざまなデザインを取り揃えています。
ただの専門店ではなく、「刺さる人に刺さる」ような商品を取り扱っている専門店を目指し、お客さまとの関係性が長く続けられるように努めていきたいですね。
お客さまに丁寧に向き合える体制づくり
ーー人材育成で取り組んでいることを教えてください。
蛭川勝五:
人事評価制度は、社員の実績のみを評価するのではなく、フィードバックや面談などを行い、社員の成長につながる仕組みにしています。
評価のたびにフィードバックや面談を行えば、上司とそのチームのスタッフ間でコミュニケーションが取れて信頼関係が生まれるので、できる限り多くコミュニケーションの機会を設ける体制にしています。
ーー商品の販売で大切にしていることをお聞かせください。
蛭川勝五:
お客さまは欲しい商品を購入できれば満足できると思いますが、社員の接客対応が悪ければ不快な気持ちに転じてしまうため、接客サービスの質も重要です。
接客サービスはある一定以上のレベルに達していないと、お客さまに満足感を与えられません。そのため、従業員一人ひとりがお客さまに対して丁寧に接客できるように、指導しています。
たとえば、下着のジャストサイズについては、接客を通して丁寧にアドバイスできるように心がけています。下着の選び方は、学校や親から教えてもらうわけではありません。社員が選び方をレクチャーできるコンサルのような工程も大切にしています。
また、お店のレシートにQRコードがあり、アクセスしてアンケートに答えるとクーポンが発行される仕組みをつくりました。導入してから、お客さまのリアルな声が毎月400件前後届いています。
厳しい言葉をいただくこともありますが、中にはお褒めの言葉もあります。人は誰かから褒められたり、認められたりすると、モチベーションが上がるものです。こうしたお客さまの声を積極的に集め、社内ミーティングで共有しています。
「Goodな企業」として顧客との信頼関係を築く
ーー今後の展望を教えてください。
蛭川勝五:
「Big(ビッグ)」な企業ではなく「Good(グッド)」な企業を目指したいと思っています。良い企業を目指していれば、自然と店舗数が増えて売り上げが伸びるので、大企業になることは目標として定めていません。
お客さまと取引先、それぞれとの関係性を大切したいという思いが根本にあるので、これからも良好な関係の構築に注力していきたいと思っています。
編集後記
手芸用品やランジェリーの販売を通して、多くの顧客と信頼関係を築いてきた株式会社オカダヤ。これらの実績は、蛭川社長がコミュニケーションを重視しているからこそ獲得できたものだ。「信頼関係なくては企業の成長はない」という信念を持つ蛭川社長によって、今後も店舗数は拡大していくだろう。
蛭川勝五/1967年、東京都生まれ。慶應義塾大学法学部卒業後、1990年に株式会社高島屋に入社。婦人服売場・外商部を担当。1995年、株式会社オカダヤに入社後、手芸材料部門・ランジェリー部門を経て、2013年に代表取締役社長に就任。