食の多様化が進む中、ワイン業界においても顧客の期待とニーズに応えるためのさまざまなアイデアが進められている。その中で、株式会社フィラディスは、世界中からおいしいワインを輸入し、高価格帯ワイン市場において独自のビジネスモデルを確立。ワイン文化を日本に根付かせるために新たな風を巻き起こしている。
今回は、CEOの石田大八朗氏に、ワイン業界における挑戦とビジョン、社員の自己成長を促すための取り組みについてうかがった。
飲食店のアルバイト経験と飲料メーカーへの就職をきっかけにワインの世界の虜になる
ーーワインの世界に引き込まれていったきっかけを教えてください。
石田大八朗:
当時、小さな商売を営んでいた父親から「自分でビジネスをやってみたらどうか」という助言を受け、将来独立できるような仕事をしたいと考え、飲食業に興味を持ったことからアルバイトを始めました。
仕事を通して、飲食業に携わることが好きと感じたこともあり、独立を目指す最初のキャリアとして、某ビールメーカーの外食部門に就職しました。
その会社ではビールやウイスキーだけでなく、ワインに関する指導もあり、自分でも勉強を始めるとその奥深さに魅了されました。ワインの世界は非常に難解でしたが、「理解したい」という気持ちが芽生えたことを覚えています。
1年半ほど働いた後は、フランス料理店に転職しました。ソムリエとしての独立も考えましたが、最終的にはワインの流通に関わる仕事に就くことを決意しました。英語を学び、カリフォルニアのワイナリーで働き、イギリスでワインスクールに通った後にフランスでも働きつつ、ワインの各産地を訪問、そしてフィラディスを創業するに至ります。
高価格帯ワイン市場で展開するターゲット戦略
ーー日本においしいワインを流通させる戦略についてお聞かせください。
石田大八朗:
フィラディスのビジネスモデルは非常にシンプルで、世界中からおいしいワインを輸入し、日本で流通させることです。事業で取り扱っているワインは大きく分けて2つあります。ひとつは、「オールドビンテージワイン」であり、日本で最も多く流通させています。そして、もうひとつはいわゆる「クオリティーワイン」(※)の取り扱いを行っています。
(※)ワイナリーと正規代理店契約を結んで直接取引するワイン
ビンテージワインは、ワイナリーにはほとんど残っておらず、ヨーロッパの富裕層が所有しているワインコレクションやレストランの在庫などが売りに出されることで市場に出てきます。そうしたワインを専門的に扱う業者がいますので、彼らからの情報を収集し、将来を見越して買い付けをしています。
また、弊社ではクオリティーワインを呼んでいるワイナリーと直接取引するビジネスも行い、その数は200以上にのぼります。ワイナリーから直接輸入し、日本での流通やPRを行っています。事業の比率としては、オールドビンテージワインの輸入が全体の45%、ワイナリーとの直接取引が55%です。
フィラディスでは、高価格帯のワインの取り扱いが多く、ビンテージワインでは数百万円といったワインも少なくありません。ビンテージワインの平均単価は卸値で1万円を超えますし、ワイナリーと直接取引を行う正規代理店ワインも平均卸値は3000円から5000円ほどとなります。日本では1000円以下のワインが販売数の約8割を締めていることを考えると、非常に高価格帯であると言えるかと思います。
流通に関しては、主に高級レストランやホテルとの取引が多いですね。たとえば、都内の三ツ星レストラン12店中11店が弊社の顧客です。ビジネス開始時に会社を立ち上げた当初、高価なビンテージワインの取り扱いから開始したため、高級ホテルや有名レストランをターゲットに営業活動を行っていました。そこから顧客を広げ、今では非常に多くのお客さまとお取引をさせていただいております。
ーー強い組織づくりや、スタッフの育成に関して、具体的にどのような取り組みを行っていますか?
石田大八朗:
組織づくりにおいて最も重要なことは、ワインのプロフェッショナル集団をつくることだと感じています。これは設立当初からの目標です。各部門でそれぞれが専門性を持ち、とくにワインの知識に関しては、他の輸入業者と比較しても最も高いレベルの集団を目指しています。
社内には営業や買いつけ、PR、経理、システムといったさまざまな部署がありますが、すべての部門で独自の強みを持ち、他に負けないプロフェッショナルであってほしいと考えています。また、取り組みとして、社員が数多くのワインを試飲する機会を設け、実際のワインの味を理解し、高いレベルの知識を持てる体制を整えています。
資格面では、社員がワインスクールに通う費用や試験の費用を一部会社が負担しています。社員の6割以上がソムリエ系の資格を持ち、営業や買いつけに関わる部門では、資格保持者の割合が9割以上に達しています。
ワイン文化を広めるため、会社は変化し、成長を続ける
ーー現在取り組んでいることを教えてください。
石田大八朗:
ワイン文化を広げるためには、社内から活性化していく必要があるため、人材採用に力を入れています。現在は、採用を始めるにあたって、社内の意識改革も行い、社員同士が互いに認め合い、褒める文化をつくることで、若手人材が成長しやすい環境をつくっています。
売上や社員数は過去7年間で倍増しましたが、それでもマンパワーが不足している状況です。2030年までに売上200億円を目指しており、現在は100億円を中間目標としています。この目標は、持続的な成長を目指しながらも、ワイン文化を根付かせるための重要なステップと考えています。
編集後記
国内外のワイン業界でキャリアを積み、独自のビジネスモデルを構築した石田CEO。とくに「オールドビンテージワイン」と「クオリティーワイン」においては今後も市場として拡大を目指すという。
また、同社はオリジナルワインブランド「Becasue, ワインシリーズ」を展開しており、ワインの入門ブランドとして求めやすい価格帯、かつ直接産地に赴いて目利き力の高さを活かした品種など、数々のこだわりが見られる一品を提供している。さらなる成長と日本でのワイン文化の普及を目指すフィラディスの挑戦を応援し続けたい。
石田大八朗/1972年生まれ。都内フレンチレストランでソムリエとして勤務。その後、カリフォルニアのワイナリーにてワイン醸造を、ロンドン、パリでワインビジネスを学び、2001年に帰国。2003年、株式会社フィラディスを設立。