※本ページ内の情報は2024年10月時点のものです。

小田垣商店は1734年の創業以来、黒豆と丹波篠山を活性化させるために尽力してきた。そして今、小田垣商店は素材としての黒豆を販売するだけでなく、カフェや宿泊施設の運営など、新しい事業にも挑戦している。

伝統を重んじながら、新たな黒豆の魅せ方を模索する代表取締役社長の小田垣昇氏に、黒豆や丹波篠山に生きる人々への思い、今後の展望をうかがった。

悩んだ末に家族経営の再興へ!アメリカ留学での経営者としての成長

ーー元々、家業の小田垣商店を継ぐ予定だったのでしょうか?

小田垣昇:
大学を卒業後、東京にある上場企業に入社しました。仕事は楽しく、大きな予算と重要な役割ももらっていたので、小田垣商店に入社するつもりはありませんでした。

ところが、入社して2年半が経った頃、父から突然、「会社を継いでほしい」と電話がありました。

とても悩みましたが、今までそのような真剣な父の声を聞いたことがなかったので、「小さな会社でも、この地域に根ざしていることには大きな価値がある。私が、この小田垣商店の中心になる」という結論に至りました。

黒豆を世の中に広げて、この存在を支えたい。黒豆に特化した会社の誕生と進化

ーーなぜ黒豆に特化したのですか?

小田垣昇:
明治初年ころ(1868から1870年にかけて)、丹波で黒豆は作られていましたが、当時はごく一部の家で栽培されていたに過ぎませんでした。

そのような中で、私たちの祖先が「丹波の黒豆は、もっと多くの人に知ってもらう価値があるすばらしい黒豆だ」と考え、地元の生産者に「黒豆を作ってみませんか」と働きかけたのです。まずは作り方をその生産者に伝えて、できた黒豆の全量を買い取ることから始めました。

丹波の黒豆(黒大豆)、丹波黒は栽培に手間がかかり、高い技術が必要な作物です。私たちは、まだ丹波黒の栽培技術が確立していない頃に、生産者に対して『黒豆だより』というお便りを発行しながら、「今年の黒豆はこのような作り方をしてください」と指導をしていました。現在でも各地で栽培技術の指導を続けています。

私たちは素材屋なので、良い素材を作っていただくことが大切です。悪い素材から良いものはできません。生産者の皆さんに良い素材を作っていただき、それを私たちの豆を選る匠が一粒一粒丁寧に選別することで、初めて世の中に大玉丹波黒大豆というブランドが出せるのです。

私たちは丹波の黒豆を一番古くから中心で支えて育ててきた会社です。黒豆を作る生産者との信頼関係がとても強いところが私たちの強みですね。

ーーどのような思いで、社屋にカフェを併設したのですか。

小田垣昇:
私たちの大きな使命は、黒豆を日本全国の小売店や豆屋さん、料理屋さんなどに素材として提供することです。そして、生産者の方が大切な丹波黒を将来も安心して作れる環境を整備して育てていくには何が必要かと考えて、カフェを作ることにしました。

カフェの役割は2つあります。

1つは若い世代の方にも黒豆を食べてもらうことです。黒豆ファンはご年配の方が多く、その世代のお客様もとても大切ですが、やはり将来も見据えて、若い世代にも黒豆の魅力を伝えることが重要だと考えています。カフェを通じて、黒豆の食べ方やそのおいしさ、そして健康的な食材であることを知っていただきたいですね。

もう1つの役割は、黒豆はお正月以外も楽しめるということを知っていただいて、春夏秋にも黒豆を食べていただくことです。これを実現するために、カフェで黒豆をいろいろな形で提供し、黒豆ファンを増やしていきたいです。

ーー今後、チャレンジしたいことは何ですか?

小田垣昇:
私たちの会社の敷地内にある建物10軒が、国の登録有形文化財に登録されました。これは、私たちにとっても大切な建物です。

丹波篠山市は日本遺産に認定されており、その構成要素にこれらの文化財も含まれています。現在は、そのうちの一軒をカフェとして利用していますが、これらの文化財をもっと活用して、丹波篠山と世界をつなぐ黒豆文化の発信拠点にしたいと考えています。

現在、3軒の建物を改修し、一棟貸しの宿泊施設にする計画を進めています。この宿泊施設には、宿泊していただいた方だけが夜に見ることができる石庭があります。光と枯山水の美しい景色が心を癒してくれるでしょう。宿泊施設の建物は文化財を活用しながらも、設計監修には世界的に著名な芸術家や建築チームが関わっており、アートの要素も加わっています。

文化的な空間でゆっくり休んでいただきながら、黒豆茶作りをするなどして、黒豆のことをもっと知っていただきたいですね。この宿が、丹波篠山ファンや黒豆ファンを増やすきっかけとなるよう、ゆっくり時間をかけて施設をつくっていきたいと考えています。

日本の伝統食材、黒豆の魅力を世界へ!海外展開で黒豆の可能性を広げる

ーー日本文化に興味のある海外の方に対して、どのような思いがありますか?

小田垣昇:
この日本の誇るべき伝統的な食材を多くの方に知っていただきたいですね。日本に来て、「おせち料理を食べたい」という海外の方も多いそうです。日本人だけでなく世界でお正月におせち料理を食べる習慣が広まると嬉しいです。

中国の方が旧正月に黒豆を食べたり、お祝いの際に日本の小豆を使ったお赤飯を作るのも良いと思います。そのような習慣が海外にも定着すれば、自然と私たちの黒豆も広く知られていくことになるでしょう。

すべての人にとってメリットがある環境作り

ーー黒豆はお正月のものという現状を打破するためには、どのような変化が必要だと思いますか?

小田垣昇:
私たちには、「一年中、黒豆を食べていただきたい」という思いがあります。これまで黒豆の消費はおせち料理としてだけだったお客様に、それ以外の時期にも使っていただくことで、常に黒豆が売れるようになります。そのような黒豆文化が根付けば、生産者が安心して黒豆を作ることができ、買っていただいたお客様も黒豆のおいしさを実感しながら体づくりに欠かせない栄養素を補っていただけます。

黒豆に関わる人々を巻き込んで、すべての人にメリットがある。私たちは、そのような進化をしていきたいです。

編集後記

「黒豆をおせち料理だけにとどめたくない」という熱い思いを語る小田垣社長。彼の黒豆と丹波篠山を愛する気持ちが、新しいアイデアを生み出す原動力になっていると感じた。カフェや宿泊施設、インバウンド向けのお土産としての黒豆商品の開発など、小田垣商店の取り組みは無限に広がっている。小田垣社長はこれまでとは違う分野への進出を継続しても、周りを巻き込みながら、皆がわくわくできるような事業を展開していくことだろう。

小田垣昇/1970年、兵庫県多紀郡篠山町(現:丹波篠山市)生まれ。横浜市立大学を卒業後、商社に入社。1997年にアメリカへ留学し、UCLAビジネスコースを修了後、株式会社小田垣商店に入社。2019年、代表取締役社長に就任。篠山ロータリークラブや一般社団法人神戸経済同友会等に所属し、丹波篠山国際博実行委員長としても地域貢献活動に取り組む。