※本ページ内の情報は2024年10月時点のものです。

建築業界は男性が多く、女性社長は非常に少ない。そのような環境の中で、地域に根ざした創業78年の工務店の4代目社長として活躍するのが、大関泰子氏である。家業を継ぐ決意を固め、建築業界に挑戦してきた。大関氏が株式会社湯建工務店の代表取締役社長に就任するまでの道のりは、決して平坦ではなかったが、どのようにして会社を変え、地域に根ざした工務店としての強みを引き出してきたのか、その詳細を掘り下げていく。

建築業界で珍しい女性社長になるまで

ーー建築業に携わったきっかけと、社長になるまでの経緯を教えてください。

大関泰子:
私の家では、祖父の代から家業として建築会社を営んでいたので、家族が仕事をしている姿を見ながら育ちました。学生時代から建築には興味があったのですが挫折してしまい、大学は英文学科に入りました。卒業後はビジネスに興味を持ったことから商社を選びましたが、建築への思いが再燃して2000年に弊社に入社しました。

祖父が途中で区議会議員になったため、その後、祖母が社長を務めることになりました。私は、ランドセルを背負っている頃から、2代目社長の祖母を見て育ち、建設業界では珍しい女性社長の姿に「自分もこういう人になりたい」という憧れを抱いていました。今の私があるのは、祖母の影響が大きいと思っています。

ーー女性が建築会社に入ることについて、当時はどのような反応がありましたか?

大関泰子:
入社した当初は、私が今まで働いていた商社とは全く違う雰囲気でした。女性が事務員2人ぐらいしかおらず「少ないな」と感じていました。

また、父は社長で私は身内ということもあり、「最初は、社員と同じ目線で仕事をしなさい」と言われていました。社長の娘として特別扱いされることがないように、宅建士や、二級建築士、一級建築士の資格を取得し、自分の実力で戦えるように努めてきました。

しかし、当時改修工事の現場に行くと、「お前に何ができるんだ」と言われて、悔しい思いもしました。それでも、わからないことがあれば、「今、何やっているんですか?」「これから何をするんですか?」と積極的に質問して、都度、現場の職人や大工に教えてもらい、建築現場の知識を学んでいきました。

ーー女性が少ない職場や現場に女性人材を増やしたことによる変化について教えてください。

大関泰子:
当初から「女性が働きやすい職場環境にしなければ」と思っていました。その理由は、女性目線で活躍できる社員を増やして、リフォームなどにも力を注ぎたいと思ったからです。現在、正社員のうち、女性が全体の4割ほどになり、社内の中も笑顔も増えました。職場の雰囲気が柔らかくなり、これからも建築業界で女性がイキイキと働くことができる職場をつくっていきたいと思っています。

地域に根差した「ホームドクター」としての幅広い対応が強みに

ーー創業78年の老舗工務店として、大切にしていることを教えてください。

大関泰子:
弊社は、大田区を中心に仕事をさせていただいているため、地域の信頼を失ったら仕事がなくなると思っています。会社を大きくすることよりも、誠意をもって長く事業を続けることを目標にしています。地域のお客様が建物で困った際にお手伝いできる「ホームドクター」だと思っています。

また、弊社は、リピーター率が高いことが特徴です。一度お客様になっていただくと、職人さんや私たちが働いている現場を見て、さらにファンになっていただけることが多くあります。丁寧な工事が高い評価を得て、新規の仕事にもつながっています。

ーー大田区での実績についてお話しいただけますでしょうか。

大関泰子:
大田区は、もともと大森が海苔の生産地でしたが、過去に東京湾の埋め立てが行われ、その後の土地活用方法として、アパートが建てられる時期がありました。また、建設会社の多くは、マンションや鉄骨構造の倉庫や工場などに特化したり、戸建て住宅や木造住宅に特化したりしています。

しかし、弊社は地域のお客様の「ホームドクター」でいたいと考えているため、あえて専門分野を持たず、要望は極力断らないのがポリシーです。当時は、木造が多かったのですが、先駆けてコンクリートのマンションも手がけてきました。幅広く対応できることが強みで、新築以外にリフォームも行い、年間で500件以上を施工させていただいています。

ーー新築だけでなく、耐震補修も行うとお聞きしました。

大関泰子:
新築と改修工事を行っています。改修工事では、細かな修繕から耐震改修まで行っています。耐震診断や耐震設計のほか、補強工事まで行う点も、弊社の強みです。

地域のお客様の信頼を得るための対応力を大事にしたい

ーー新築工事やリフォームなどを行う際に、心がけていることを教えてください。

大関泰子:
お客様の要望をかなえるためにも、綿密に打ち合わせを行わないと、要望が伝わらないと思っています。工事中も、お客様に月1回は工事の進捗報告を行い、打ち合わせの時間をつくっていただいております。

ーー貴社ならではの強みを教えてください。

大関泰子:
建築会社で、専属の大工を抱えることは難しいとされていますが、弊社の仕事のみを行う大工がいることで、お客様が困っているときに、すぐに対応することができます。これも私たちの強みです。

ーーお客様との時間をつくるために、業務の効率において工夫している点を教えてください。

大関泰子:
これまでは、現場から会社に戻り、メールや図面チェック、建築材料の発注をしていましたが、数年前に、iPadを使って、現場でも対応できるように改善を行い、効率化しました。さらに、勤怠管理もスマートフォンで行えるようにして、自動化して処理できるようになったことで、仕事の効率化につながりました。

ーー今後の事業についての思いをお聞かせください。

大関泰子:
弊社では、社員数が限られているため、エリアをある程度限定しています。今ある仕事で、お客様に満足していただき、ありがとうと言っていただくことが、新入社員のやりがいにつながっています。コミュニケーションを大事にして、お客様に寄りそった仕事をすることで、仕事の成果にもつながります。

担当者もお客様に信頼していただき、お客様との関係性をやりがいにつなげ、さらに、お客様の目線に立って仕事をしていくことが大事であると考えているので、今後は、さらに地域のお客様とより良いつながりにしていけるよう社員全員で取り組んでいきたいと考えています。

編集後記

建築業界の女性社長として、女性の登用を積極的に行い、地域に根ざす工務店として「ホームドクター」を目指してきた大関社長。その姿勢からは、売上だけにこだわらず、地域の顧客の要望に応えることを第一にする姿勢が感じられた。そして、それをやりがいに感じる社員を育てる真摯な姿勢も、非常に印象的である。大関社長が率いる湯建工務店が、地域社会に貢献し続ける未来に大いに期待したい。

大関泰子/1974年生まれ。東京都出身。短期大学卒業後、商社で営業職に従事。2000年に家業である株式会社湯建工務店に入社。リフォーム営業や経理を担当しつつ、社内のシステム化などを推進。2017年、代表取締役社長に就任後、女性登用や幅広い事業の展開、業務の効率化に努めている。