※本ページ内の情報は2024年8月時点のものです。

転職市場が盛り上がりを見せるなか、人材紹介会社の数は2022年度に28,470ヶ所まで増加している。ただ、思ったような人材を採用できない、自分に合った仕事が見つからないなど、多くの課題が残っている。

そんななか、企業と⼈材紹介会社の取引を効率化するBtoBプラットフォームを提供しているのが、circus株式会社だ。人材紹介プラットフォームをつくったきっかけや、新規事業の立ち上げを目的とした組織開発などについて、代表取締役の矢部貴志氏にうかがった。

採用企業と人材紹介会社をつなぐ人材紹介プラットフォームを構築

ーー貴社についてお聞かせください。

⽮部貴志:
弊社の事業領域は、⼀⾔でいうと、⼈材業界のビジネスインフラをつくり、⼈材業界のあらゆる負を効率化・最適化することです。そのひとつとして、企業と⼈材紹介会社の取引を効率化する⼈材紹介のBtoBプラットフォーム「circusAGENT」を運営しています。

これまでの⼈材紹介取引は、約3万社の⼈材紹介会社がそれぞれに営業活動を⾏い、商談を実施して、契約書を締結して、ようやく⼈材紹介の取引を始められました。また、⼿間をかけて取引を始めても、なかなか紹介が発⽣せずに、企業も⼈材紹介会社もお互いに無駄な⼯数で終わってしまうことも少なくありませんでした。

circusAGENTでは、求⼈企業はプラットフォーム上に求⼈を掲載するだけで、約1,000社5,500名を超える紹介実績豊富な⼈材紹介会社に⼀括で紹介依頼ができます。⼈材紹介会社は、⾃社で紹介先の企業開拓を⾏わなくても、掲載されている求⼈案件にすぐに⼈材を紹介することができるのです。

また、⾃動で蓄積された選考結果が⼈材紹介会社にフィードバックされるため、活⽤するほど紹介精度が上がり、企業と⼈材の効率的なマッチングが可能になります。

ーー貴社の強みについてお聞かせください。

⽮部貴志:
弊社の強みのひとつは、「ドメインエキスパート集団」であることだと思います。開発チームもビジネスチームも⼈材業界に特化して、そこだけを追求している強さは他社にはないと思います。

もうひとつは、⼈材業界のビジネスプラットフォームを提供することによって獲得できるアセットです。おかげさまでローンチから順調に拡⼤し、2019年のリリース以降、掲載求⼈数約45,000件、エージェント利⽤社数約1,000社、年間推薦数は約50万件に達し、業界トップクラスの実績を保有するプラットフォームへと成長してきました。

このプラットフォーム提供によって得られる顧客基盤、データ基盤、ブランドによって、次なるインフラサービスに展開できる点は、事業拡⼤において⼤きな強みだと考えています。

人材紹介事業の立ち上げ時に感じた業界の課題

ーー矢部社長が人材業界に入ったきっかけをお聞かせください。

矢部貴志:
学⽣の頃は、社会課題に対する⾼い意識や視座は特には持っていませんでした。ありとあらゆる経験が不⾜していたので、まずは厳しい環境に⾝を起きたいと思い、無形商材かつ新規開拓の法⼈営業、そしてネームバリューがない業界3位未満の会社、という軸で就活をしていました。

かつ、⾯接では「⼒を付けたらすぐに起業して辞めます」と⾔っていたので沢⼭落とされたのですが、そこで採⽤してもらえたのが、とある求⼈媒体企業でした。

働いているなかで、⼈材業界は⾮常に意義のある業界であると感じる⼀⽅で、属⼈化が強い部分、⾮効率な部分、本質的価値提供ができていない部分など、課題も多く⾒えてきました。

ーーその後、人材紹介のスタートアップの創業に参画していますね。

矢部貴志:
あえて厳しい職場を選んだものの、4年ほど経つとある程度仕事ができるようになり、成長を実感できなくなっていました。ちょうどそのとき、起業する同級生から誘われたので会社を辞めました。⽴ち上げに際し、⼈材紹介事業の責任者として参画することになりました。

ーーそこから今の会社を立ち上げるまでの経緯を教えてください。

矢部貴志:
当初は求職者に寄り添うエージェントを目指していましたが、売上や利益を追求するうちにビジョンから離れてしまいました。自分の仕事に自信が持てず、親友の転職相談も断るほどで、身近な人に勧められないサービスを提供していることに不甲斐なさを感じていました。そこで同業の先輩方に話を聞きに行くと、先輩方も同じ悩みを抱えていることが分かりました。

この利益を追求するとビジョンから離れてしまう問題は業界構造から⽣まれていると気付き、構造を変える必要性を感じました。そこで⼈材紹介プラットフォームを構想し、事業を推進するために起業しました。

