※本ページ内の情報は2024年11月時点のものです。

東京商工リサーチによると、2021年の国内157万社の日本企業の平均年齢(業歴)は34.1年である。さらに、創業・設立から11年以上50年以下の企業が約7割(構成比69.2%)を占め、100年超の企業は4,559社で全体の0.29%、つまり1,000社に3社の割合だ。

その中で、世界大戦、関東大震災や世界恐慌などさまざまな社会情勢を乗り越え、今年160年を迎えた企業がある。それが、名古屋に本社を構える瀧定名古屋株式会社である。受注生産が基本のファッション業界において、お客様や仕入先との信頼関係を大切にしながら事業を続ける同社の代表取締役社長、瀧健太郎氏にその取り組みや強みについて話をうかがった。

メーカーから商社へ。家業を継いで見えてきたこと

ーーいつ頃から家業を継ぐことを意識しましたか?

瀧健太郎:
特に意識していたわけではありませんが、親戚を含めて経営に関わる家庭で育ったため、社会人になることの先に経営者になる道がつながっている感覚を、いつの間にか持つようになりました。大学卒業後は、父の紹介で株式会社クラレに入社し、家業の繊維事業ではなく化成品事業にて営業を担当。しかし、父が急逝したことにより、予定よりも早い1999年に27歳で家業に戻ることになったのです。

ーー家業に入った当初、どのような苦労がありましたか?

瀧健太郎:
新卒で入社したクラレは、樹脂などの原料から製品をつくるメーカーとして発展していきました。メーカーと商社の考え方の違いに最初は戸惑いを感じましたが、同時に新鮮さも感じました。クラレでは、自社製品を広めるためのマーケティングを行い、顧客のニーズを把握しながらも、基本的には同じ製品を毎年変わらぬ品質と価格で販売することが重要でした。

一方、商社である弊社は、顧客や取引先との強い繋がりをもとに、ニーズに応じた商品を迅速に提供するスタイルで、商品の入れ替えも頻繁に行う今までとは全く異なる文化でした。特に、メーカーの技術主導ではなく、顧客のニーズを直接ラインナップに反映する点が大きな違いでした。

課単位の独立採算制でスピードを保ちながら、老舗の信頼を武器に品質も保証

ーー改めて、瀧定名古屋株式会社の事業内容と強みについて教えてください。

瀧健太郎:
弊社は、主にテキスタイルと製品の販売を行っています。もともとは国内を中心とした販売が主でしたが、現在では、テキスタイルを中心に輸出も積極的に進めています。今後も海外比率をさらに高めていくことを目指しています。

弊社の強みは、品質とスピードです。約20の営業課をそれぞれ独立採算制で運営し、課長がマーケットの選定から販売までを決定します。各課が市場の開拓から仕入れ価格、販売ルートの設定まで独自に企画して行うため、意思決定が迅速です。

同時に、マーケットごとに異なるアプローチが求められる中、常に新たな挑戦を繰り返しながら確かな品質で商品を届けることが、弊社の絶対的な使命です。品質へのこだわりこそが、信頼を得るための弊社の強みでもあります。

ーー課ごとの独立採算制について詳しく教えていただけますか?

瀧健太郎:
弊社のスタイルは、受注生産が基本のファッション業界の中で、顧客のニーズを先取りし、求められる商品を前もって準備したうえで販売することです。そのため、お客様や仕入先との信頼関係が非常に重要になります。

そこで各課長には、大きな裁量権を与えています。先述の通り、マーケットの選定から、仕入れ価格や販売ルートの決定に至るまで、基本的に制約はなく、毎年しっかりと売上を上げることができれば後は各課の自由です。
新卒で採用された営業社員も、顧客の信頼を獲得することで徐々に責任と権限が広がり、最終的に課長となり、さらに大きな裁量を持つようになりました。各課の課長は、まるで社長のような役割を担っています。

現在、アパレルの市場は縮小し、多様化が進んでいるため、市場を開拓し育てることが難しくなっています。ファッション業界で培った経験をユニフォームなど他の分野に応用するなど、各課が新たな販路を見つけることが求められていますが、これは創業時の精神に近いものであり、弊社としても、この困難な時代に挑戦できる課長を育てていきたいと考えています。

従業員との関係で意識していること

ーー社員の育成についてお話がありましたが、人材に対する考え方の特徴は何でしょうか?

瀧健太郎:
弊社の社員は、国籍、性別、年齢にかかわらず、多様な人材が集まっており、そうした人材が、世界中どこへでも飛び込んで営業できる能力を持っていると考えています。

アパレルの国内市場は変化していますが、弊社にはもともと海外でも通用する人材が多く在籍しており、弊社の風土として、チャレンジを推奨し、仮に失敗した場合でも、その背景や理由を経営側が理解することで、社員との信頼関係を築いています。

ーー「多様性」の象徴として本社ビルがあるとお聞きしましたが、それはどういったことでしょうか?

瀧健太郎:
私が入社する前のことですが、現在の本社ビルは1991年に完成しました。当時の経営陣により、長く使えて価値が落ちない建物を目指して設計されています。その結果、建物は重厚感のあるものとなりましたが、先々代の父が、訪れるお客様に四季を感じていただけるようにと、周囲を緑豊かな環境にすることを決めました。1本1本がすべて異なる種類で、秋には紅葉、冬には落葉する多様な木々を父自らが選んで植えたと聞いています。

これが、弊社が現在も大切にしている「多様性」の象徴です。もちろん、当時はそのような言葉はありませんでしたが、社員の個性を大切にするという姿勢は、今も受け継がれています。

特に課長たちの個性は多様で、先頭に立って引っ張るタイプの課長もいれば、後ろからメンバーを支えるタイプの課長もいます。こうした個性豊かな社員が集まる中で、共通点があるとすれば、それは「真面目さ」です。新卒採用の際、学生たちが弊社の何に魅力を感じたかを聞くと、この多様性に驚いたという声が多く、本当に嬉しく感じています。

編集後記

瀧定名古屋株式会社のホームページを見ると、課ごとに色分けされたページが存在し、独立採算制が徹底されていることが伺える。各課がそれぞれホームページを持っている企業は珍しく、それだけ課長の責任と権限が大きいことがわかる。

瀧健太郎社長のもとで、社員たちは「新しいことにチャレンジするリスクをリスクと感じない」と断言するほど、チャレンジ精神が根付いているのだと感じた。瀧社長率いる瀧定名古屋は、昨今の為替の変動にも臆することなく、国籍、性別、年齢を問わず、多様性を活かし、これからもアパレル業界を発展させていくことだろう。

瀧健太郎/1972年、兵庫県出身。1997年、一橋大学経済学部卒業後、株式会社クラレに入社。2年半の勤務を経て、1999年、瀧定株式会社(現瀧定名古屋株式会社)に入社。瀧定名古屋株式会社取締役、瀧定紡織品(上海)有限公司総経理などを経て、2018年、瀧定名古屋株式会社代表取締役社長に就任。