キーン・ジャパン合同会社(本社米国)が展開するアウトドア・フットウェアブランドの「KEEN」は、環境保護と社会貢献活動を通じて、独自のブランドイメージを確立してきた。世界的に注目されるサステナビリティの潮流の中、同社は早くからPFAS(有機フッ素化合物)フリー素材の開発や製造工程から地球環境負荷低減に取り組み、業界をリードする存在となっている。
今回は、同社のリージョナルマネージングディレクター兼日本法人代表のHilda Chan氏に、KEENの理念と日本市場での戦略について話を聞いた。
多様な経験を活かし、新たなチャレンジへ
ーーこれまでのキャリアについて教えてください。
ヒルダ・チャン:
私は香港出身で、1990年代に家族でカナダに移住しました。カナダの大学では日本語と心理学を専攻し、卒業後すぐに日本で就職。最初は通信系の企業でマーケティングを担当し、その後、転職した食品会社では海外営業を経験しました。3社目の総合商社では9年ほど勤務し、繊維部門での国内営業や人事、海外駐在など幅広い業務を担当。その後スポーツメーカーに転職し、中国本土と香港、台湾の経営責任者として8年間勤めました。
ーー貴社に入社したきっかけは何でしたか?
ヒルダ・チャン:
新しいチャレンジを求めていた時期に、弊社からのお誘いを受けました。これまでは上場企業でしか働いた経験がなかったので、非上場で創業者がまだ健在という会社に興味を持ち、楽しく仕事ができそうだと感じました。
また、弊社が行っている社会貢献活動にも強く惹かれましたね。子どもが生まれてから価値観が変わり、次世代のために世界や自然を守る視点を持つようになったことも大きな要因です。弊社の理念と私自身の価値観が合致したことで、私もその一員になりたいと思い、入社を決意しました。
環境負荷低減を軸に、靴業界のサステナビリティをリード
ーー貴社の環境への取り組みについて教えてください。
ヒルダ・チャン:
弊社の使命は、「地球の未来のために、環境に負荷を与えないシューズを作ること」。モノづくりから地球環境負荷の低減に積極的に取り組んでいます。こうした、地球と人という存在を意識してモノづくりする取り組みを<CONSCIOUSLY CREATED:地球と人にやさしいツクリカタ>と呼んでいます。ケミカルの使用を削減し、皮革製品には環境認証団体レザーワーキンググループ認証のレザーを採用しています。
また、2018年には業界に先駆けて発がん性もあるとされている有機フッ素化合物PFASを排除した撥水加工を導入しました。2024年現在は全製品がPFASフリーです。この技術は約4年半の研究開発期間を経て実現したのですが、私たちがPFASフリーを実現したノウハウは弊社サイトで「Green Paper」として一般公開しています。
この情報を共有することで、業界全体のPFASフリーの加速を目指しています。また、CO2排出量の削減にもつながるアップサイクル・リサイクル素材の積極的な採用にも努めています。
アウトドアライフのために生まれたKEENには、自分たちが暮らし、遊び、働く場所を守る責任があります。環境保護は創業時からのビジョンでもあり、弊社のアイデンティティそのものです。私たちはアウトドア・フットウェアブランドなので、自然環境が健全でなければ事業そのものが成り立ちません。
近年は多くのスキー場で雪不足が問題となっていますよね。気候変動は直接的に私たちのビジネスに影響を与えています。だからこそ、シューズブランドである私たちができることを考え、より良い未来を目指して努力し続けています。
ーー社会貢献活動にも積極的だとお聞きしました。
ヒルダ・チャン:
KEENでは「KEEN EFFECT」という名称で、さまざまな社会貢献・環境保護活動を行っています。今年は災害支援として、能登半島地震で被災された子供から高校生に約500足の靴を寄付しました。また、西表島の自然と文化を「明日」に継承していくためのプロジェクト「Us 4 IRIOMOTE」や、音楽フェス会場でゴミや資源を分別する環境対策を行なっている団体のサポートなど、多岐にわたる活動を行っています。
これらの活動は、社員のボランティア精神にもつながっています。強制ではありませんが、多くの社員が自主的に参加し、そのことが社内のコミュニケーションや業務にもポジティブな影響を与えています。
地球の未来を考えたものづくり
ーー今後の展望について教えてください。
ヒルダ・チャン:
10年後には、日本の皆さんに「KEEN」をより身近に感じていただきたいと考えています。「KEEN」というブランドを聞いたとき、「環境のことを考えている会社」というイメージを持っていただけたら嬉しいですね。そのために、私たちの理念や活動をより多くの人に知っていただき、ファンを増やしていきたいと思います。
また、製品面では、現在主にアウトドアやレジャー用途で愛用されている弊社のフットウェアを、日常生活でも広く使っていただけるように展開していきたいと考えています。KEENの履き心地と機能性を、より多くの場面で体験していただきたいですね。
ーー最後に、読者へのメッセージをお願いします。
ヒルダ・チャン:
世界には多くの問題がありますが、私たちだけでは全てを解決することはできません。しかし、自分たちにできることから始めることが大切だと考えています。弊社は靴づくりを通じて、環境保護や社会貢献に取り組んでいます。たとえば、環境に配慮した素材や製造方法の採用、災害支援活動、子どもたちへの教育支援など、さまざまな形で社会に貢献しています。
一人ひとりの小さな行動が積み重なることで、大きな変化をもたらすのです。KEENの靴を履くことが、地球の未来を考えるアクションの一つになればと思います。読者の皆さまにも、日々の生活の中で環境や社会のことを少し意識していただき、できることから始めていただければ幸いです。弊社は今後も、靴づくりを通じて社会に貢献し、より良い未来の創造に向けて挑戦を続けていきます。
編集後記
代表のヒルダ・チャン氏の言葉から、KEENの環境保護と社会貢献への強い思いが伝わってきた。靴づくりを通じて地球環境を守るという理念は、企業文化として深く根付いている。日本市場での認知度向上という課題に直面しながらも、長期的なビジョンを持って着実に歩みを進めるKEENの今後の展開に注目したい。
アウトドアブランドとして、地球環境を守ることの重要性を訴え続けるKEENの存在は、消費者の意識改革にも大きな役割を果たすだろう。
ヒルダ・チャン/カナダ・バンクーバーのブリティッシュコロンビア大学で学士号を取得後、リバプール大学でMBAを取得。さらに、ケロッグ経営大学院とスタンフォード大学で製品と成長企業戦略を学ぶ。その後、日本や中国の大手企業にて、マーケティングやマネジメント業を中心に従事。2022年、キーン・ジャパン合同会社のリージョナルマネージングディレクター兼日本法人代表に就任し、日本国内およびAPACにおけるKEENのビジネス拡大を牽引。