1969年創業の教育開発出版株式会社は、学習塾向け教材を手掛ける出版社だ。学習塾の講師の間で高い知名度を誇る『新中学問題集』シリーズは、塾の講師たちの声を反映した教材としてロングセラーとなっている。
2000年以降、いち早くデジタル教材にも着目するなど、現場の声、時代のニーズと変化を常にキャッチし続けてきた。営業からの叩き上げで、2019年、代表取締役に就任した糸井幸男氏に、成長戦略や経営者としての思いをうかがった。
営業からの叩き上げで経営者に。革新的マインドが今をつくる
ーー新卒で入社してから意識して取り組んだことを教えてください。
糸井幸男:
新卒入社の頃はとくに教育に興味があったわけではなく、たまたま出版社を目指していたら縁があったのが弊社でした。
営業として現場を飛び回っていた頃は、教材のスペックではなく、どうやれば弊社の教材を活用して生徒さんの成績向上に結びつけるかというストーリーを伝えることを意識していました。
ーー教育開発出版の営業やマーケティングの特徴は何ですか?
糸井幸男:
弊社の事業は、自分たちが作成した教材を学習塾向けに販売しています。そのため、お客さまがほしい教材を企画して、実際に自社でつくって提供できるのが特徴ですね。
全国47都道府県には、それぞれの地域のトップ学習塾が存在しているので、学習塾業界には地域特性が強くあります。ですから、教材の内容や使い方も、お客さまと学習塾の教育方針に合わせて地域ごとに変えられるように提案することが大切だと思っています。
弊社は書店や取次店を介さずに、学習塾に直で教材を販売する直接販売という手法を採用しています。塾の先生とFace to Faceで話ができるので、「この部分を●●のように変えてほしい」といった、現場の細やかな要望にお応えできるのが弊社の強みです。なお、カリキュラムの順番などについても、柔軟に変えられます。
ーーオンリーワンの教材をつくるスタイルは業界でも革新的だったのではないでしょうか。
糸井幸男:
創業から55年の間、弊社は常に、革新を軸に挑戦を続けています。今ではダイレクトマーケティングで教材を販売する競合他社も出てきましたが、学習塾別に教材をカスタマイズする手法のは弊社が先駆けです。
創業以来、革新を続けてきた企業姿勢は弊社の「資産」です。近年は学習塾だけでなく、全国の学校や1,700程ある自治体の方々のもとに足を運び、ビジネスネットワークを拡げております。
危機感や逆境こそが、成長を支える原動力に変わる
ーー時代とともに戦略を変えることもあるのでしょうか。
糸井幸男:
教育業界にはトレンドがあります。1980年代は入試に合格するための「点をとること」に重点を置いた教育が主流でした。これが時代とともに少しずつ変化して、思考力や判断力、表現力も重視するようになっています。
英語であれば、コミュニケーション能力などにも重きを置くようになり、知識技能を実社会で活かす実践的能力の開発が現在のトレンドと言えます。こうした社会や文部科学省の方針の変化に合わせて、教材を変える努力をしなくてはなりません。
また、少子化によって、市場が縮小しているのが教育業界の実情です。実際のところ、学習塾にとどまらない新たなマーケットの開拓に苦労しているので、開拓に向けたイノベーションツールの開発は、業界で生き残るために必要だと考えています。
ーー逆境が成長を支える力になっているということですね。
糸井幸男:
私は自分で仕事をつくり上げることが非常に楽しいと感じるタイプです。チームで数字を上げるために工夫を続けていくことにも喜びを感じるようになり、「もっと会社を面白くしたい」と思っています。そういう観点からすると、確かに逆境がモチベーションにつながっているのかもしれません。
業界が縮小していく中で、私たちが少しでも民間教育の現場を活性化することに貢献できたらうれしいと思っています。
ーー経営者として心がけていることを教えてください。
糸井幸男:
弊社は創業してから黒字経営を継続していますが、常に革新を続けなければ、企業は存続できません。今、日本の学齢人口は減少しているので、私たちは常に危機感を抱き、挑戦を続けなければいけないと思っています。
このような時代背景を踏まえて、市場開拓への挑戦と革新的な教材の開発を目指して、私は社員に対し、「クリエイティブで挑戦的な仕事をしよう」と声をかけています。
今ある市場で勝負するのではなく、新たな市場をつくるイノベーションを
ーー少子化が進む中で業績を向上させ続けている秘訣は何ですか?
糸井幸男:
おかげさまで2023年には過去最高の売上高を記録しました。この要因として挙げられるのが、DXの波にうまく乗れたことだと思います。
コロナ禍で学校の授業を家庭で受けることが珍しいことでなく、普通のことになりました。こうした教育業界の大きな変化をチャンスに変えなければいけないと思い、私たちもDXにかなり力を入れています。たとえマーケット環境が厳しくても、クリエイティブな仕事に挑戦し続ければ、活路は開けるでしょう。
ーー今後の展望についてお聞かせください。
糸井幸男:
デジタル教材の導入やIT活用については、学習塾だけでなく学校教育の現場でも避けて通れないので、DXには引き続き力を入れていきます。
今後の学習塾の役割は、勉強を教えることはもちろん、子どもたちの自己肯定感を高めたり、背中を押したりする役目もあるのではないかと感じています。DXと同時に、生徒の成績管理や学力を伸ばすための学習アドバイス、メンター的な役割を果たす機能として学習塾が存在する道もあるのではないかと、社会に対して提案してみたいですね。
メタバースを使った展示会や、学習塾に通えない地域向けのオンライン学習塾など、まだまだ挑戦できることがたくさんあります。全国に5万軒あると言われている学習塾のうち、3万軒近くが個人経営の塾と言われています。DXに対応した教材の開発によって個人塾から大手塾、業界全体の活性化の応援をしたいと考えています。若い方々が学習塾を起業したい!と思う世の中になれば最高ですね。
また、学習塾マーケットが縮小しているとはいえ、塾に通っていない子どもたちは学齢人口の半数ほどいると言われているので、家庭学習向けのオンライン学習コンテンツのニーズが伸びるかもしれません。イノベーターマインドを常に忘れず、挑戦を続けていきます。
編集後記
少子高齢化が進む中、学習塾や教育産業は右肩下がりと考えている人も多い中、「今こそチャンス」ととらえる糸井社長。「クリエイティブに、そしてイノベーティブに仕事をするからこそ面白い」。そんな力強い糸井社長の言葉から、教育開発出版株式会社の生み出す未来に期待する気持ちが、自然と湧き上がってきた。
糸井幸男/1960年、愛知県生まれ。早稲田大学卒業。1985年、教育開発出版株式会社に入社。1991年に東京北営業所の所長に就任。2007年、取締役営業本部長に就任。2016年、専務取締役、営業本部長に就任。2019年、代表取締役に就任。