※本ページ内の情報は2025年5月時点のものです。

パソコンによる銀行取引が主流だった頃から、いち早く携帯電話で利用できる銀行サービスを展開してきたauじぶん銀行株式会社。代表取締役社長を務める田中健二氏は、auの各種サービスとの連携強化を図り、au経済圏の確立に尽力してきた。

自身の考えの基盤をつくった先人たちの教えや、競争の激しい金融業界で勝ち残るための戦略などについて、田中社長にうかがった。

ビジネスパーソンとしての度量を試されたビッグプロジェクト

ーーまずは田中社長の経歴を教えてください。

田中健二:
もともと政治に興味があり、大学は政治学科に進みました。入学してみると、政治について学ぶよりも歴史の話が多く、次第に関心が政治から金融に移っていきました。当時は就職氷河期で、好調な企業でなければ採用されるのは難しいと考えていた中、テレビCMを放送していた消費者金融会社が目に留まり、入社しました。そこから今日に至るまで金融業界を渡り歩いてきましたが、2015年にKDDIに入社したことが、のちにauじぶん銀行の経営に携わることにつながりました。

ーーこれまでに特に印象に残っているエピソードをお聞かせいただけますか。

田中健二:
2019年にKDDIの決済・金融事業の強化を目的に、中間金融持株会社「auフィナンシャルホールディングス」を設立し、弊社を含めたKDDIの金融子会社をauフィナンシャルホールディングス傘下に移管する際のプロジェクトリーダーを務めたときのことです。もともと弊社は、三菱東京UFJ銀行(現:三菱UFJ銀行)とKDDIが50%ずつ資本を出し合って設立しましたが、その後の経営はKDDIが主導権を握ることになります。(2025年1月に、資本関係の再編で100%KDDIの子会社化)

私は社内の意見をとりまとめるだけではなく、三菱UFJ銀行との交渉も担っていました。それぞれの意見をまとめ、お互いが納得できる点を探すのはとても大変な作業でしたね。

また、自分たちが主体となって経営するには、しっかりと売上も上げなければいけないプレッシャーも大きかったです。ただ、努力の甲斐あって、連結子会社化する前は経常利益が約23億円のところから、2023年度は約170億円にまで成長しました。

ネット銀行の成長をけん引する経営者の基盤となったもの

ーー組織運営をする上で、影響を受けた書籍や判断の軸にしている考えをお教えください。

田中健二:
仕事の進め方に大きな影響を受けたのが、ビジネス書として有名な『7つの習慣』と『The Goal』です。

『7つの習慣』は、成功者たちの共通点をまとめた書籍です。「主体的である」「終わりを思い描くことから始める」、「最優先事項を優先する」など、ビジネスで重要なことが書かれています。

『The Goal』では、生産性や成果を上げるために、集中すべきものに特化することの重要性を学びました。また、会社運営を行う中で指針となったのが、京セラの創業者である稲盛和夫さんが唱えた「京セラフィロソフィ」をもとにつくられた「KDDIフィロソフィ」です。

社内で勉強会を開いて読み合わせをする中で、グループを含めて約6万人の従業員が同じ方向を向いて動ける組織にするための考え方を学びました。これらのビジネスにおける本質的な考え方を実践に移すことで、会社の発展に貢献してきました。

KDDIグループならではの強みと消費者のニーズに合った商品展開について

ーー改めて貴社の事業内容を教えてください。

田中健二:
銀行の基本的な業務である、預金・振替・決済・融資が中心です。私たちはKDDIグループの強みを活かし、「au経済圏」の拡充に注力してきました。

その中で特徴的なのが、QRコード決済の「au PAY」や、「三菱UFJ eスマート証券(旧:au カブコム証券)」、「au PAY カード」など、auの各種サービスをセットで使っていただくと普通預金金利が合計最大年0.41%(税引前)になる「auまとめて金利優遇」です。また、auの料金プラン「auマネ活プラン+」へのご加入と、au PAY ゴールドカード会員のご利用代金引落としも組み合わせることで、年0.10%(税引前)の金利が上乗せされ、合計最大年0.51%(税引前)になります。

