※本ページ内の情報は2024年12月時点のものです。

地域密着型のビジネスモデルが多い工務店。愛知県江南市には、ひときわ目を引く工務店がある。近年急成長を続けている株式会社波多野工務店だ。同社は住宅建築をはじめ、店舗や複合施設といった大型物件も請け負い、さらには地域住民とのコミュニケーションの場も提供している。

工務店がなぜここまで多角的な経営をしているのか。代表取締役の波多野智章氏に、事業内容や急成長の理由、将来目指す姿などを聞いた。

愛知県江南市の100年企業を引き継ぐ4代目社長

ーー波多野社長の経歴をお聞かせください。

波多野智章:
弊社は1913年に曾祖父が創業した会社で、私は4代目社長になります。自分は一人っ子で、父が10歳の時に亡くなってしまったので、幼いころから会社を継ぐ意識を持っていました。

大学は名城大学の理工学部建築科へ通い、卒業後は修行として大成建設株式会社に入社して、名古屋支店で5年間、現場監督として経験を積みました。入社間もないころから現場を任されたので、とにかく現場を正しく回すため必死に働きましたね。

大成建設での修行を終えると、弊社に籍を置きつつJTB系列の会社で2年間、建築営業に取り組みました。

正式に弊社の業務に携わるようになったのは1996年のことです。しばらくは専務として働き、2003年に社長に就任して現在に至ります。

地域コミュニケーションを取り入れた多角経営

ーー貴社の事業内容を教えてください。

波多野智章:
愛知県江南市周辺を中心に、注文住宅を取り扱う「住宅事業」や、数千万円〜5億円規模の大型物件を取り扱う「建築事業」などを行っています。最近では、トレーラーハウス事業や分譲事業にも取り組み始めました。

創業は1913年で、今までに地元を中心に1,200棟以上の住宅を建築してきたほか、公共施設やクリニック、保育園、店舗など、地域の建築ニーズに手広く対応しています。

最近では名鉄犬山線の布袋駅東側の地区再開発にて、他社とのジョイントベンチャーという形で複合公共施設を建築しました。2023年にはこの施設で、弊社の110周年記念を兼ねたお客様感謝祭を行い、愛知県警の音楽隊や地元江南市の警察の皆様のご協力のもと、大いに盛り上がりました。

ーー地域とつながるための事業も行っているそうですが、代表的なものを教えてください。

波多野智章:
まず1つ目が「GRADENING STUDIO(グラデニングスタジオ)」です。これは2022年7月にオープンした「こころ華やぐ家族との暮らし」をテーマにした施設で、観葉植物や雑貨の販売、マルシェの開催、暮らしの相談などを行っています。
植物との出会いをきっかけに、ガーデンやリノベーションの仕事にもつなげています。

もう1つが手ぶらでDIYが楽しめる「DIYパーク」です。使いやすい道具と広い作業スペースを完備しており、スタッフが常駐しているため、初心者でも楽しくDIYに取り組むことができます。こちらは未就学児向けの「キッズパーク」も併設しているので、たくさんのファミリーが訪れます。住宅購入を考えているご家族とつながる場として活用しています。

また、老人ホームの紹介と、入居後に空き家になる自宅の売却をセットで行う老人ホーム紹介事業も展開しています。老人ホームの資金問題と増え続ける空き家問題をセットで解決する事業で、住宅を売却した資金で良い老人ホームに入居できる効果もあります。

事業のバランスと継続的な人材の確保で高い成長率をキープ

ーー貴社独自の強みは何ですか?

波多野智章:
全国的にみても高い成長率が強みです。住宅産業研究所が刊行している『月間TACT』の2023年12月号に掲載された「過去3年間の成長率ランキング」では、注文系ビルダー部門で全国16位を獲得しました。

高い成長率の秘訣は、住宅事業と建築事業の2つに取り組んでいることです。片方だけだとニーズのムラにより売上が落ちてしまうケースがあるのですが、弊社は両事業にバランスよく対応することで、安定した売上増を実現しています。
今年は売上高40億円を目指しており、来年は50億円に到達できるように頑張っています。

また、5年前から毎年5名の新規採用を継続している点も欠かせません。会社を維持・成長させていくにはある程度の規模が必要です。50億円までは現状のスタイルで実現できると考えていますが、それ以上を考えたときに、育ててきた人材が活躍してくれることでしょう。

目指す姿は地域の方にとっての「暮らしのコンシェルジュ」

ーー今後の目標についてお聞かせください。

波多野智章:
地域の方の建物や住まいに関する悩みをワンストップで解決できる「暮らしのコンシェルジュ」のような存在になりたいです。

弊社は住宅と建築を核にしながら、多方面へ事業を拡大し、成長してきました。これにより、さまざまなノウハウが蓄積されているほか、地域の方とのネットワーク構築やコミュニケーションをとれる場の創造にも成功しました。

新築の相談はもちろん、皆様の生活背景やニーズをしっかりと理解して、個々の需要に合わせた物件を紹介できる体制をつくり上げていきたいです。

ーー波多野社長の「夢」を教えてください。

波多野智章:
とにかく「従業員たちが幸せになれる会社」を実現するのが第一です。入社して良かったと思えるような会社に成長させ、社員全員が笑顔で暮らせるお手伝いができればと思います。

そのためにも会社の成長は欠かせません。人材育成や後継者育成にとり組みながら、皆さんと一緒に「社員のため」になる会社へ成長させていきたいのです。

ちなみに、採用は新卒採用が多いのですが、キャリア採用による幹部層の拡充も図るべきだと考えています。

売上50億円を実現したあとの成長プランを描くには、皆さんの新しい力が不可欠です。どうすれば会社の力を最大限に引き出し、社員全員が幸せになれるのか、一緒に考えていきたいと思います。

編集後記

波多野工務店は今日まで地域とともに成長を続けてきた。その視点は急成長を遂げた今も変わらず、全国に事業エリアを広げるのではなく、地域とそこで暮らす人たちを深く知ることに向けられている。時代やライフステージに合わせて住まいのニーズが変化している今こそ、波多野社長が地域で担う役割は今後も価値を増していくことだろう。

波多野智章/1968年愛知県生まれ、名城大学理工学部卒業。大成建設株式会社に入社し、5年間現場監督としての修業期間を経て、1996年に株式会社波多野工務店入社。2003年に同社代表取締役社長に就任。