株式会社矢野経済研究所(代表取締役社長:水越孝)によれば、2022年度の自然派・オーガニック化粧品市場は、ブランドメーカー出荷金額ベースで前年度比105.5%の1,733億円と推計され、年々増加傾向にある。この背景としては、SDGsやサステナブルといった環境保全への関心の高まりなどが挙げられている。
しかし、環境への配慮と美しさの追求を両立させる取り組みは、こうしたトレンドが顕在化する以前から始まっていた。その先駆者の一人が、株式会社Beの代表取締役、稲垣大輔氏だ。オーガニックにこだわった高品質な製品を提供し続ける稲垣氏の話をうかがった。
自身の体験から未経験分野でのブランド立ち上げへ
ーー創業のきっかけを教えてください。
稲垣大輔:
18歳で実家を出て、20歳ごろ、大人になってからアトピー性皮膚炎を発症しました。私の母は健康マニアで、小さい頃から食べるものやサプリメント、日用品にもこだわっていました。実家にいるときは健康体だったのですが、実家を出て自分で食べるものやスキンケアを選ぶようになるとアトピーになった上に、体調も崩しがちになったのです。
ーーそこからどのように会社設立に至ったのでしょうか?
稲垣大輔:
アトピーになった経験から、体に良くておしゃれで手にとると気分が上がるようなものを使いたいと思ったのです。しかし、当時はそのような商品が少なく、自分でつくろうと思い、2017年に会社を設立しました。
もともと、自動車会社のエンジニアからキャリアをスタートして、その後、イベント会社を経営していました。美容業界のことをほとんど知らない状況からのスタートだったので、情熱と仕事量で何とか目標を達成しようと必死でしたね。そのときから、「目の前の人に喜んでもらいたい」という心構えを大事にしています。
国産×オーガニックで日本の美しい景色を守る
ーー事業内容について教えてください。
稲垣大輔:
「スキンケア」と、サプリメントなどの「インナーケア」、双方の商品の製造・販売をしています。工場に商品の製造を依頼して販売したり、百貨店さんなどに卸したりしていますね。
弊社では、会社名と同じ『Be』というブランドを国内で展開している以外にも、海外の3つのオーガニックブランドなどを輸入して、日本で販売しています。
大切にしているのは、内側と外側の両方からアプローチすること。私のアトピーの経験から、スキンケアだけでなく、食べるものや体の栄養バランスも重要だという実感に基づいて事業を展開しています。
ーーブランドのコンセプトをお聞かせください。
稲垣大輔:
できる限り国産の原材料を使うようにしています。オーガニックは、農薬や化学肥料を使わないところからスタートするのですが、自然の恵みを生かした農法なので、気候変動や地球温暖化の防止にもつながるのです。
私は、実際に農業を営む方のもとを巡って、頻繁に話を聞いています。有機栽培をしているある農家の方は、単に地球環境のためだけでなく「昔ながらの日本の農業の技術を守りたい」という思いで有機栽培を続けていると教えてくれました。
「昔ながらの農業を残したい」「自分の子や孫の世代に、幼少期に見たきれいな日本の景色を残したい」。後世まで大切に考える姿勢に感銘を受けて、より一層、国産の原料にこだわるようになったのです。
「サステナブルなブランドといえばBe」と言われる日を目指して
ーー貴社の製品に対し、お客さまから、どのような反応がありましたか?
稲垣大輔:
以前、お客さまから、印象に残る問い合わせがあったのです。「この製品、本当にオーガニックなの?使用感が良すぎて信じられない」というものでした。最初は驚きましたが、これこそが私たちの目指しているものだと気づいたのです。オーガニックでもおしゃれで使いやすく、高品質な製品をつくれることの証明になりました。
ーー今後のビジョンについて教えてください。
稲垣大輔:
『Be』という名前は、人生の基盤(Base)となる肌・体・心をつくる「Base」のBとe、理想の自分になる(Become)ことを実現させる「Become」のBとe、存在する(Be)、ここにある/いる状態を表す「Be」の3つの意味を持ちます。目標は人々の生活の基準、「地球の基盤」になるようなブランド。「本質的な美しさ」にアプローチすることを意識しています。
そのために、スキンケア商品には、よりサステナブルな中身と容器を使うようにしていきます。今でも、容器はリサイクルしたペットボトルを使っていますが、さらに、その容器自体も再生できる「水平リサイクル(※)」という方法を採用し、容器をリニューアルする予定です。
インナーケアでは、生活改善につながるような商品を目指しています。睡眠、運動、栄養バランス。この3つが美容の原理原則なので、そこに立ち返るような商品コンセプトを考えていますね。肌の美しさに対して、体の基本的な構造からアプローチできるよう、取り組んでいる次第です。
私たちの挑戦はまだ始まったばかりだと思います。オーガニック製品のイメージを変え、サステナブルな未来をつくる。そして、いつかスキンケアブランドとしてだけではなく、サステナブルなブランドなら「Be」と言われるようになりたいですね。
(※)水平リサイクル:使用済みの製品を同じ用途で利用するリサイクルで、回収したPETボトルを原料に戻し、再びPETボトルをつくる方法などのこと。
編集後記
「こんな良い使用感がオーガニックから出るわけがない」という驚きの声も届くという株式会社Be。稲垣氏自らの体験から生まれた思いを、ビジネスを通じて形にし、その思いに共感する農家や消費者を巻き込んでいく。そして、「スタッフを豊かにすることが第一」という信念は、サステナブルな企業経営の本質を突いているように思う。今後も同社の歩みは、オーガニック製品のイメージを変え、サステナブルな未来をつくっていくだろう。
稲垣大輔/北海道出身、東京都在住。北海道大学工学部を卒業後、大手自動車会社のエンジニアとして就職。イベント会社での経験を経て、自身のアトピー性皮膚炎罹患の経験を背景に、体の内外からアプローチするスキンケアとインナーケアの商品を販売する株式会社Beを創業。サステナブルビューティーブランド『Be』などを展開。