※本ページ内の情報は2024年10月時点のものです。

農林水産省によると、日本のカロリーベースの食料自給率は、2022年度も38%にとどまり、長期的には低下傾向が続いてきたが、2000年代に入ってからは概ね横ばい傾向で推移している。国内の米の消費が減少する一方、畜産物や油脂類の消費が増加するなど、食生活の変化もあった。

油脂類の原料の多くは輸入に頼っており、畜産物の飼料の自給率も低い。そこで国は令和12年度までにカロリーベースの総合食料自給率を45%まで引き上げるという目標を掲げている。このような中、株式会社つま正は「八百屋」として、生産者の思いを消費者に届け、野菜の価値を高めている。今回は、同社の代表取締役社長である小山正和氏に話をうかがった。

築地市場での経験が今の軸に!30年の実践で培った信念とは

ーー学生時代から現在の代表取締役になるまで、どのような経緯があったのでしょうか?

小山正和:
学生時代はサッカーやスケートボード、DJとしての活動などに没頭していました。高校卒業後は築地市場で7年間働き、生産者と顧客の間に立つことの重要性を学びました。商品を届けるだけでなく、情報を正確に伝えることが大切であり、そのためには産地に足を運び、漁業者の思いや生産者の作物の育て方を直接見て理解することが必要だと感じ、これを30年近く実践しています。

レストランから家庭まで、野菜の価値を広める八百屋の事業戦略

ーー現在の事業について、具体的にはどのような取り組みをしているのでしょうか?

小山正和:
現在はレストランやホテルに野菜を卸しています。私は、レストランに野菜を届けることは、川の流れで言えば川上に位置すると考えています。たとえば、レストランに珍しい野菜を提供し、その野菜を使った料理を食べた人が「美味しい」と感じたとき、スーパーで同じ野菜を見かけた際に家庭で再現してくれることがあります。これにより、家庭でも外食のように満たされた気持ちを味わえます。

ーー野菜の魅力について教えてください。

小山正和:
たとえば、刺身に添えられている菊の花は飾りではなく食用菊で、抗酸化作用や美容効果があります。菊の花の香りで刺身の風味も楽しめますので、醤油や刺身に散らして食べてみてください。同様に、大根のつまにも美肌効果があり、そのまま捨ててしまうのはもったいないですね。

現代のように技術が発展していない時代の先人の知恵ですが、日本人でも知っている人は少ないと思います。これらの魅力を日本人だけでなく、訪日外国人などにも伝えていけるようにしたいですね。

スーパーでは味わえない八百屋の価値と新たな市場開拓への挑戦

ーー将来的な展望について、どのように考えていらっしゃいますか?

小山正和:
「原点回帰の八百屋さん」でありたいと思っています。野菜を買う際に、価格重視であればスーパーで購入するでしょう。しかし、同じような野菜を繰り返し購入し、決まった献立になってしまうことが懸念されます。

一方、八百屋ではあまり見かけないような旬の野菜を販売しており、その場で店員から産地や調理方法を聞くことができます。これにより、食卓が豊かになり、家族の会話も増えると考えています。

ーー新型コロナをきっかけに始めたBtoC事業について、どのように進めているのでしょうか?

小山正和:
あえてスーパーには卸さず、ECサイトや横浜などでの直接販売、ドライブスルーやマルシェを通じて販売しています。今後も直販を拡充し、野菜の魅力をしっかり伝えていきたいと考えています。

農林水産省によると、基幹的農業従事者(※)の平均年齢は67.7歳と高齢化が進んでいます。特にコロナ後は、化学肥料やハウス資材の経費が増加し、後継者不足に悩む農家も多い状況です。弊社は、農家のこだわりを消費者に伝えることで、野菜の価値向上、生産者の所得向上に貢献しています。

(※)基幹的農業従事者:15歳以上の世帯員のうち、仕事として主に自営農業に従事している者

生産者の思いを伝える八百屋の未来ビジョンと従業員の役割

ーー5年後、10年後のビジョンについてお聞かせください。

小山正和:
従業員とともに、「八百屋」であり続けたいと思っています。生産者の環境や考え方を自分事として捉え、職人である生産者の思いを職人である料理人に伝えることで、その思いを共有する。思いを持った料理人に調理をしてもらうことで、その料理の価値があがり、生産者にも還元できる。それが私たちの仕事だと思っています。

ーー貴社の従業員の特徴を教えてください。

小山正和:
弊社の従業員は非常にコミュニケーション能力が高く、顧客との対話を通じて信頼関係を築くことに長けています。この能力は、特に採用時に意識しているわけではなく、日々の業務を通じて自然に培われていくものです。従業員一人ひとりが持つ個性を尊重し、それぞれの強みを最大限に引き出すことを経営の基本方針としています。

私たちが大切にしているのは、多様性を尊重し、多様化する時代に柔軟に対応できる姿勢を持つことです。特に現代の市場は変化が激しく、固定観念にとらわれずに新しいアイデアを取り入れる柔軟性が求められます。従業員が自ら考え、行動し、新しい挑戦に恐れずに取り組むことで、会社全体の成長と顧客満足の向上につながると信じています。

また、弊社の従業員は、ただ野菜を販売するだけでなく、その背景にある生産者の思いやストーリーを顧客に伝えることを使命と感じています。これにより、顧客との絆が深まり、野菜の価値も一層高まります。こうした情熱と誇りを持った従業員たちとともに、これからも「八百屋」としての役割を果たし、地域社会に貢献していきたいと考えています。

編集後記

日本の食料自給率は低いと言われる中で、その解決の一助を担うために家庭菜園をしたり農家になるなどの選択肢はある。その中で、あえて「原点回帰の八百屋」として、生産者の思いをレストランやホテル、さらにはエンドユーザーである消費者に届ける小山代表。

その活動は、生産者、消費者、販売者の「三方よし」を実現する。生産者の収入増加や高齢化問題への対策、消費者の食の豊かさの向上や家族のコミュニケーションの増加、販売者の売上増加や思いの共感につながり、最終的には必ずや日本の食料自給率アップに貢献するだろう。

小山正和/株式会社つま正の2代目。高校卒業後、築地市場の荷受会社に7年間勤務し、2004年に株式会社つま正に入社。2021年に代表取締役社長に就任。調理師免許および野菜ソムリエの資格を持つ。