※本ページ内の情報は2024年9月時点のものです。

時代の変化により既存事業の売上が落ち込み、倒産を余儀なくされる企業は後を絶たない。そんな中、電話線の製造からカテーテル開発、そしてキャビアの養殖と、次々と異業種に挑戦してきたのが、金子コード株式会社だ。

新規事業の開拓に力を入れる理由や、養殖事業を始めたときの思い、社会貢献の取り組みなど、代表取締役社長の金子智樹氏に話をうかがった。

原価を抑え、質の高さで勝負した海外での販路開拓。会社の立て直しに奔走した社長就任時

ーーまず入社してから取り組んだことを教えてください。

金子智樹:
入社当時、弊社は電話線事業に特化しており、私はイチから仕事を学ぶため営業部門に配属されました。その後、日本企業の海外進出の流れを受け、シンガポールで販売拠点の開拓と材料の調達を行いました。

このときに壁となったのが、販売価格の違いです。弊社の電話線は、海外製のものより販売価格が2倍以上高い状況でした。

そこでコスト削減のため中国・蘇州に工場を設立し、1年後に原価を3分の1まで下げることに成功しました。すると「価格が同じなら品質が高い方がいい」と海外企業から選ばれるようになり、売上を大幅に伸ばすことができました。

ーーその後お父様の後を継いで社長に就任していますね。

金子智樹:
本来は2年早く世代交代する予定だったのですが、そのタイミングで倒産の危機に追い込まれてしまったのです。ただ、ここでメディカル事業がようやく黒字化し、銀行から融資を受けられ、何とか危機を回避しました。

メディカル事業を立ち上げたのは、携帯電話の普及で電話線の需要が低下したためです。そこで先代が新しい事業を始めようと電話線の押出し成形技術を応用し、カテーテルの製造をスタートしました。立ち上げから10年は赤字事業でしたが、ようやく芽を出し会社の危機を救ってくれました。

その後、社長に就任した当初はまだ経営が安定していなかったため、まずは会社を立て直そうと5つのテーマを掲げました。1つ目は売上の回復、2つ目は人材の採用と育成、3つ目は会社のブランディング、4つ目はグローバル化、5つ目が財務強化です。

こうして基盤を強化しながら成長し続けるため、企業改革を行いました。

倒産の危機を救ったカテーテル製造事業の強みと戦略

ーーメディカル事業について詳しくお聞かせください。

金子智樹:
当事業でつくっているカテーテルとは、体内に入れる細長い管のことで、切開せずに治療や手術を行うための医療機器です。

弊社の強みは、設計から製造まで一気通貫で行っており、あらゆる素材を使いこなせる技術力です。さらに多様な太さのカテーテルを提供し、カスタマイズにも対応するなど、医療現場のニーズに合った製品開発を行っています。

養殖事業にかけた金子社長の思い。豊かな水資源で育てた日本産のキャビア

ーー新規事業に着手したときはどのような考えがあったのでしょうか。

金子智樹:
メディカル事業に救われた経験から、新規事業の重要性を痛感し、「常に開拓しなければ未来はない」という思いを強く持っていました。また、経営が安定しているうちに始めることで、他の事業が傾いたときにしっかり支えられる事業になると考えました。

そこで当時の電線事業部のトップに、新規事業のテーマを見つけるというミッションを課したのです。それに際し、3つの条件を挙げました。1つ目は、既存事業の延長線上にないものを選ぶこと。2つ目は、成功するのに10年かかるものであること。3つ目は、世界一になれるテーマであることです。

これらの条件を設けた理由は、既存の枠にとらわれず、新しい可能性を追求するためです。なお、事業の延長線上のものは各事業部がすべきだと判断しました。

もうひとつの理由は、じっくり時間をかけることで大企業に負けない事業に育てるためです。その頃、大企業の社長の平均任期は6.2年というデータを見て、10年もかかる事業には手を付けないだろうと考えました。

それに加え、10年もかかるものは他社が簡単にまねができないというのも大きな理由です。さらに世界一を目指すことで、多くの方に興味を持っていただき、支持を得られると予想しました。

ーーその中で、なぜキャビア養殖を選んだのですか。

金子智樹:
発展途上国では食糧不足、日本ではフードロスと、世界共通の課題である食をテーマにしようと思ったからです。日本は水質レベルが高いため、チョウザメを育てるにはうってつけの環境だと思いました。

チョウザメの養殖は水を使い回す循環式が一般的ですが、豊かな水資源を活かし、自然水源で育てることを決めました。このアイデアを思いついたときは、どんな美味しいキャビアができるのだろうとワクワクしましたね。

それから最高の水を求めて日本中を探し回り、静岡県浜松市の天竜区春野町に養殖場を設けました。また、世界中から約250種類の塩を調達し、旨味を最大限引き出せるよう塩分濃度も研究を重ねました。

こうして生まれたのが「HALCAVIAR(ハルキャビア)」(※)です。臭みがなく、旨味が凝縮されているのが特徴です。鮮度へのこだわりから賞味期限を3週間と短く設定し、飲食店にのみ販売しています。

(※)「HALCAVIAR(ハルキャビア)」公式HP

キャビア養殖は弊社にとって異業種ではありますが、品質を追求し顧客のニーズに合わせて開発する点は、今までのものづくりと同じだと感じています。

社会貢献と自社のさらなる成長を目指す

ーー最後に今後の展望についてお聞かせください。

金子智樹:
海外での生産拠点や販売市場をさらに拡大していこうと考えています。また、ノーベルサステナビリティトラストの日本代表理事として、持続可能な社会の実現に向けた貢献活動にも力を入れていきたいですね。

日本の優れた技術を世界に発信しつつ、金子コードとしても寄与したいと考えています。そこで今、着手しているのが、空気から水をつくる大気水生成装置の開発と、テーブルウェアブランド「美織(MIO)」です。

美織では、伝統工芸技術を駆使した食器類の販売や、着物の生地や和紙を使ったお皿などの製造を行い、職人たちの技術の継承を支援しています。これらの事業を通じて、社会課題の解決と、企業としての成長の両立を目指していきます。

編集後記

電話線の製造からキャビアの養殖、大気水生成装置の開発、食器の製造など、幅広い事業を手がけてきた金子社長。ここまで果敢な挑戦をするのは、時代の変化により一気に既存製品の需要がなくなる怖さを経験したからなのだと納得した。常に新しい事業を生み出し、自社の発展と社会貢献に尽力する金子コード株式会社のさらなる活躍に期待だ。

金子智樹/1967年東京都出身。青山学院大学経済学部卒業後、1990年に金子コード株式会社入社。1994年シンガポール現地法人のKANEKO(ASIA)PTE.,LTDの初代社長に就任。中国金子電線電訊(蘇州)有限公司とあわせ、海外事業の責任者としてグローバル営業・経営に従事。のちに董事長に就任。電線部門の営業、専務を経て2005年、金子コード株式会社代表取締役に就任。2022年、一般財団法人Nobel Sustainability Trust Japanの代表理事に就任。