※本ページ内の情報は2024年8月時点のものです。

エコサイクル株式会社は、バイオを利用した土壌浄化技術を持つ企業だ。土壌浄化には、どのような技術が使われているのか。また、限られた業界で、どのように他社との差別化を図っているのか。同社の技術と強み、今後の展開について、代表取締役社長のシュリハリ・チャンドラガトギ氏にお話をうかがった。

技術と情熱の融合

ーー社長就任までの経緯を聞かせてください。

シュリハリ・チャンドラガトギ:
私は、1998年に来日してから土壌の微生物について研究しています。インドで博士号を取った後、千葉大学の研究者と共同研究を行うことになったためです。研究員を経て、セーフテクノ株式会社に入社し、その数か月後にエコサイクル株式会社に移籍しました。

分社したばかりのエコサイクル株式会社で、私は土壌の浄化技術の開発を行いました。当初は人数も少なかったため、営業や現場での設計も私が担当していましたが、2006年に代表取締役社長に就任しました。

ーー社長になって苦労したのは、どの時期ですか?

シュリハリ・チャンドラガトギ:
私が社長に就任した時、会社は赤字でした。就任後は赤字を出していないのですが、立て直しからのスタートは大変でしたね。技術には自信があり、現場でも結果を出していたので、粘り強い営業を続けて業績を回復させました。

地球の未来を守るため、革新的な原位置浄化技術で環境保全の先端を行く

ーー貴社はどのような事業を展開していますか?

シュリハリ・チャンドラガトギ:
土壌の浄化を行っています。製造業ではさまざまな化学薬品が使用されており、これらが土壌や地下水にしみ込むと汚染が広がり、人に被害が出てしまいます。

日本では2002年に土壌汚染対策法が制定されましたが、それ以前に甘い規制のもとで使用された化学薬品は土壌に残っており、その後に排出されたものについても適切に管理し、浄化をしていく必要があるのです。

ーー貴社の技術面での強みは、どのような点にありますか?

シュリハリ・チャンドラガトギ:
弊社の土壌浄化は、汚染された土壌を掘削して運び出すのではなく、「原位置浄化」といって、その場で浄化するのが特徴です。この原位置浄化のメリットは4つあります。

1つ目は、土壌を運び出す場合に比べて、コストを2分の1から3分の1程度に抑えられることです。2つ目は、汚染された土壌を外に広げないことです。3つ目は、稼働中の工場でも浄化が可能であることです。そして4つ目は、重機による掘削や遠距離の運搬で発生するCO2(二酸化炭素)を大幅に削減できることですね。

原位置浄化の中でも弊社が得意なのは、自社開発の「バイオレメディエーション」という技術で、これは環境大臣賞も受賞しました。汚染された土壌に自然に存在する微生物のうち役立つものを育て、有害物質分解を促進して浄化します。放っておけば浄化に長期間かかる土壌が、この方法を使えば1年以内に浄化できるのです。

ーー事業全体の強みは、どのようなところにありますか?

シュリハリ・チャンドラガトギ:
弊社は複数の工法を持っており、お客様の優先事項によって工法を組み合わせて対応することが可能です。

また、土壌汚染に関して、調査から浄化、行政対応までワンストップで対応できることは、業界では珍しく、それが大きな強みですね。その中でも特に、自社技術があるというのは珍しいと思います。

弊社には工場と技術研究所があり、新技術の開発や浄化剤の製造を自社で行っています。技術、製造、現場の施工をすべて自社で行っている企業は他にはほとんど存在しないでしょう。

次世代を導くチームの力と中間管理職の強化

ーー組織体制について、現在、取り組んでいることを教えてください。

シュリハリ・チャンドラガトギ:
現在、力を入れているのは、中間管理職の強化です。以前は私が直接指示を出すことが多かったのですが、チーム制を導入し、選出されたチーム長を責任者に据え、自分で考えて行動するように促しています。部長だけでなく、中間管理職にもある程度の権限を与えて、組織としての形をより明確にしていきたいですね。

ーー人材採用に関しては、どのような考えをお持ちですか?

シュリハリ・チャンドラガトギ:
弊社がもっとも重視するのはチームワークです。また、これからは提案力も必要になるでしょう。組織の拡大に伴い、トップダウンだけでなく、ボトムアップも取り入れていきたいですね。経営者として大きな方向性は示しますが、具体的な方法は一人ひとりが能力を発揮できるように提案してほしいと考えています。

次世代の環境浄化へ向けた技術とPFASへの対応

ーー近い将来、どのような技術を開発する予定でしょうか?

シュリハリ・チャンドラガトギ:
まず1つ目は、浄化を迅速に行う技術ですね。バイオの育成にはどうしても時間がかかってしまうため、さまざまな工法を組み合わせて浄化の速度を向上させる研究を進めていきます。

もう1つは、PFAS(ピーファス)(※1)への対応です。「弊社では何ができるか」ということを探りながら、海外との技術協力に向けて現在はアメリカやオーストラリアの企業と話を進めているところです。

(※1)PFAS:有機フッ素化合物。フライパンや包装資材など、さまざまな製品に使用されるが、自然に還らず土や水に蓄積し、人への毒性もあることがわかってきたため、使用規制に加え、蓄積・汚染への対応が課題となっている。

編集後記

技術についても研究についても話を聞く中で、少しだけシュリハリ・チャンドラガトギ代表取締役社長の研究者魂に触れることができた。ビジネスの世界のみを知る生えぬきの経営者とは一味違う、研究開発を理解する経営者のもとで、エコサイクル株式会社は今後も新たな土壌の課題を解決していくに違いない。まずはPFASに対してどのような策が打ち出されるのかを含め、同社の今後の展開が楽しみだ。

シュリハリ・チャンドラガトギ/インド出身。1997年、インドダラワード農業大学微生物学部博士課程修了後、同大学エネルギーセンター研究員を経て、2000年、千葉大学園芸学部土壌学研究室の研究生となる。同年、セーフテクノ株式会社に入社。同社より分社した関係会社であるエコサイクル株式会社にバイオ技術開発部マネージャーとして異動し、2006年に代表取締役社長に就任。