※本ページ内の情報は2024年8月時点のものです。

株式会社矢野経済研究所(代表取締役社長:水越孝)によれば、2022年度の低温物流市場規模は、日系低温物流事業者の国内における販売高ベースで前年度比3.6%増の1兆7724億円。低温物流市場規模拡大の一因として、冷凍冷蔵倉庫の所管容積の増加に伴う収容能力の拡大が挙げられている。

1956年に創業した株式会社福岡運輸ホールディングス(福岡市)は、全国にネットワークを構築して定温物流を手がけるエキスパート企業。昭和中期という早い段階で冷凍・冷蔵温度帯での輸送をスタートした、その道のパイオニアでもある。

とりわけこの10年はМ&Aや物流センターの新設を活発化させ、成長戦略を進める動きが顕著になっている。2012年から同社のかじ取りを担う代表取締役社長の富永泰輔氏に、プロフィールや経営方針について聞いた。

入社当初から経営者になる覚悟を決めていた

ーー貴社に入社した経緯を教えてください。

富永泰輔:
大学3年生頃に就職活動を始めた時、色々な方に、進路について相談していました。その際、私が小さい時に父が亡くなっていることもあり、「すぐに福岡運輸株式会社に入社したほうがいい」というアドバイスを多くの方からいただいたのです。このこともきっかけとなり、最終的に他の企業に就職することは選ばず、弊社に入社する道を選択しました。

ーー入社後は、どのようなことを経験しましたか?

富永泰輔:
入社当時から、弊社にとって一番大きなマーケットがあり、業務の中心地だった関東エリアでの就業を希望し、経験を積んでいきました。

具体的には、神奈川県川崎市に配属となり、最初の1年は配車の仕事を担当。その後は営業など、さまざまな業務に従事しました。

さらに経験の幅を広げたいと思い、海外へ1年間、修業に出ました。帰国後には以前から関心を抱いていた政治家秘書の仕事も経験し、30歳で再び弊社に戻りました。

ーー入社時から会社を継ぐ意思はありましたか?

富永泰輔:
大学卒業前は必ずしも後を継ぐと決めていたわけではありませんが、入社した時には事業承継はしっかり意識していました。

これは決して私だけが決めることではないのですが、「いずれは自分がトップとなって会社を経営していく、引っぱっていくぞ」という覚悟と責任感を持って仕事に臨んできました。

定温物流のアドバンテージを生かして成長を築く

ーー貴社の強みを教えてください。

富永泰輔:
物流業界は競争過多の「レッドオーシャン」といわれながらも、冷凍と冷蔵温度帯の物流を手がける会社はそれほど多くはありません。広い物流業界の中では単純にプレイヤーが少ないという意味で、アドバンテージがあります。

とりわけ全国的にネットワーク化し、お客様に対して柔軟にサービスを提供して、ニーズに沿った定温物流を実現することでさらに差別化を図っていきたいと思います。

大きなセールスポイントのもう1つは、弊社グループが成長を続けているという点です。古い歴史を持ち、数多くの企業が存在する物流業界の中で成長し続けているということは、働く方にとっても非常に重要なことだと考えています。

また企業目標として私たちは「社会に役立つ事業を行い、社会的に重要度の高い仕事をする」ということを掲げています。そして実際に、私たちのサービスは社会的に必要性が極めて高いと感じています。

創業時代から手がけてきた定温物流のパイオニア企業として価値のある事業活動に取り組み、ますます魅力的な企業となるよう、私たちは努力を惜しみません。

物流センターとM&Aへの投資で、物流ネットワークを拡張する

ーー人事面ではどのような考えをお持ちでしょうか。

富永泰輔:
人と会社とどちらが大切かと聞かれれば、「人より会社が大切なことはない」と迷わず答えます。

経営上の課題となってくるのはなんといっても人材です。弊社の場合、食品流通を担っているので、24時間稼働している必要があります。社会意義の高い仕事を任されている代償となる部分かもしれません。

2024年問題(労働時間が制限されることにより、荷物の量の削減や売上・利益の減少、ドライバーの収入の減少、担い手不足などが懸念されていること)下の現在、1人の負担を減らすためにも、労働力を補強し、人材強化を重要項目として取り組んでいることは言うまでもありません。

ーー佐賀県鳥栖市に物流センターを新設しているとお聞きしましたが、その狙いは何でしょうか?

富永泰輔:
物流センターも、この10年間でみると、年1件に近いペースでオープンしています。最近は南九州と大阪にも開設し、鳥栖市の大型物流センターは、つい先日、竣工式を執り行ったばかりです。

当然ですが、センターへの投資には根拠があります。1ヵ所に物量が増えると自然とネットワーク上の他地域にも増えることになり、たとえばセンターを九州にだけつくって大阪につくらなければ、物流が停滞してしまいます。全国津々浦々に循環させていくために、しっかりセンターへの投資をしていく構えです。

今後の経営方針としても、グループの成長戦略の1つとしても、M&Aを掲げています。2016年からM&Aをスタートして以来、およそ年1回のハイペースで合併を進めてきました。今後ともタイミングよく、いい出合いがあれば、積極的に実施していく方針です。

編集後記

大学を卒業して他社に勤めることなく実家が経営する会社に就職しているように、創業家に生まれた人物として創業者へのリスペクトが強く、愛社精神にあふれている富永社長。エリアを代表する定温物流企業として、株式会社福岡運輸ホールディングスが今後どれだけの成長を遂げるのか、期待して動向を追っていきたい。

富永泰輔/1974年生まれ。1998年、東京大学経済学部を卒業後、福岡運輸株式会社に入社。2007年に常務取締役、2009年に専務取締役、2012年に代表取締役社長に就任。2013年、株式会社福岡運輸ホールディングスの代表取締役社長に就任。