※本ページ内の情報は2024年10月時点のものです。

創業106年という長い年月で築き上げた佃煮やそうざいのブランドに安住せず、時代の変化に沿った商品開発や飲食店の出店など、多彩な販売戦略を展開する株式会社石昆。年功序列を撤廃し、人事面でも先進的な取り組みをしている。常に先を見据えた経営戦略はどのように生まれるのか、創業以来4代目となる代表取締役社長の石川哲司氏に話をうかがった。

後継ぎならではのイメージの払拭に苦悩した入社当時

ーー入社当時の苦労について教えてください。

石川哲司:
4代目として入社した当時は、社員からどうしても「親の七光りで先代社長の息子が入ってきた」という受け止め方をされてしまうことに苦慮しました。結果を残さないとそのイメージは払拭できないと思いました。

弊社には、うなぎを常温で半年保存できる技術があるため、その技術を活かして「うなぎめし」というひつまぶしを模した商品を開発しました。このような商品は今までになかったので発売1週目で名古屋駅のキヨスクでの売上がトップになり、「社員の私を見る目」が変わったのです。ようやく認めてもらえたのだと感じたあの瞬間は今でも忘れることができません。

ーー事業を運営する中で失敗から学んだことはありますか。

石川哲司:
入社して1年ほど経った頃、ECサイトを立ち上げました。ところが、自社サイトとYahoo! JAPAN、楽天市場の総合売上が、会社全体の売上の1割程度に達するほど伸びていたにもかかわらず、経営は赤字だったのです。売上目標は達成しているものの、予算と計画が全く噛み合っておらず、予想以上に広告費がかかって利益が出ない状態でした。現在は自社サイトのみで販売しています。

このときの反省を活かしてしっかりとした原価計画を立てるようにした結果、今では経費も実際値と200万〜300万円くらいしか変わらないほど堅実な予測値を出せるようになりました。

商品開発のアイデアは豊富な経験によるひらめきから生みだされる

ーー新商品のアイディアはどのように生まれるのでしょうか。

石川哲司:
入社後、新商品のほとんどは全て私が開発しました。何が売れるのかという感覚は、やはり外に出ないと身につきません。トップダウンでつくった方がスピーディに進められるという利点はありますが、「こういうものがほしい」「つくりたい」という意見はどんどん上げてもらっていいと思っています。ただ、頭で考えたアイディアはすでに世に出ているものであることが多いのです。急に舞いおりてくるようなひらめきが大事で、そのように生み出された商品こそが間違いなく売れる商品だと確信しています。

アイディアのひらめきにはインプットが大切です。たとえば生まれて20年間でインプットした知識や経験は、社会に出てアウトプットをすると30歳で尽きてしまうといいます。インプットはアウトプットの10倍必要ですので、常にいろいろなことに触れて吸収していくことが大切ですね。

たとえば、お土産売り場で今まで知らなかった商品がパッと目についたとしたら、「なぜ目についたのだろう」と考えます。色合い、箱の形状なのかポスターによるのかということを自分の中に落とし込むことが重要で、それが「インプット」になるのです。

創業以来の昆布に加え、新たな素材で商品開発や飲食店経営を展開

ーー貴社の事業について教えてください。

石川哲司:
もともと創業は昆布から始まりました。今でこそ真空パックの昆布巻きが市場に流通するようになりましたが、最初に始めたのは弊社で、それまでは各家庭で昆布を巻いて作った昆布巻きが食卓に上がっていました。

35年ほど前に百貨店がパーキングエリアの運営を始め、そこで商品を売ってほしいといわれて生まれたのが「うみぁーっ手羽」です。もともと我が家で接待のために母がつくっていた手羽が原点で、その後改良を重ねて商品化しました。当時はあまり売れなかったのですが、万博の年に名古屋の注目度が一気に上がったことがきっかけで、名古屋駅のお土産で売上1位をとることができたのです。

洋菓子や和菓子が上位を独占する中、惣菜では初めての快挙で、その後名古屋土産の一角に定着するようになり、今ではサービスエリアにも販路が広がっています。また、新たなブランドとして、出汁にこだわるきしめんをメニューの柱に据えた飲食店「棊子麺(きしめん)茶寮いしこん」も展開しています。

その後、百貨店の閉店が相次ぎ、高級スーパーや量販店の銘店売り場などにも販路開拓の裾野を広げていくスタンスに変わりました。名古屋駅前の高層ビル「ミッドランドスクエア」の地下にも物販と飲食を並列して出店しています。土産用の商品は東海地方以外では売れませんが、昆布の佃煮は普段使いやギフトとして、さらに販路を拡大していくことも考えています。きしめんの店についても今後違う形態で出店したいと思っています。

ーー「棊子麺茶寮いしこん」出店の経緯について聞かせてください。

石川哲司:
手打ちなど麺にこだわるきしめんの店は今までにもありましたが、弊社はもともと昆布の加工技術を有する会社なので出汁に徹底的にこだわることができます。出汁にこだわるメニューの中でもきしめんであれば昼食に軽く召し上がっていただくことができ、お土産に手羽もご購入いただけると考え、出店に至りました。

時代に合わせた人事制度で、会社組織を活性化する

ーー社内の制度や規則について工夫している点を教えてください。

石川哲司:
今年の夏に大幅な組織改正を行い、就業規則も変えました。企業の労務や法務に関しては時代の最先端を走っていると自負しています。一般的に、老舗企業は遅れているというイメージをもたれがちですが、弊社は良い意味で「想像していた印象とは全く違っていた」という声を聞くことも多いです。

「パパ育休制度」も中小企業では珍しいと思います。結婚祝い金や子どもの出産祝い金、入学祝い金などは一切廃止しました。ジェンダー平等を重視する時代ですから、子どもの有無や性別で左右される制度は廃止し、その分を給料や永年勤続の祝い金に割り振りました。

また、残業はほぼなく、有給も基本的には100%消化しています。

ーー人事評価制度についてお聞かせください。

石川哲司:
「同一労働同一賃金」を導入し、アルバイトでも同じ仕事であれば同一賃金を支給します。また年功序列も廃止しているため、入社したばかりの方でも結果が残せる方は追い抜いて上にいけるようになっています。

ーー最後に、今後の展望について教えてください。

石川哲司:
今後はさらに新商品の開発や営業力の強化にも力を入れたいと思っています。お土産売り場のほか直営店の販路拡大も視野に入れています。また、違う形態での飲食店の出店も考えていますので、期待していただきたいと思います。

編集後記

常に先を見据えた営業戦略と、年功序列の廃止などで改革を進める石昆。石川社長の卓越したセンスと自信がその戦略に反映されている。革新的な商品開発や多角的な販売戦略は他社の模範であり、先進的な人事制度も従業員のモチベーション向上に寄与している。今後も昆布にまつわる商品力を強みに、飲食店経営や新たなマーケットへの進出が期待される。石川社長の次なる一手に注視し、同社の未来を追いかけていきたい。

石川哲司/1985年、愛知県生まれ。2004年、名城大学附属高等学校卒業。2008年、名古屋芸術大学デザイン学部卒業。2008年〜2009年、大阪にてフードコーディネーターの専門学校および調理の専門学校で学びを深める。2009年、株式会社石昆入社(取締役に就任)。専務取締役を経て2013年、代表取締役専務に就任。2015年、代表取締役社長に就任。