さらに、「auマネ活プラン+」にご加入の方は、通信料金のお支払いをau PAY カードに設定、かつ引き落とし先をauじぶん銀行にすることで、毎月最大1,000Pontaポイントが還元されます。こうしたグループ間の連携を強化することで、お客さまにとって価値のあるサービスを提供しています。

また、住宅ローンの差別化要素として、さまざまな特約を設けてきました。たとえば、がんと診断された場合に住宅ローンを50%免除する団体信用生命保険を提供していましたが、ネット銀行で初めて全疾病保障に拡大しました。ペアローンをご契約の方で、どちらか一方に万一のことがあった場合、残りの住宅ローン残高が全額免除される「ペアローン連生団信」の提供も開始しています。

こうしたお客さまにご利用いただきやすい特約も評価され、住宅ローンの年間実行額は業界でも上位に入るレベルを誇っています。

メガバンクに匹敵するネット銀行へ

ーー今後の経営方針についてお聞かせください。

田中健二:
KDDIグループには約3,000万人のauユーザーがいますが、弊社の口座数は約650万口座なので、まだまだ開拓の余地があります。そのためauユーザー以外の方も含め、全体的な認知度拡大を行っていきたいと考えています。

特にデジタルリテラシーが高くない場合、ネット銀行は身近でない方が多いので、さまざまな媒体を通して情報発信を行い、ハードルをクリアしていきたいですね。

その一環として、2025年3月1日以降に口座開設されたお客さまを対象に、3ヶ月ものの定期預金で年1.2%(税引前)、1年もので1.0%(税引前)の金利を付与する「デビュー応援定期預金」を提供しています。また、既存のお客さまには、auじぶん銀行をメインバンクとして選んでいただけるよう、商品の魅力向上に注力していきます。

ーー社員育成に関してはいかがですか。

田中健二:
経営理念の実現のために策定した「auじぶん銀行フィロソフィ」の勉強会を実施し、会社の理念や価値観を共有しています。また、私が影響を受けた『7つの習慣』を社員研修に取り入れ、“個人が自律的に行動し、他者との関係を良好に築き、組織として高い成果を出す”仕組みを、社員に学んでほしいと考えています。

たとえば自分だけが得をする、あるいは相手だけが得をするのではなく、お互いがWin-Winになる解決策を考える。日々の業務を「重要度」と「緊急度」で分類し、優先事項を決めてから動くことなどですね。

経営者の仕事は社員の成長を見守り、サポートすることです。社員たちには弊社だけでなく、生涯を通じて活かせる考え方や能力を身につけてもらいたいですね。

ーー最後に今後のビジョンについてお聞かせください。

田中健二:
今後の目標は、個人口座数3,000万口座を達成し、デジタルメガバンクになることです。今後も成長を続け、メガバンクと同等の規模になりたいと考えています。そのために、これからも地道に認知度アップに向けた活動を続けていきます。

編集後記

これまでビジネスで成功を収めてきた先人たちの教えを自分の中で落とし込み、実行することで重要な局面で正確な舵取りをしてきた田中社長。ただ知識を詰め込むだけでなく、ビジネスの場で具現化したからこそ、これまでの成長につながってきたのだと感じた。auじぶん銀行株式会社はこれからもサービスを拡充し、ネット銀行をより身近な存在にしていくことだろう。

田中健二/1978年生まれ。中央大学法学部卒業後、2001年プロミス(現SMBCコンシューマーファイナンス株式会社)に入社。2006年SBIホールディングスに入社後、SBI住信ネットバンク設立準備調査会社(現:住信SBIネット銀行)に出向。2013年住信SBIネット銀カード株式会社の取締役に就任。2015年KDDIに入社し、じぶん銀行(現:auじぶん銀行)執行役員 経営企画本部長、auフィナンシャルホールディングス執行役員 経営企画部部長、専務取締役などを経て、2024年代表取締役社長に就任。