※本ページ内の情報は2025年6月時点のものです。

コロナ禍を経て、テイクアウトやデリバリーの拡大、インバウンド需要の急増など、外食業界は大きな変革期を迎えている。それに伴い、食品卸売業界も配送の柔軟性や提案力、そしてデジタル化への対応が必至だ。

こうした激動の環境下で、現場密着型の営業体制と誠実な対応力を武器に、独自の成長を遂げてきた協和物産株式会社。今回は、代表取締役社長の村野隆一氏に、企業の強みや人材育成、外食業界の未来について話を聞いた。

教師志望から一転、家業を継いで「経営者の視点」を現場で磨く

ーーまずは、社長のご経歴を教えてください。

村野隆一:
協和物産は、食品製造メーカーから商品を仕入れ、レストランやホテルなどの外食業に卸す総合食材商社として、両親が創業した会社です。私が物心ついた頃には、家と会社が一体のような生活だったので、「いずれ自分が継ぐのかな」という意識は自然と芽生えていました。

高校生の頃は日本史の教師に憧れており、教師になることを目指していました。しかし、大学受験に失敗したことを機に家業の存在を改めて意識し、経営学部への進学を決意しました。

家業を継ぐにあたり、外食産業の“川下”にあたる飲食店については学生時代のアルバイトである程度理解していたものの、“川上”である仕入れ側については知識が浅いと感じていました。そのため、大学卒業後はすぐに家業には入らず、ヤマサ醤油に就職。営業職として食品メーカー側のビジネスを経験し、得意先を担当しながら流通の仕組みや商談の現場感覚を学んだのです。

最初は5年で辞めて家業に戻ろうと決めていたものの、途中で重要顧客を担当することになり、その責任を果たすために7年勤めました。

ーー家業に戻られてからはどのように仕事に取り組まれたのでしょうか?

村野隆一:
まずは一般社員からスタートしました。仕入れの立て直しや財務の整備業務を経て副社長になり、そして2012年に社長に就任しました。私が入社した後、父母ともに私を信頼してさまざまな業務を任せてくれたのはありがたかったですね。

誠実さがつながりを生む、自社配送と営業の「二段構え」

ーー村野社長の仕事へのスタンスをお聞かせください。

村野隆一:
「誠実であること」が一番大事です。言ったことはやる、嘘はつかない、話をよく聞く。こうした当たり前のことにきちんと取り組めば、信頼は築かれると思っています。

社員との関係も同じで、私は「俺についてこい」というタイプではなく、後ろから支えるタイプ。だからこそ、社員には日頃から自主性や向上心を持ってチャレンジしてほしいと伝えています。

ーー貴社の強みを教えてください。

村野隆一:
扱っている品目数の多さはもちろんのこと、自社配送と営業との二段構えの体制が弊社の大きな強みです。弊社の配送スタッフは、ただ商品を運ぶだけでなく、現場で日々お客様と顔を合わせ、小さな要望やトラブルにも即座に対応します。一方で、より専門的な提案や複雑な課題については、営業担当が丁寧にフォローしています。

こうした細やかな現場対応と誠実な姿勢の積み重ねが、お客様との信頼関係を深め、結果として飛び込み営業をしなくても、紹介だけで新規取引が増えるという体制につながっているのです。

コロナ禍でも変わらぬサービスが信頼を呼び、物流体制に新たな動きを生んだ

ーーコロナ禍ではどのように対応されたのでしょうか?

村野隆一:
お客様の中には店舗を休業される方も多かったのですが、弊社では車も人も減らさずに可能な限り通常通りのサービスを続けました。おかげでコロナ禍の後期には紹介による新規顧客が急増したのです。

並行して、倉庫の入出荷フローを根本から見直し、物流の効率化を進めたことで、売上が回復した後も、従来より少ないリソースで出荷量の増加に対応できる体制を整えました。

ーーコロナ禍が落ち着いた後は、どのようなことに取り組まれていますか?

村野隆一:
コロナ禍に取り組んだ物流効率化が功を奏したので、現在は営業支援やAIによる業務効率化を始めています。特に、発注処理の自動化やDXに力を入れていますね。社内でのAI活用研修なども今後取り組む予定です。

また、顧客向けのプライベートブランド商品の開発をサポートする仕事は年々増えています。

「信頼される人材」を育成し、未来の外食業界へ期待する

ーー採用や人材育成へのこだわりを教えてください。

村野隆一:
15年前から新卒採用に取り組んでいますが、その結果、会社の若返りと活性化につながったと実感しています。採用・人材育成においては、お客様との信頼関係を築ける人材を育てることに注力しているため、会社説明会には私自身ができる限り登壇し、自分の言葉で会社のビジョンを伝えるようにしています。

ーー業界の将来についてはどのように予想していますか?

村野隆一:
国内人口が減っても、外食産業はまだまだ発展していくと考えています。今は仕入れ構造に大きな変化は見られませんが、SNS活用などで外国人観光客を取り込む動きが活発になってきており、インバウンド需要も追い風になるでしょう。外食は、日本が世界に誇るキラーコンテンツだと思います。

編集後記

村野社長の言葉から伝わってきたのは、「信頼」という言葉の重みを、自らの行動で証明し続けるリーダー像。社員にも顧客にも誠実に向き合い、地に足のついた改善と信頼の積み重ねで事業を成長させてきた姿勢に、静かな説得力を感じた。変化の中でも人を大切にし、誠実な対応を貫くその取り組みは、今後の外食流通においても大きな価値を持ち続けるだろう。インバウンド需要の高まりとともに、新たな成長フェーズへと向かうその歩みに、今後も注目していきたい。

村野隆一/1973年東京都生まれ、明治大学経営学部卒。卒業後はヤマサ醤油株式会社に入社し、7年間勤務した後2004年協和物産株式会社に入社。2012年に同社代表取締役社長に就任。現在は首都圏業務用食品卸協同組合理事としても業界の発展に寄与している。