※本ページ内の情報は2024年9月時点のものです。

医療衛生材料に求められることは、安心・安全に使用できるということだ。そのため、医療衛生材料メーカーはデザインから滅菌作業まで、細心の注意を払う必要がある。

そんな医療衛生材料業界に100年以上携わっているのが川本産業株式会社だ。同社は徹底した品質管理のもと、各病院やドラッグストアなどから高い評価を受け続けている。今回は、代表取締役社長の福井誠氏から、社長に就任した経緯、従業員のための変革、代表取締役として常に考えていること、今後の展望などについてうかがった。

コロナ禍を乗り越えた医療衛生材料メーカーの強み

ーー代表取締役社長として就任した経緯を教えてください。

福井誠:
もともと別の医療機器メーカーに勤めていましたが、当時から川本産業の上層部とは付き合いがあり、その縁で2001年に入社しました。

もちろん、その時は社長になるとは思っておらず、現場で働くことを考えていました。長く勤めていくうち、ありがたいことに「役員にならないか」という話が出て、引き受けることにしました。そして2020年6月、ちょうどコロナ禍の最中に代表取締役社長に就任しました。

ーー就任から今までを振り返って、現在はどのような心境ですか?

福井誠:
社長就任当時はコロナが流行した年で、医療衛生材料メーカーにとって、マスクや手指消毒などの感染管理製品の需要が高まった時期でした。感染管理製品は各地で品薄状態になっており、マスクなどをドラッグストアへ販売するコンシューマ事業では、調達に苦心したり、工場を24時間稼働させたりすることで、製品を供給していました。

一方で、病院に製品を販売するメディカル事業は、外来や手術件数の減少などにより手術関連製品が落ち込みを見せていました。メディカル事業は回復に時間のかかる事業です。なぜなら、ドクターが直接製品を使用し、そこから良し悪しを検討して長期的に使うかどうかを決めるからです。しかし、地道な営業活動が功を奏し、現在ではコロナ禍前の数字に戻りつつあります。

ーー貴社の事業の強みは何ですか?

福井誠:
まず、弊社にはメーカー業と卸業の2つの機能があり、1,000社以上の得意先様、500社以上の仕入先様との繋がりがある点です。そして、製品のカテゴリは衛生材料だけではなく、口腔ケア製品や介護・育児用品などを幅広く取り扱っています。メーカー業に関しては開発部門を持っており、市場のニーズを調査し、それを自社の工場で製造して販売する、という流れが一連でできる点も強みだと考えています。

さらに、メーカーとして、徹底した品質管理を実施している点も弊社の強みですね。弊社は2015年に、滅菌仕様の製品に滅菌された証拠を残さなかったという重大なミスを起こして以来、徹底した品質管理を行っています。これには相応のコストがかかりますが、社会の保健衛生の向上という経営理念を貫くために必要な投資と考えています。

「会社のためになるか」という観点から決断する経営スタイル・今後の展望

ーー社長に就任されてから意識していることは何ですか?

福井誠:
一言で言えば、「会社のためになるか」を考えた上で、迷わずに判断を下すことです。常に私の判断が会社の未来を左右するという意識を持ち、最終的な意思決定を行っています。

ただし、「会社のため」というのは、決して利益絶対主義というわけではなく、将来的に会社を強化するために重要な基盤となる行動や投資も含みます。金銭的な損失が伴う場合でも、今後の土台として会社のためになるのであれば、迷わずに実行することもあります。

社長である私が決断力を持っていないと、それが経営にも関わり、さらには従業員の生活にも影響してしまいます。だからこそ、決断力は常に持っていたいですね。

ーーこれまで具体的にどのような決断をしましたか?

福井誠:
社長は常に決断を迫られますが、特に大きな変革をもたらしたのは従業員の働き方の見直しですね。コロナ禍によって在宅ワークの仕組みを整え、出社時間や退勤時間、休憩時間も融通が利くようにしました。こうした変更も、従業員の声を聞き、最終的に会社のためになると判断した結果です。

しかし、従業員の意識も常に変化しているため、彼らの声を聞き逃さないように細心の注意を払っています。そのために、従業員自らが改善案や意見を提案できる場を設けています。このように、従業員が働きやすい環境をつくることも、私が果たすべき重要な役割だと考えています。

消費者目線で考える介護用品販売の次なる一手

ーー新製品開発への思いを聞かせてください。

福井誠:
私は良い商品は活発な意見交換から生まれると考えており、商品開発の場で出される意見を大事にしています。そのため、新製品を開発する際の会議は対面で行っています。Web会議では発言の機会が限られてしまい、どうしても意見を言いづらい雰囲気になってしまうからです。

新製品の中でも、特に最近力を入れているのが介護用品です。介護用品の新製品を開発する際、消費者目線を強く意識しています。なぜなら、私たちメーカーと実際に使用するお客様との間では、いくら意識していたとしても目線のズレがあるからです。

弊社ではそのズレを少しでも軽減するため、介護の現場にマーケティング開発の人材を派遣しています。これは、現場と開発の場のズレをできる限り解消することが目的です。また、男女でも目線の違いがあると考え、派遣する人材は男女それぞれ1名ずつ選出しています。

ーー今後は、どのように事業を展開させたいですか。

福井誠:
弊社は100年以上の歴史を誇る会社です。次の50年、100年と末永く運営していくためには、特定の分野だけではなく、すべての事業が等しく安定して成長していく必要があります。また、現在は卸業が7割、メーカー業が3割ですが、今後はメーカー業を拡大させていきたいと考えています。

私は、メーカーが成長するために必要なのは、「ものづくりがしたい人材」だと考えています。メーカーは製品を生み出さなければ成長ができないからです。今後も、ものづくりに興味のある人材が活躍できる会社でありたいですね。そして、次の100年も組織を運営し続けられるよう、後進の育成を含めて邁進していきます。

編集後記

「会社のために判断する」という軸を持ち、常に難しい判断を下し続ける福井社長。ユーザーのニーズを汲み取るために、実際に従業員を出向させる戦略には、常にユーザーと従業員の目線を意識する社長の想いが感じられた。「戦略は会社のため」と語る福井社長だが、そこには従業員のことも大切にする、あたたかい心もあるように見える。

100年を超えた老舗である川本産業は、すでに次の100年を見据えている。裾野を広げ続ける川本産業の飽くなき挑戦の先には、明るい未来がつながっていくだろう。

福井誠/1960年生まれ。1979年に山口医療機器株式会社に入社し、2001年には川本産業株式会社に入社。商事営業本部販売部部長、執行役員コンシューマ営業本部本部長を歴任。2015年に取締役常務執行役員、2018年に代表取締役副社長執行役員を経て、2020年に代表取締役社長執行役員に就任。