業界のタブーに切り込み、同業同士が協力し合う仕組みを提供

ーー経営者として大切にしている考えを教えてください。

矢部貴志:
キーワードは「挑戦」と「共有」です。⾃分⾃⾝、常に新しく⾼い⽬標に挑み達成し続けることで成⻑してきました。この経験から、新しいことに挑戦し続けることに価値を感じています。

また、人材業界全体の質を高めるため、データの「共有」を重視してきました。これまでクローズドになっていた選考データをcircusAGENTでは⼈材紹介会社同⼠でオープン&シェアしており、マッチングの精度が格段に上がり効率的な採⽤活動につながっています。

既存の枠組みを壊す挑戦を続け、新しいビジネスインフラを創造することで業界の発展に貢献する、というのが弊社のアイデンティティとなっています。

ーー今後の事業展開について教えてください。

矢部貴志:
2024年末にβ版ローンチ予定のcircusHR βという新規サービスを準備しています。circusHRは採⽤⼈事向けサービスで、採⽤データを⼈事間でシェアすることで、より精度の⾼い採⽤戦略を⽴てられるようにするものです。たとえば採⽤活動における競合情報や、その企業の採⽤戦略や使⽤しているツールなどの情報を提供します。

これまで各企業内でクローズドになっていた⼈事採⽤情報をオープン&シェアすることで、より効果的な採⽤活動が可能になります。このように「挑戦と共有」というキーワードを軸に、今後もさまざまな事業展開をしていく予定です。

ーー働いている方々の特徴としてどのようなものがありますか。

矢部貴志:
それぞれのプロジェクトによって役割が異なるので、一言では表現しにくいのですが、共通点を挙げるとすれば、「人材業界やHR業界のインフラをつくりたい」というプロダクトへの愛が強い仲間がたくさんいます。あとは、とにかく「良いやつ」が多い、というのが共通点だと思っています。

組織力を強化し、HR領域のインフラメーカーを目指す

ーー今後の注力ポイントは何でしょうか。

矢部貴志:
採用と組織開発に注力したいと考えています。特に組織開発には4つのテーマを設定しています。

1つ目は、コモンセンス(共通認識)を持つこと。組織が大きくなると、目指しているゴールがあいまいになる傾向にあります。今後の事業や会社の未来について⾔語化・ビジュアル化することと、共通認識を持つための仕組み作りを強化していきます。

2つ目は、モチベーション。挑戦に必要な原動力を育てる仕組みをつくっていきます。⼈によってモチベーションはさまざまだと思います。世の中を変⾰したい、お客様に価値貢献したい、キャリアビジョンを実現したい、などの多様なモチベーションの源泉となる環境を構築していきます。

3つ目は「チャレンジ&エラー」。私⾃⾝、経営を始めてから新たなチャレンジと失敗の連続でした。失敗を経て⼈は成⻑していくものと考えています。そのため、新規事業や未経験の業務に積極的に挑戦する機会を設け、失敗を共有し合いながら成長していく環境をつくります。

最後に、スキルアップです。挑戦を成功させるための成長支援を行います。成⻑環境として重要な要素は、業界や業務知識などのインプット、課題点を明確にする上司やお客様からのフィードバック環境、同じ業務をする仲間同⼠での成功体験や困っていることの情報シェア環境。この3つの成長環境を整えていきます。

ーー最後に今後の展望をお聞かせください。

矢部貴志:
少⼦⾼齢化が進む⽇本において、限られた⼈的資本を最⼤限に活⽤することは極めて重要です。今までは⼈材紹介会社に特化したサービスを展開してきましたが、今後は範囲を広げてHR領域全体にサービスを広げ、2030年までに10個の新規事業を⽣み出したいと考えています。HR領域のビジネスインフラメーカーとして、社会全体の⽣産性向上に寄与することを⽬指しています。

編集後記

インタビュー後に社員の方々から「矢部社長をリスペクトしている社員が多い」「社長の力になりたいというモチベーションで働いている」という話を聞いた。自分の利益のためではなく、業界の課題解決のためにチャレンジを続けてきた矢部社長だからこそ、人望が厚いのだと感じた。人材紹介会社をつなぎ、企業や求職者の可能性を広げるcircus株式会社は、就職・転職市場に大きな変革をもたらすことだろう。

矢部貴志/慶應義塾大学総合政策学部を卒業後、株式会社キャリアデザインセンターに入社。法人営業を経て、RPO型採用支援チームおよび新規サービスの立ち上げに従事。その後、人材紹介事業を中心としたスタートアップの創業に参画し、ゼロから人材紹介事業の立ち上げに携わる中で、日本の転職業界の構造的問題に直面。日本のHRサービスの不和を解決すべく、2017年にcircus株式会社を創業。