高齢化が進み、29歳以下の就業者は約12%とされる建設業界では、次世代の担い手の確保・育成に向けて処遇改善、働き方改革、生産性向上が急がれる。そんな中、土木建築会社である株式会社名尾建では、10代から50代までの幅広い年齢層の社員を雇い、しかも業界では高い年収を実現している。「経営者はファイターだ」と自負する代表取締役社長、名尾俊太郎氏の取り組みを聞いた。
施工現場を仕切るリーダーを育成して稼げる会社になる
ーー貴社の特色について教えてください。
名尾俊太郎:
1988年の創業当初はダンプ輸送業でした。現在、弊社は社員30人規模の土木建築会社ですが、社員は10代から50代まで各年代にバランスよく在籍しているのが特色ですね。30代までの社員が17人、同業他社と比べると若手社員の割合は高い方です。
そして、もうひとつの特色は、給与水準が高いことです。2025年には平均年収は約600万円を超える見込みです。もちろん福利厚生面も充実しています。社員がしっかり働いたら、しっかり評価されるよう、会社は環境を整えています。
ーー高い給与水準を確保できる理由は何ですか?
名尾俊太郎:
職長、つまり施工現場を仕切っていくリーダーを育てているからです。もう少しわかりやすく説明すると、建設現場ではさまざまな職種の専門工事会社が集まり、各社の職長が自社の持ち場の工程や進捗を管理します。職長の役割はお互いにコミュニケーションを取り合って作業全体をとりまとめることです。職長の采配で現場が円滑に進めば、その分利益も上がるため、多岐にわたる業務をこなせる人は、評価をする形をとっています。
ーー人材育成としてどんな取り組みをしていますか?
名尾俊太郎:
私はただ単に「人材育成」といった抽象的な目標ではなく、先に述べたように「職長を育てる」、つまりリーダーを育てるという明確な方針を打ち出しています。
具体的にどうするかというと、社長である私が現場に入って、社員と直接話をしながら仕事をしています。社員一人ひとりの個性と向き合うよう心がけているのです。もちろんいくつもの現場がありますから、ポイントを絞って必要なときに駆けつけるという感じですが、この取り組みが一番効果的だと思います。
ーー1対1の関係づくりを社長自ら実践されているのですね。
名尾俊太郎:
現場に行くと、いろいろなことが見えてきます。たとえば、「あの社員はこの社員とコンビを組むと1+1以上の+αの良い仕事をするけど、別の社員との組合せだと単なる1+1の足し算にしかならない」といったようなことも見えてきます。
このような取り組みは、規模の小さな会社だからこそできることかもしれませんが、厳しい工程管理の現場にとって、社員同士がどうシナジー効果を出していくかは重要な情報です。
仕事に対する誇りが会社のブランド力を高め、地域貢献の原動力になる
ーー社員の年収を高水準で維持するには、会社の売上、収益を確保しなくてはなりませんね。
名尾俊太郎:
3人の社員に1億円の仕事を3本やりきることを求めるのではなく、3人の社員が手を取り合って5000万円の仕事を6本やりきる仕組みを大事にしています。実際に社員同士で知恵を出し合って工夫をし、実践に移して結果を残してくれますね。
また、そこから生まれてくるコミュニケーションが組織を活性化し、社員のリーダーシップ形成にも役立ちます。
ーー互いに力を合わせていくことで社員が成長していくわけですね。
名尾俊太郎:
そのような積み重ねの中から、社員に自信が生まれ、仕事が好きになり、会社が好きになっていくわけです。会社が好きになると、働いている地域が好きになり、日本が好きになる。こういうプロセスを繰り返しているうちに、「好き」が仕事への「誇り」へと変化していき、もっと地域を良くしよう、地域に貢献しようという意欲と行動につながります。そこから名尾建という会社のブランドも育っていくと思っています。
売上を上げる体制づくりは順調に進んでおり、2024年度の売上高は15億円を超える見通しです。
ーー地域への貢献では、事業だけでなくいろいろな地域イベントにも取り組んでいますね。
名尾俊太郎:
私は「生きたお金の使い方」をしたいと考えています。会社の資産を増やすことは後回しにして、地域のために使うことに決めているのです。
そのひとつの取り組みが、名尾建祭やマルシェの開催です。毎年、地域の方たちが大勢参加してくれます。他にも現在、地域の子どもたちが参加するキャンプを企画中です。知らない子どもたちとの集団行動の中で、何かを学んでくれたらうれしいですね。加えて、カフェ「nao cafe」やスタジオ「nao house」もつくりました。スタジオではピラティスの体験などができます。
社員一人ひとりの顔が見えるからこそ、魅力ある会社になれる
ーー会社の収益を社員の年収アップと地域貢献に活かすわけですね。そうした中で今後の経営に関する考えをお聞かせください。
名尾俊太郎:
正直なところ、会社の規模を無理に大きくしようとは考えていません。それは、むやみに規模を大きくして、社員一人ひとりの顔が見えなくなるのを避けるためでもあります。要するに、私は規模よりも質を重視しているのです。
若い社員が職長としてさらに成長できる環境を用意し、すべての社員が仕事を、会社を、地域をもっと好きになってもらえるよう、全力を尽くしたいですね。今進んでいるこの道をさらに歩みたいと思っています。
ーー将来的にどんな会社を目指していますか?
名尾俊太郎:
ひと言でいえば理想的な会社ではなく、魅力のある会社ですね。お互いの知識やスキルを共有するコミュニケーションが生まれ、社員どうしの力が合わさって、仕事力が評価され、組織ではなく組織”力”の高い会社になることが、私の目標です。これを突き詰めることが魅力的な会社につながると思っています。「名尾建」という名前を聞いたら「ああ、あの会社に任せれば安心」と一目置かれる会社にしていきたいですね。
経営者はファイターでなくてはいけません。それぞれの社員が自分の力を十分に発揮でき、協力し合えるように、社長である私がリーダーシップを取っていきます。
編集後記
会社として得た利益を、社員に還元し、地域の交流に役立てる名尾氏。硬派でストイックな経営姿勢だが、これが社員の仕事意欲を高め、株式会社名尾建のブランド力を高めていることがわかる。古き良き会社経営のモデルがここにあると感じたインタビューだった。
名尾俊太郎/1967年生まれ。高校卒業後、夜間大学に通いながら土木作業のアルバイトに従事。1988年、ダンプ運送の個人事業主として名尾建材を創業。1990年、東京都府中市に有限会社名尾建材を設立。2009年、株式会社名尾建材に組織変更。2019年、三郷営業所オープン。2020年、社名を株式会社名尾建に変更。