
イー・エル建設株式会社は、エスリードグループの一員として建設事業を展開する企業だ。マンションやホテルなどの「新築事業」、大規模改修などを手掛ける「リニューアル事業」、そしてメーカーと共同でプロダクトを生み出す「商品開発」という3つの柱で、就任からわずか数年で売上100億円規模への急成長を遂げた。
その原動力は、設計・デベロッパー出身である鈴木渉氏が主導する徹底した業務改革とDX推進にある。ゼロから新築事業を立ち上げ、会社を牽引してきた同氏に、その軌跡と未来への展望を聞いた。
設計と開発の経験が、事業の原点
ーーまず、鈴木取締役のこれまでの経歴をお聞かせください。
鈴木渉:
子どもの頃から「自分の家を自分で設計したい」「世の中のために何かをつくり、人に喜んでもらいたい」という思いがあり、大学では建築を学びました。卒業後は設計事務所に数年勤めましたが、そこでエスリードの物件を担当したご縁から、同社の設計室長だった方からお声がけいただき、デベロッパーの世界へ入ったのです。
畑の違う業界でしたが、配属されたのは設計部門でしたので、むしろ自分の力を生かせるのではないかと前向きに捉えることができました。設計事務所とは異なり、デベロッパーは、用地の仕入れから企画、販売まで、事業全体の大きな枠組みの中で動きます。さまざまな部署と関わることで視野が大きく広がり、マンションの企画だけでなく、管理、販売、パンフレット作成など、これまで専門外だった業務にも携わりました。会社の成長と共に自らも成長できる環境に身を置けたことは、非常に大きな財産になっています。
ーーイー・エル建設へ移籍し、新築事業をゼロから立ち上げた経緯を詳しく教えてください。
鈴木渉:
当時のイー・エル建設は、改修工事を主とする4、5人規模の会社で、特定建設業の許可を持ちながらも新築は手掛けておりませんでした。しかし、親会社であるエスリードの社長から「自社で新築ができる組織をつくってほしい」と、声を掛けていただいたのです。そこで2019年に私がイー・エル建設に移籍し、昔お世話になった方々や知人に声をかけ、5人の仲間とともに新築部門のチームを結成しました。
実績のない会社にいきなり大きな工事は任せてもらえません。最初はエスリード発注の物件を確実にこなし、一つひとつ実績を積み上げました。移籍後わずか4ヶ月で1棟目を着工できたのは、親会社の協力と集まってくれた仲間のおかげです。この実績が礎となり、グループ外のデベロッパー様から受注をいただく転機に繋がったのです。
3本の柱で事業を推進する、独自の成長戦略

ーー改めて、事業の主力である新築事業について詳しく教えてください。
鈴木渉:
現在の弊社の屋台骨となっているのが、マンションやホテル、そして万博施設のような鉄骨造・鉄筋コンクリート造の事務所ビルなどを手掛ける新築工事です。会社の最も重要な柱であり、全社員の約7割がこの建設部に所属しています。今では会社の売上の8割から9割を占める規模にまで成長し、名実ともに弊社の中心を担う事業となっています。
ーー2本目の柱として、改修事業の現状と今後の展望はいかがですか。
鈴木渉:
マンションの大規模改修工事はもちろん、ビルの内装や間仕切り、配管の更新まで、ありとあらゆる改修工事に対応しています。そして、このチームは今、新たな挑戦を始めており、2024年から官庁物件の入札に参加し、受注を目指しています。まだ実績はありませんが、ここで公共工事の経験を積み重ね、そのノウハウを新築事業に活かしていきたいです。将来的には、新築でも官庁物件にトライするための重要なステップだと位置づけています。
ーーそして3本目の柱として、商品開発というユニークな取り組みもされていますね。
鈴木渉:
まだ柱といえるほどの規模にはなっていませんが、「商品開発」は未来への投資として非常に重要視している事業です。建設業の枠にとらわれず、現場で生まれるアイデアをプロダクトとして形にし、世に送り出すメーカー的な役割を担っています。
たとえば、数年前にタイルの剥落事故が多発したことを受け、「絶対に落ちないタイルはつくれないか?」という議論がグループ内で起こりました。そこで、住友理工の子会社である住理工商事会社様と共同で、絶対に剥がれ落ちることがない商品を開発しました。
また、ある建具メーカー様とは、マンションの玄関横にあるメーターボックスの扉を共同開発しました。デザイン性に優れ、かつ施工も簡単な「スタイルイードア」という製品を生み出し、特許を取得しました。
これらは大きな利益を生むものではありませんが、社会貢献の一環として、また建設業界の課題を解決する取り組みとして、今後も積極的に続けていきたいと考えています。
業界の常識を覆すDX推進と徹底した効率化
ーーご自身の強みと、DX戦略についてお聞かせください。
鈴木渉:
私の強みは、設計事務所、デベロッパー出身で、ゼネコンの当たり前を知らないことです。そのため「これは無駄じゃないか?」という視点から、会社の体面のためだけの仕事や、上司のための報告書のようなものを徹底的に排除し、DXを推進しています。具体的には、全社員へのiPad導入やクラウド活用、契約・請求プロセスの完全電子化などを、トップダウンでスピーディーに進めています。
売上高500億円へ。組織と描く未来予想図

ーー今後の事業拡大の戦略と、会社として目指す最終的なビジョンをお聞かせください。
鈴木渉:
今お付き合いのあるお客様を大切にしながら、新規取引先の開拓を進め、企業としての存在感をさらに高めていきます。住宅関連に限らず、倉庫やデータセンターなど、社会が必要とするものなら何にでも挑戦していきたいですね。実績がない分野でも、優れた技術を持つパートナー企業と組むことで乗り越えていけると確信しています。その事業拡大を支えるため、営業チームの増員や、品質・安全管理といった専門部署の設置も進めます。
ただし、むやみに役職をつくるのではなく、あくまで効率的な組織づくりが前提です。そうして会社を成長させ、次の目標である200億、300億、そして将来的には500億円の売上を本気で目指します。何より、その先にある「社員とその家族が『この会社で良かった』と誇れる会社にする」。これが私の、一番の願いです。
編集後記
設計事務所、デベロッパーという異色の経歴を持つ鈴木取締役。「業界の常識を疑う視点」と「圧倒的なスピード感」こそが、イー・エル建設の急成長を支える核心だと感じた。DXによる徹底した効率化は、建設業界が抱える構造的な課題への一つの答えだ。新築、リニューアル、商品開発という3本の柱で事業を推進し、500億円という高い目標を掲げる。その原動力は「社員が誇れる会社をつくりたい」という強い信念。その挑戦はまだ始まったばかりだ。

鈴木渉/1973年生まれ。関西大学工学部建築学科卒業後、設計事務所に勤務。2006年、エスリード株式会社に入社し、事業本部設計室にて分譲マンションなど多くのプロジェクトに従事。2019年グループ会社であるイー・エル建設株式会社に代表取締役として就任。現在は取締役として、新築・リニューアルのほか、2025大阪・関西万博シンガポール館など幅広く受注。