2024年3月に東証スタンダード市場に上場した美濃窯業株式会社は創業100年を超える老舗セラミックス総合メーカーとして、耐火物・セラミックス全般の分野で世界品質の製品を提供するなど、幅広い事業を展開している。代表取締役社長の太田滋俊氏に、事業内容の変遷や今後の展望についてうかがった。
耐火物・鉄鋼業界の変化の中、ニッチ分野で輝く企業へ
ーー太田社長のご経歴と事業内容をうかがえますか。
太田滋俊:
祖父が創業した美濃窯業において私は3代目にあたります。大学院でセラミックス工学を専攻したことから、1980年の修了と同時に家業に入りました。弊社は耐火レンガや陶磁器のメーカーとして成長し、現在はセメント・石灰業界を中心に耐火物を提供しています。
セラミックスの中でも、酸化物および非酸化物を使った、超高温に耐える「耐火物」は、セメント、石灰以外にも非鉄金属、環境・再生可能エネルギー、鉄鋼、ガラス、化学、電子製品など用途が多岐にわたります。
ーー現在のような事業内容に至るまでにはどのような背景があったのでしょうか?
太田滋俊:
耐火物が最も使われるのは鉄鋼業ですが、粗鋼の生産量は1975年頃がピークでした。その流れで弊社は鉄鋼耐火物から離れ、セメント用耐火物中心という特殊なポジションを確立したのです。耐火物の8割は鉄鋼需要であり、弊社が供給している「セメント」の分野は総需要の約5%と大変ニッチなマーケットです。「セメント用途を中心にする」というのは会社の強みになりました。
しかし、1990年代後半から国内セメント製品の需要が落ち、技術革新によって耐火物全体の使用量が減り続けています。建設業界の「人手不足」も無視できない日本の課題です。資材価格の高騰、人口減少に伴う労働力不足や働き方改革等により着工が進まず、セメントの需要も減るという悪循環があります。
ーー耐火物業界の今後はどのようにお考えですか。
太田滋俊:
国内での耐火物の市場規模は年間2000億円前後に留まっており、大手2社の売上比率は海外向け事業がメインとなりつつあります。国内の鉄鋼生産量も減少する見通しから、耐火物業界では海外進出を成長戦略とする企業が増えました。鉄鋼業界が一番注目している国は、人口増加と経済成長の影響で鉄鋼需要が伸びているインドです。
耐火物だけでは国内の売上が望めない状況で、弊社は競合がいない設備部門と道路舗装材に目をつけ、それらの事業を強化してきました。
海外輸出時代からの大転換――東証上場のきっかけ
ーー企業最大の転換期はいつ頃でしょうか?
太田滋俊:
国内に競合が多かった1960年代に、トルコ、ミャンマー、イラン、フィリピン、タイなど海外へ耐火物製造設備やセラミックス製品製造設備を輸出し始めました。中国が同分野の技術を高めたことでニーズがなくなり、私たちは2000年を境に設備輸出を終了します。その後はターゲットを国内に戻して、ファインセラミックス(ニューセラミックス)用の製造設備に着目し、新たな柱としました。
その頃はリーマン・ショックを経て、会社を組み立て直した時期でもあります。2016年頃に社外監査役を迎え、様々なご指導を頂いたことがきっかけとなり生産性改善や利益率の上昇につながり、東証上場を目指すきっかけにもなりました。もともと名証(名古屋証券取引所)には上場していたのですが、さらに知名度が上がることで会社にいい緊張感が生まれ、成長に結びついたと思います。
耐火物のノウハウと発想力を活かし、未来を切り開く
ーー今後の展望をお聞かせください。
太田滋俊:
海外との取引を増やすことは目標の一つですが、耐火物の市場は世界的にも飽和しています。中国は鉄やセメントの生産量が世界一ですが、過剰供給という実態もあり、中国国内で需要が落ち着くと世界的に市場が縮む構図に陥っているのです。
そこで弊社は「耐火物メーカーでかつ焼成設備メーカーという特異なポジションを生かし、他社に真似のできない高性能な設備を提供する」ことで伝統産業であるセメント向け耐火物供給と成長産業である半導体製造・試験装置向けファインセラミックス焼成炉の双方で成長するビジネスモデルを追求しています。
2021年にはロータリーキルンを製造する岩佐機械工業株式会社を子会社化しました。ロータリーキルンは原料を加熱処理する回転式の窯のことで、磁石の原料製造や活性炭の製造、リサイクル用途などで活躍しています。
従来の焼成設備に加えてロータリーキルンの販売とその設備に使用する耐火物交換需要にも対応する体制を整えました。また、ごみ焼却炉などの環境装置への需要の増加に伴い、化学的侵食に強い耐火物材料を生産することができることも特徴です。既存の知識・技術・マンパワー・設備を活かして、従来の耐火物需要とは異なる新たな用途と新規販路の開拓を今後の方針としています。
ーー最後に、日常で触れられる貴社の製品について教えてください。
太田滋俊:
半導体・電子部品だけでなく、道路用の舗装材料にもセラミックスが多く使われています。2020年の東京オリンピックでは、マラソン選手のために輻射熱(放射熱)を下げる舗装を行いました。新幹線のプラットフォームも、セラミックスを合成することでキャスターの音が響きにくく、雨でスリップしにくい造りになっています。
海外では、セラミックス素材が防弾チョッキなどの軍事用途にも多く使用されています。弊社は同じセラミックス素材の特殊な製法を開発し特許も取得しましたが、日本の市場性に合わせて、その性質と製法を生かし高性能スピーカーやイヤフォンの振動版などの民生用途開発を進めています。
「原料を固めて焼く」という意味で、耐火物とセラミックスの作り方は基本的に同じです。一つの材料がいろいろな可能性を秘めているので、これからも自由な発想で事業を拡大したいと思います。
編集後記
耐火物業界で独自のポジションを築き上げた美濃窯業は、「専門性の高さ」と「事業の柔軟性」という表面上相反する特性を活かし続けたからこそ、セラミックス・耐火物の分野で突出した総合メーカーとなったのだろう。市場の変化に動じない老舗の風格が心強い。
太田滋俊/1951年生まれ。1974年、成蹊大学工学部工業化学科を卒業。1976年、成蹊大学大学院工学研究科修士課程を修了。1980年、東京工業大学大学院総合理工学専攻博士課程を修了。同年、美濃窯業株式会社に入社。取締役企画担当、常務取締役技術担当、専務取締役営業・生産担当を歴任し、1999年に代表取締役社長に就任。