
2002年に設立されたアシザワ・ファインテック株式会社は、1903年創業のアシザワ株式会社から、機械製造事業を受け継いだ産業用機械メーカーだ。メイン事業は、ナノサイズの微粒子にまで対応する粉砕機・分散機(ビーズミル)の開発・製造・メンテナンスである。代表取締役会長の芦澤直太郎氏に、会社の成り立ちや事業の強み、独自の社風についてうかがった。
家業である老舗機械メーカーの組織風土を大改革
ーーご経歴と入社後の取り組みをお話しいただけますか。
芦澤直太郎:
私は、明治時代から鉄工業を営む家の4代目として生まれました。父の仕事を間近で見たことはなかったものの、親族からも後継ぎとして可愛がられ、物心ついた頃には、いずれ機械メーカーの社長になることを意識していたと思います。
家業に入る前に銀行に勤めたことから、得意分野は財務管理の領域となりました。また、学生時代に熱中したラグビーでの経験も含めて、チームプレーや組織における「適材適所」の大切さを学べたことも大きいと感じています。
また、「あらゆる人材の個性を伸ばす」という考えを、昔ながらの製造会社に持ち込めたという自負もあります。具体的に何をしたかというと、男性中心だった組織を改革し、女性の活躍を推進したのです。その結果、業界内において特色のある会社となりました。現在は、国籍やハンディキャップを問わず、さまざまな背景や状況を持つ人が輝くダイバーシティを目指しています。
このような取り組みを進めたことで、新卒採用者の3年以内の定着率は100%を達成しています。さらに、育児休業の取得率は男女共に100%です。カムバック採用が増えていることも誇らしいですね。
ーー経営におけるターニングポイントをお聞かせください。
芦澤直太郎:
父が経営する会社に入った1991年に、バブル経済が崩壊したことが最初のターニングポイントですね。カリスマ経営者として成功していた父でさえ、どうしていいかわからないほど業績が低迷し、経営の素人だった私や、父の方針に従うことが当然だった社員たちは、自ら意見を出すことができない状況でした。
影響は長く続き、2000年に代替わりしてからも業績がなかなか回復せず、とうとう銀行から廃業を提案されてしまったのです。危機感がピークに達した私は、創業100周年を控えた2003年に社員を一堂に集めました。そして、全社員の解雇と退職金の支給を事前に通告し、「私自身が創業者のつもりで新会社を設立するので、組織風土の変革に賛成の方はついてきてください」と宣言したのです。
目的は、人員削減や単なる商号変更ではなく、時代に合う会社への再生と社員の意識改革でした。その上で、風通しのいい組織となるべく、できることから着実に変革を進めるので、社員にも主体性と思考力、そして発言力を持ってもらいたいと訴えたのです。
その後、前身企業の機械事業を移転する形で「新創業」を果たし、私たちは回復の道を歩み始めました。
「微粉砕」の技術を極めてものづくりをサポート

ーー現在の事業内容を教えてください。
芦澤直太郎:
大手化学メーカー向けの粉砕機を開発・製造し、販売からメンテナンスまで一貫したサービスを提供しています。さまざまな種類の粉砕機がある中でも、弊社は最も細かいレベルの「微粉砕」という分野に特化し、オーダーメイドに対応してきました。
1ミリメートルの1000分の1は1マイクロメートルですが、そこから、さらに1000分の1となる1ナノメートルを目指すのが微粉砕機です。創業から120年という歴史の中で、粉砕機事業に本格的に取り組んだのは1978年以降で、粉砕機メーカーとしては後発でした。そのため、他社との差別化にあたって、難しい粉砕が可能な機械をつくる道を選んだ次第です。
目に見えないほど細かい粉は、UVカット化粧品、自動車のボディ用塗料、インクジェット印刷のインクや紙幣用インクなど幅広く利用されています。たとえば、スマートフォンのタッチパネルにも利用されているんですよ。ディスプレイ表面に薄く塗られたナノ粒子によって、映像が鮮明になったり、タッチパネルの操作性が上がります。
社員と顧客を大切にするサステナブル企業を目指して

ーー会社の代表として、心がけていることはありますか?
芦澤直太郎:
我が社を「人を大切にする会社」にすることです。そうすることで、社員たちが良い仕事をして、お客様にも喜んでもらえるに違いないと考え、社員は技術開発に、私は快適な環境づくりに励んできました。この取り組みが評価されたのが、2024年に受賞した「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞の審査委員会特別賞であると思います。
大賞の選考基準は業績ではなく、従業員やお客様を大切にする取り組みや、地域社会と共存共栄していく姿勢です。2023年の「グッドカンパニー大賞・優秀企業賞」と合わせて、高く評価いただいた組織風土は、全国に胸を張れるものではないでしょうか。
また、「見えないことで、未来を拓く」というスローガンの体現も大切です。ペーパーレス化や自動車のEV化など、世の中の変化が激しい時代だからこそ、見えない未来をお客様とともに切り開けるよう、自社技術の研鑽に努めています。
ーー今後の展望をお聞かせください。
芦澤直太郎:
国内が中心だった営業活動を強化して、海外展開を進めていくステージに来たと考えています。東アジア・東南アジアをはじめ、アメリカやヨーロッパにも我が社の技術を広めたいところです。
先端技術を扱うメーカーとして業界のトップをひた走っていますが、失敗を恐れず挑戦する姿勢を常に持ち続けたいと考えています。答えがある問題に取り組み、効率よく正解にたどり着くことは得意ではありません。紆余曲折しながら、変化を楽しむ精神で企業努力を続けていきます。
経営における一番のビジョンは、次の100年を意識した「会社のサステナブル化」です。時代の変化に耐えうるフレキシブルな組織づくりにあたって、後継者選びも世襲制にこだわらず、経営に意欲的な人にチャンスを提供していこうと思います。
編集後記
「微粉砕機」の領域において、世界最先端の技術を追求してきたアシザワ・ファインテック。視認できない微粒子をつくる技術が、私たちの日常に関わるさまざまな製品を完成させていたとは驚きだ。まさに、世間一般には「見えない世界」で大きな役割を果たしている企業は、同じく目には見えない人の思いと信頼を常に重んじている。

芦澤直太郎/1964年生まれ。2000年、親の会社の社長に就任。2003年、創業100年を機に新創業。現会社に移行して組織風土の変革と業績のV字回復を実現。2023年、次の100年に向けて従業員出身者を次期社長に指名し、代表取締役会長に就任。千葉県教育委員会委員、習志野商工会議所会頭などの公職を引き受け、地域の若者育成と産業界の活性化に取り組む。