※本ページ内の情報は2024年9月時点のものです。

「脇役」という言葉からどんな印象を受けるだろうか?ネガティブな印象を持つ方は多いと思うが、ビジネスの世界ではその逆に働くこともある。

トーソー株式会社が取り扱う「カーテンレール」はいわば、カーテンを支える脇役だが、代表取締役社長の八重島真人氏は、脇役だからこそできる売り込み方や、将来設計があるという。国内市場の縮小が懸念される今、同社は次の時代にどう備えていくのか、八重島社長の考えをうかがった。

30年以上のキャリアで信頼を構築し、新たな社長に選ばれる

ーー八重島社長の経歴をお聞かせください。

八重島真人:
私が弊社に入社したのはバブル期にあたる1989年のことです。もう少し規模の大きい会社からも内定をもらっていたのですが、フラットな人間関係と雰囲気の良さが気に入り、弊社を選びました。現在もこの2点は弊社の良い部分だと思っています。

入社してからのキャリアは、まずインテリアショップを中心とした営業からスタートし、次に商品開発部門へ異動、そして管理部門を経験したのちに、2015年に執行役員営業副本部長に就任。2019年には取締役管理本部長に就任しました。商品開発時代には約3億円の売上を記録したヒット商品を生み出したこともあります。

そして2024年6月、外部取締役による次期社長選定の場である「指名委員会」にて指名いただき、代表取締役社長に就任し、現在に至ります。

これからは正直者が選ばれる時代に

ーー仕事をするうえで大事にしている考えは何ですか?

八重島真人:
とにかく「正しいことを正しく行う」ことを大事にしています。これは管理本部長時代から口をすっぱくして言い続けていることなのですが、ビジネスにおける倫理観の土台として一番大事なことだと考えています。

一見あたり前のように聞こえるこの言葉は、これからの時代、一層価値を増すでしょう。ビジネスにおける「正直者が馬鹿を見る」という側面は、次第に淘汰されていき、正直・誠実であることが選ばれるための第一条件になるはずです。

特に製造業の分野ではごまかしがききません。自分の子どもに言えるような、どこに出しても恥ずかしくない仕事をするべきです。

「カーテンレール国内トップシェア」という盤石な地盤

ーー貴社の事業内容や強みを教えてください。

八重島真人:
カーテンレールやブラインド、ロールスクリーンなど、窓に関するハードウェアの商品開発、製造、販売を行っています。なかでもカーテンレールの分野に強く、国内シェア約50%と、トップクラスを誇ります。

カーテンレールは生活に密着した商材なので取引先のチャネルが広く、カーテンを取り扱っているほとんどのお店や会社で、弊社の商品を取り扱っていただいております。住宅からオフィスビル、工場まで、カーテンがある場所には弊社の商品があるといっても過言ではありません。

また、最近では窓以外の分野にも少しずつ挑戦し始めています。カーテンレールという事業基盤はそのままに、関連するジャンルで新たな価値を創造していきたいですね。

エンゲージメント調査からも明らかになったフラットな社風

ーー八重島社長が入社した当時のフラットな社風は今も続いているのでしょうか?

八重島真人:
フラットで風通しの良い社風は私の入社当時から続いており、社員のエンゲージメントにも寄与しています。これは調査データからも裏付けられています。2023年にエンゲージメント調査(※)を行った際には、会社に対する意見の自由記入欄に、一般的な会社の約3倍もの記述がありました。

意見の内容は、経営的視点に立ったものから個人の悩みごとまで、本当にさまざまです。これだけ自由に意見してくれるのは弊社に関心があるからだと思うので、社風を大事にしている会社としては嬉しい限りですね。

調査会社の方からは「通常はこの状態に持って行くだけでも大変」と言われたほどです。会社の歴史とともに培ってきたこの「トーソーならでは」ともいえる強みは、今後も大切に育てていくべきだと感じています。

(※)エンゲージメント調査:従業員の会社や仕事に対する熱意や愛着などを評価する調査

コアビジネスを継続しつつ、来るべき変化への備えを着々と進める

ーー今後、特に注力したいテーマを教えてください。

八重島真人:
重点的に取り組みたいテーマは、コアビジネスである「国内住宅市場への注力」と「住宅以外への拡大」そして「経営基盤の再整備」の3つです。

「国内住宅市場への注力」を改めて宣言しているのは、国内シェアの優位性とニーズの規模が十分にあると考えているからです。日本は人口減少が続いており、住宅需要も先細りすると考えられていますが、当分は弊社の事業基盤とするに十分な規模が維持されるはずです。

また、最近は住宅におけるIoT(モノをインターネットとつなぐ技術)が活発なので、IoTメーカーやハウスメーカーと協力して、需要を確保できると考えています。

とはいえ、他の市場へ目を向けるリスクヘッジも必要です。そこで出てくるのが「住宅以外への拡大」で、具体的にはカーテンとの親和性が高い、ホテルや飲食店などへのアプローチを考えています。

そしてこれらを実現するには「経営基盤の再整備」、特に人への投資が欠かせません。学びの支援をするために数千万円の予算を確保しており、階層ごとの研修メニューや約50種類の研修に対する手当を用意しています。

カーテンレールは「脇役」だからこそ「主役」のそばにある

ーー事業を通して顧客にどのような価値を提供したいと考えていますか?

八重島真人:
弊社はコアバリューに「WITH_」を据え、顧客の役に立つ、共に喜びを感じる会社を目指しています。そもそも、カーテンレールは主役であるカーテンと共にある商品です。あくまで脇役ではありますが、カーテンがその価値を発揮できるのもカーテンレールあってこそです。

この考えは、他者の利益を優先する「利他の精神」に共通しています。豊かな空間を形づくるために、誰かが幸せであるために、その一端をそっと担う。私たちはそんな人間の集まりでありたいのです。

今はまだ「窓」という小さな枠に収まっていますが、将来的には空間全体へと飛び出し、あらゆる分野でプラスアルファをもたらす「WITH_」になれるように、精進してまいります。

編集後記

私たちの快適な暮らしは、トーソーを始めとした多くの「脇役」の企業が、その一端を担っているからこそ得られている。これはビジネスにおける一つの愛の形ではなかろうか。カーテンレールから空間全体へと「WITH_」の思いが広がっていけば、次の時代の日本は今より少し温かい社会になるかもしれない。

八重島真人/1967年、兵庫県出身。1989年、京都産業大学法学部卒業後、トーソー株式会社に入社。営業、商品開発部門を経験したのち、2012年に特販営業部長に就任。その後2015年に執行役員営業副本部長、2019年に取締役管理本部長を経て、2024年に代表取締役社長に就任。