※本ページ内の情報は2025年1月時点のものです。

超精密加工の技術は、製品の小型化や高度化に伴い、日々進化を続けている。その技術が求められるのは、小型製品だけでなく、治具、測定具、光学部品などの高精度を要する幅広い分野にもおよぶ。これらの分野では、「誤差1000分の1ミリ以下」という精度が日常的に要求され、その技術は日本のものづくりを支える土台となっている。

1953年創業の株式会社川崎精機工作所は、国内でも希少な「1000分の1ミリ単位」の調整に対応できる加工業者として知られている。同社は、半導体製造装置や工作機械、航空機部品などの製造に携わり、多様な業界でその技術を発揮してきた。10年にわたり代表取締役を務める上田親男氏に、これまでの歩みと製造業の未来について話を聞いた。

「社員が毎日幸せに暮らせること」が一番大切な目標

ーー貴社への入社の経緯をお聞かせください。

上田親男:
私は高校2年生の時にアメリカのミシガン州立高校へ編入し、その後、ウェスタンミシガン大学に進学しました。1985年に卒業後、家業である川崎精機工作所に入社しました。最初の10年間は製造現場で研削加工に従事し、現場の知識と技術を徹底的に学び、その後、営業部門に異動し、顧客との関係構築や市場のニーズを学びました。2014年、体調不良で退任した兄に代わり、代表取締役に就任しました。

ーー代表取締役就任後、どのようなことを大切にされていますか?

上田親男:
現在、弊社には36名の社員が在籍しています。私は「社員が毎日幸せに暮らせること」を経営の最重要課題としています。社員が生活の安定を確保し、安心して働ける環境を整えることが、会社の存続と成長の基盤だと考えています。そのため、給与体系の見直しや職場環境の整備を積極的に進めています。

また、事業面では「不可能に見える依頼にも挑戦する」という姿勢を大切にしています。難易度の高い製品の加工依頼を受けることも多くありますが、これまでお断りしたことは一度もありません。それは、先代から受け継いだ技術力と、誇りを守る責任があるからです。創意工夫を重ねてお客様の期待に応える努力を続け、その成果を社員たちに還元することで、企業としての成長を実現してきました。

ミクロン単位の精度が支えるものづくり

ーー現在の事業内容について教えてください。

上田親男:
弊社は研削加工を専門とする企業として1953年に創業し、京浜地区を拠点に日本のものづくりの高度化に貢献してきました。研削加工とは、高速回転する砥石を用いて素材表面を精密に削り出し、切削加工では実現できない高い精度を可能にする技術です。

特に、工作機械や半導体製造装置では、同じ動作を正確に繰り返すことが求められます。そのため、部品にはミクロン単位の精度が要求され、わずかな不良も許されません。この「誤差1000分の1ミリ以下」の精度を保証できる技術と実績は弊社の大きな強みであり、航空宇宙分野を含む、多くの業界で高い評価を受けています。こうした精度を支えるのは、職人たちの熟練した技と長年の経験です。

失敗を恐れず、情熱を持って高みを目指す仲間と働きたい

ーーこれからどのようなことに注力していこうとお考えですか。

上田親男:
日本のものづくり技術を次世代に引き継ぐことが、今後の製造業にとって最も重要な課題だと考えています。私自身、入社当時は先輩たちの職人技に憧れ、その技術を目指して日々努力を重ねてきました。現在は、シンプルな製品は海外で安価に生産される時代ですが、弊社が手がけるのは高精度を要求される製品ばかりです。こうした製品を製造するためには、確かな技術力と、それを習得するための情熱が必要です。

弊社の社員の平均年齢は48歳ですが、新人社員にはベテラン社員によるOJTを通じて、現場で技術を学んでもらいます。一人前になるには時間がかかりますが、失敗を恐れず挑戦を続け、達成感を糧に成長してほしいと思います。性別や年齢に関係なく、技術と情熱を持つ方々にぜひ仲間に加わっていただきたいです。

働きがいと技術革新の両立で描く未来志向の経営哲学

ーー最後に、今後の展望についてお聞かせください。

上田親男:
現状の技術に満足することなく、さらなる高付加価値な仕事に挑戦していく所存です。弊社が誇る卓越した技術を多くの方に知っていただくため、積極的に情報発信を強化し、日本国内はもちろん、海外市場にもその価値を伝え、グローバルな視点で技術を活かせる道を模索していきたいですね。こういったアクションによって、精密加工の分野での信頼性をさらに高め、世界に認められる企業に成長できると考えています。

また、時代の変化に柔軟に対応するためには、社員一人ひとりがやりがいを持って働ける職場環境を整えることが不可欠です。働きやすさだけでなく、技術者として成長できる環境を提供し、個々の能力を最大限に発揮してもらいたいと思っています。これには、社員同士の協力体制やコミュニケーションを活発化させる取り組み、そしてスキルアップのための研修や教育制度の充実も含まれます。

弊社の目標は、事業規模の拡大ではなく、製品の品質を維持し、お客様からの信頼を継続的に得ることです。一つひとつの仕事に誠実に向き合い、期待を超える成果を提供し続けることで、信頼と実績を積み上げていきます。これからも、技術革新と人材育成に全力を注ぎ、持続可能な成長を目指すと同時に、社員一丸となって日本のものづくりの未来を切り拓いていく企業であり続けたいと考えています。

編集後記

精密加工への挑戦は、技術革新の最前線であり、技術者の情熱と誇りの結晶でもある。「社員が幸せに暮らせること」を経営の柱とする哲学は、プロフェッショナルな世界で働く人々への敬意と配慮を感じる。上田社長が大切にしている「不可能な依頼にも挑戦する」姿勢は、困難な時代を乗り越える企業の力を象徴している。こうした信念と行動は、ものづくりの未来だけでなく、働きがいのある社会の実現にも寄与するだろう。

上田親男/1961年、神奈川県川崎生まれ。米国のウェスタンミシガン大学卒業。1985年、株式会社川崎精機工作所入社、2013年代表取締役に就任。