※本ページ内の情報は2024年9月時点のものです。

ものづくりの現場では欠かせない、ペンチやニッパーなどの工具。つくる製品のパーツによって使い分ける必要があり、使い勝手の良さで製品の仕上がりも大きく左右される重要なツールである。

大阪の地でそんなものづくりを支える工具を製造しているのが、間もなく創業100年を迎える室本鉄工株式会社だ。

室本鉄工の強みやものづくりの仕事に飛び込んだきっかけ、海外展開などについて、代表取締役社長の田中保寛氏にうかがった。

お客様の要望に応じてオーダーメイドで工具を提供する技術

ーー貴社の強みを教えてください。

田中保寛:
お客様の要望に合わせ、オーダーメイドで工具をつくる点です。工具は使用用途によって大きさや長さ、形状が異なるものを使い分ける必要があります。そのため「この部分をもう少し長くしてほしい」など、お客様一人ひとりのご要望にお応えしています。

それぞれのオーダーに応えるため、どうしてもコストは高くなってしまいます。ただ、たとえ利益は少なくても、使い勝手の良い工具を提供し、ものづくりの現場を支えたいという一心で行っています。

このようなきめ細かい対応をしてきた結果、多くの方の信頼を得られ、これまで事業を続けてこられたのだと感じています。

ーー他社に先駆けて圧縮空気を活用した「エアーニッパー」を開発したそうですね。

田中保寛:
それまでは手の握力だけで部品の切断などを行っていましたが、エアーニッパーは圧縮空気を動力源として力を加えることで、金属の切断や穴あけなどを効率的に行うことができます。エアーニッパーは、高度経済成長期に自動車や電気メーカーのものづくりの現場を支え、市場での地位を確立しました。

銅やスチール、プラスチックなどの材質に合わせて使えるように、替刃も行っています。こうしたエアーニッパーの刃付け作業は、すべて職人の手作業です。自動化が難しい刃付けの技術は、他社にはない強みとなっています。

特に弊社の刃部分の切れ味の鋭さと耐久性の高さが評価され、国内だけでなく海外からも注目されています。

胸の内に秘めていた思いに従い、ものづくりの道を選ぶ

ーー貴社に入社したきっかけを教えてください。

田中保寛:
妻の実家に立ち寄った際、義父が作業している姿を見て感銘を受けたことです。ただ部品を組み合わせるのではなく、ゼロから工具をつくり上げる一連の作業を見て、とても興味が湧きました。

その頃は銀行に勤めていたのですが、お金のことばかり考える仕事に嫌気が差していました。そんなときに工具をつくる現場を見て、ものづくりが好きだったことを思い出したのです。それを機にものづくりの道へ進もうと決意し、義父の会社へ入社しました。

ーー入社後、どのような社内改革を行ったのですか。

田中保寛:
それまでは伝票作成や在庫管理、進捗管理などの業務のほとんどを手書きで行っていましたが、事務処理に特化した小型のオフィスコンピュータを導入し、作業を効率化しました。

近年では作業のマニュアル化も進めています。入社したての社員が理解しやすいように、手順を動画で解説するものです。設備投資にも注力し、プレス等の金型業界で使用されているワイヤ放電加工機を導入する事で、これまで切削加工出来なかった高周波焼入れ後の刃部に微細な形状加工が出来るようになり、幅広いニーズに応えられるようになりました。

他にも、作成したプログラムに沿って自動的に加工するNC旋盤や、研磨ロボットなどを導入し、作業効率の向上に努めています。これにより外注していた作業を内製化でき、競争力の向上につながりました。

SNSでの発信を通して海外の売上比率の向上を目指す

ーー今後の展望をお聞かせください。

田中保寛:
国内の製造業界は、国際競争力の低下などにより縮小傾向にあります。ただ、海外からは日本製品の品質の高さが評価され、弊社にも多くの注文が入ってきます。

弊社は半世紀以上前から輸出を行ってきた実績があります。一般的なペンチなどを扱う「メリー」ブランドとエアーニッパーを取りそろえた「ナイル」ブランドは世界に浸透しています。そこで今後は、海外展開に注力したいと考えています。

これまではJETRO(独立法人日本貿易振興機構)に頼り、海外の展示会に出展していました。しかし最近では、InstagramやYouTube及びX(旧Twitter)などのSNSを活用し、自社で情報発信しています。

製品の使用方法を解説する動画を公開した結果、海外から多くの反響を得ています。こうした情報発信を通し、海外の売上比率を30%から40%にまで引き上げたいと考えています。

ーー最後に貴社が求める人物像を教えてください。

田中保寛:
海外展開を進めるため、グローバル人材を確保したいと思っています。日本に限らず、外国籍の方も積極的に採用する予定です。また、SNSを使って情報発信を行っているため、SNSマーケティングに興味のある方も求めています。

弊社は製品づくりを行うメーカーなので、ものづくりが好きな人に合っていると思います。営業の場合、お客様のニーズを汲み取り、最適な製品提案ができるスキルが不可欠です。

そのためには、実際に現場に出て製品について詳しく知ることが大切です。機械化が進み、作業が効率化されても、人と人とのコミュニケーションが基本です。技術と対話力を兼ね備えた人材になれるようサポートしますので、ものづくりに興味がある方はぜひお越しください。

編集後記

義父の働く姿を見て、ものづくりの道に進むことを決めたという田中社長。インタビュー中にも、ものづくりにかける情熱がひしひしと伝わってきた。一つひとつ手作業で丁寧にお客様に合った工具をつくる室本鉄工株式会社は、これから世界中のものづくりの現場を支えていくことだろう。

田中保寛/1959年、大阪府生まれ。関西大学商学部を卒業後、金融機関に勤務したのち1990年、室本鉄工株式会社に入社。1996年に総務部長、2003年に取締役専務、2005年に代表取締役社長に就任。