※本ページ内の情報は2024年9月時点のものです。

加藤精工株式会社は、愛知県で自動車部品を主に製造している会社だが、その代表取締役である加藤聡人氏は、さらにデザイン会社も設立している。製造業とデザインという、一見結びつきにくいように思われる二つの分野がなぜ結びついたのか。

その背景には、加藤氏が製造業の中でデザインの力がどのように活かされているのかについて深く考察した日々がある。加藤精工の事業にデザインが寄与しているのか、また設立の経緯や加藤氏の理念について、詳しくうかがった。

社長就任後に大学でデザインを学び、会社を設立

ーー社長になるまでの経緯を教えていただけますか?

加藤聡人:
私は弊社の3代目であり、先代である父の長男です。当初は家業を直ぐに継ぐという意識は低く、呉服問屋に就職し、雑貨事業部にて雑貨デザインやウェブショップの立ち上げを行いながら、総務部として人事業務にも関わりました。4年ほど勤めた頃、2009年に家業である自動車部品業界に入ることに。まずは取引先の自動車部品メーカーで3年間勉強させていただいた後、弊社に戻り、2016年からは代表取締役を務めています。

ーー社長就任後5年後にデザイン会社を設立したのは、どのような理由があったのでしょうか?

加藤聡人:
デザインとは、見た目を良くすること以前に、「情報を整理すること」が重要だと言えます。雑貨メーカーでの経験を通じて、製造業である弊社にもデザインの考え方を浸透させたいと思うようになりました。

私はデザインを専門的に学んだことがなかったので、京都芸術大学の通信教育部に入学したのです。大学で同級生と交流するうちに、製造業の社長をしながらデザインにも関わっている自分は、ユニークな存在であることに気付きました。

「製造業をデザインの力で良くする」というコンセプトは、ビジネスにもなる。そのためには会社があったほうが良いと判断し、在学中の2021年にデザイン会社を設立しました。このデザイン会社では、他社の経営課題を整理し、それをデザインに結びつける仕事をしています。

たとえば、「SDGsの浸透が進まない」とお悩みの企業に対しては、従業員にアンケートを取り、その結果をもとに「これもSDGsなんだ」と身近に感じてもらえるようなポスターを作成して納品しました。

社員の安心感が第一。LGBTQにも対応する最先端の社内改革

ーー貴社の業務内容について、お聞かせください。

加藤聡人:
弊社は主に自動車部品、特に鉄製の小さい部品を製造しています。これらの部品は、自動車ユーザーの目には触れないところで使用されます。たとえば、座席の骨格に使われる部品や、ドアヒンジに組み込まれるピンなどです。また、建築物のパーツや温水洗浄便座の機能部の部品なども製作しています。受注生産だけでなく、工法などの技術面についても積極的に提案し、仕事の幅を広げることにも力を入れています。

ーー経営に関して、特に気をつけていることは何ですか?

加藤聡人:
社員全員が会社の目標を理解し、社長ではなく社員が皆で組織を動かしていくことを目指しています。この理念に基づき、入社したばかりの社員も、さまざまなプロジェクトに関わることができます。たとえば、社屋が移転する際には、経験年数が浅い社員を含めて20〜30代を中心にプロジェクトを立ち上げ、加藤精工の未来像やそのために必要となる建物について、私抜きで考えてもらいました。

私たちが共有する会社の目標は「永続」です。会社が納税を含む社会貢献を続けるためには、存続し、利益を出し続ける必要があります。そのためには生産性の向上が不可欠で、働く人の安心感は、その基盤です。働く人の安心感をつくることを私の第一の仕事として、空気づくりや仕組みづくりを心がけています。

ーー具体的には、どのような取り組みを行っていますか?

加藤聡人:
女性活躍や障害者雇用にも力を入れていますが、2017年頃からはLGBTQ(性的マイノリティ)への対応を進めています。たとえば、同性パートナーが婚姻と同様の関係であると認められる場合には、結婚お祝い金を支給し、パートナーの親の介護にも介護休暇を利用してもらえるようにしています。また、養子縁組でも出産お祝い金を支給します。

他にも「あんしん休暇」という名の傷病休暇は、ホルモン治療や性別適合手術にも使用できるようにしました。当事者から要望があったからではなく、偶然読んだ記事に書かれていたLGBTQの割合から、当時の従業員数では10人以上は当事者がいると計算し、先回りして制度改革を行ったのです。また、直近では「ライフサポート休暇」という制度を新設し、ガンや難病、不妊の治療などを受けながらも働きやすい環境にしました。

新たなキーワードをもとに、新しい仕事を創出したい

ーー今後、どのような分野で、どのような人に働いてほしいと考えていますか?

加藤聡人:
既存のお客様とのつながりを大切にしつつ、今後はそのつながりや展示会での出会いを活かして新規顧客開拓をしていきたいと考えています。特に、EVなどの新しい自動車分野はもちろん、建築分野など異分野も伸ばしていきたいです。

また、介護も今後の重要な課題になると考えており、この課題に対して弊社は何ができるかについて、現在も議論中です。これからは、介護をはじめとするさまざまな分野の新しい情報を収集し、弊社がどのように関われるか考えています。このように様々な分野で新しい仕事を創出できる人材を求めています。何よりも、まずは社内の風土に共感してくれる人を採用したいと考えています。

編集後記

「デザインで最も重要なのは、情報を整理すること」。この一言で始まった今回のインタビューでは、加藤精工株式会社の運営において、「情報の整理」が大きな役割を果たしていることが伝わってきた。

情報を敏感に収集し、整理して結び合わせる、加藤聡人代表取締役のデザインに対する思いは、目標を共有する全社員にも浸透しているはずだ。製造業にデザインの力をプラスし、広い業界に乗り出していく。同社の前には明るい未来が広がっている。

加藤聡人/1983年、愛知県生まれ。2005年、雑貨メーカーにてデザインやウェブショップの立ち上げを担当しながら人事業務にも従事。2009年、自動車部品メーカーに入社し、品質管理を担当。2012年、加藤精工株式会社に入社。製造現場や営業を経験した後、工場長、専務を経て、2016年に代表取締役に就任。2021年にデザイン会社を設立。同年、京都芸術大学通信教育部を卒業。