※本ページ内の情報は2024年9月時点のものです。

財務省貿易統計によれば、緑茶の輸出額は2012年の51億円から毎年増加を続け、2022年には4倍増の約219億円を計上。世界的な日本食需要の高まりやヘルシー志向が好調の要因となっている。中でも菓子や飲み物のフレーバーとして抹茶の台頭が著しく、全体のけん引役にもなっているもようだ。

共栄製茶株式会社(大阪市)は江戸時代末期の1836年に創業した「森半」ブランドの老舗緑茶メーカー。昭和初期には大手百貨店への納品をスタートし、需要の増加とともに工場の増設を進めて業容を拡大してきた。

近年はとりわけ抹茶の生産に注力して高い評価を得る老舗メーカーが、緑茶好調の時代にどのような変革を遂げようとしているのか。取締役社長の西坂太氏に事業や経営展望について話を聞いた。

多彩なコラボレーションを勝ちとる高いクオリティ

ーー共栄製茶の社長に就任するまでの経緯をお聞かせください。

西坂太:
1988年、日本エム・ジェイ・ビー株式会社へ入社。2006年に同社の解散にともない、製造会社であった共栄製茶株式会社へ転籍となりました。珈琲一筋の営業畑を歩んできましたが、転籍にともないお茶も担当するようになりました。

共栄フーズの社長に就任するまでの2006年からの10年間は営業もしながら商品開発・マーケティング部も兼務していました。2018年に関連会社の共栄フーズ(珈琲製造会社)の社長、2020年に共栄製茶の社長に就任したという経緯です。

ーー貴社の事業の歩みと特徴を教えてください。

西坂太:
弊社は「森半製茶所」として江戸時代に創業したお茶のメーカーです。昭和初期には大手百貨店と契約したことで事業規模を拡大し、1940年に組織を拡張して現在の社名に変更しています。小売りの販路は百貨店と量販店向けが中心で、業務用は国内だけでなく海外にも展開しています。

以前は重要な鍵を握る商品開発をマーケティング部がすべて担当していましたが、販売先の業態が幅広いため2019年に各事業部ごとの担当に転換したのが、最近の目立った動きです。これによりフットワークが軽くなり、各業態に応じた商品づくりが可能になりました。

ーー商品開発には特に力を入れているのですね。

西坂太:
顧客ニーズに対応した開発には余念がなく、全力を傾けています。弊社の名前が出ていないものでも、OEM品(他社ブランド商品の製造)のボリュームを大きく持っています。

大手企業とコラボレーションしている商品もたくさんあります。契約先はコンビニチェーンをはじめ回転寿司チェーン店、外資系ファストフード店、パンメーカーに至るまで業態もさまざまです。このあたりは長年培ってきた弊社の製品力を評価していただいていると自負しています。

お茶の粉砕能力20%増で自社ブランドの育成と新商品開発に注力

ーー直近の注力テーマをお聞かせください。

西坂太:
OEMの売り上げを伸ばした結果、現状で全体の約6割を占めるまでになり、逆に自社ブランドが4割を切っている状態です。今後はOEМを維持しながらも自社ブランド品の販売をさらに伸ばしていきたいと考えています。

そのためにも設備投資を積極的に進めていきます。お茶の粉砕機械を増やしていく計画があり、キャパ(生産能力)を現在の年間1000トンから1200トンまで増やす方針です。さらに、減少傾向のリーフ茶をもっと沢山の消費者に楽しんで頂くために次世代の急須も開発しました。

「チャスタ」というネーミングで安心・安全な素材(トライタン)・シンプルな構造で気軽に使える急須です。構想に3年、2022年に発売してすでに20,000個以上の実績となっています。

ーーどのような方向性で商品開発を進めていますか。

西坂太:
2020年に起こったコロナ禍の影響で、消費者の意識がずいぶん変化しました。安さより安全を求める傾向が強くなっていることを受け、「機能性表示食品」など健康を意識した商品の開発を進めています。

工場の改修を行い機械化を進めることで新商品の開発に注力すると同時に、消費者に安心と安全を提供するための品質アップを図っていく方針です。

ーー同業他社との差別化ポイントをお聞かせください。

西坂太:
前述のように業務向けに広く採用される品質を担保するために、製造技術やツールについては特段の配慮を施しています。その一つが農薬分析機器の充実です。

分析装置(LC‐MS/MS)を導入して、お茶の残留農薬分析に対応できるようにしました。たとえば海外輸出の際に、許容されている農薬の種類や基準があるため、それらに適合した規格品を製造するために有効な手段となります。

スペシャリストとしての持ち味を活かして海外に活路

ーー今後はどのような経営方針で事業を展開しますか。

西坂太:
日本は少子高齢化で市場が縮小しているので、近年はますます海外に目を向けています。抹茶は日本のみならず、世界的なブームだと思います。幸いにも弊社は売り上げ全体の半分を占めるほど抹茶の度合いが強いメーカーです。

特に抹茶の粉砕品にかけては国内トップクラスの生産量を誇っているので、先にも触れた分析機器を駆使するなどスペシャリストとしてのアドバンテージを活かし、ブランディングを強化してシェアを拡大していく方針です。

ーー人材採用の方針について教えてください。

西坂太:
現在は新卒採用より社会人経験のある中途の方の採用が多くなっています。採用方針は基本的に人柄重視です。緑茶や紅茶、コーヒーは嗜好品であり、熱い気持ちがないとなかなか続きません。そこに対して思い入れやこだわりのある方とともに、働きたいと思っています。

編集後記

西坂社長は珈琲・お茶会社でのキャリア36年を誇る筋金入りの経営者だ。さらには共栄製茶だけでなく関連会社の共栄フーズの社長を経験したことが、ボーダレスでシナジー効果の高い事業活動に結びついているのだろう。

百貨店、量販店、EC、海外販売、小売用、業務用と、多くの業態ごとに商品をカテゴリー化して製品力を磨いてきた共栄製茶。社名が表に出ない業務向けでもしっかり高い評価を勝ちとっていることに感嘆するとともに、老舗企業の奥行きの深さを知ったインタビューとなった。

西坂太/1962年、東京都生まれ。1988年、日本エム・ジェイ・ビー株式会社に入社。2006年、同社の製造会社であった共栄製茶株式会社へ転籍。営業を中心に商品開発や経営を学び、2018年に共栄フーズ株式会社取締役社長に就任。2020年、共栄製茶株式会社取締役社長に就任。現在、会社の枠を超えた商品開発にも注力している。