※本ページ内の情報は2026年7月時点のものです。

大阪府大阪市の西区にある多田ポンプ株式会社は、関西や中部圏内で各種ポンプやモーター、ファンなどの販売・修理・メンテナンスを行っている。3代にわたって会社を受け継ぎ、創業78年を迎えた老舗ポンプ商社だ。取引先との関係を大切にする同社は、販売にとどまらず設置からメンテナンスまで最適な選択肢を提案し、多くの顧客から深い信頼を得ている。多田ポンプの強みや会社を引き継いだ経緯、さらに規模拡大よりも「中身を濃くする」組織づくりや今後の目標などについて、3代目社長の多田吉孝氏にうかがった。

祖父の思いを引き継ぎ会社を継ぐことを決意

ーーまずは、多田社長の学生時代のエピソードをお聞かせいただけますか。

多田吉孝:
祖父が社会奉仕団体のライオンズクラブのメンバーだったので、大学生の頃にはアメリカで奉仕活動も経験しました。現地では人の温もりに触れることができ、とても貴重な経験になりました。また、大学時代に一人暮らしを経験したことで、家族のありがたさも実感しました。

ーー家業を継ぐ決心をしたきっかけは何だったのでしょうか。

多田吉孝:
私はシステム情報の分野に興味があったので、まずは一般企業に入って働こうと思っていました。しかし、就職活動中に会長だった祖父の体調が悪化し、私に「会社を頼む」と言い残して亡くなったのです。そのときにようやく会社を継ごうと決心しました。その後は業界のノウハウや経験を積むため、株式会社荏原製作所と株式会社荏原シンワ(現・荏原冷熱システム株式会社)で3年半ほど修業しました。

入社1年目は、工場で商品の組み立てを行うライン作業に1年間携わりました。製品をつくる現場と品質管理を最前線で見ることができ、貴重な経験となりました。それから営業に異動になり、1年間ゼネコンや設計事務所へ飛び込み営業をしていました。この経験は今に活かされていると感じています。

1年で売上1億円を達成した型破りな新規開拓営業

ーー貴社に入社した後はどのような経験を積みましたか。

多田吉孝:
当時、社長だった父親から「一人で売上高1億円を達成しなさい」とノルマを課されたのです。そこで新規の取引先を見つけるために、ポンプを積んでいるトラックを見つけたら、車でついていくようにしました。自社名が入った販促品のタオルを手に、「このポンプ多田が据付いたしますよ」と売り込みをするためです。1ヶ月でおよそ150件ほど営業して、1年で目標を達成しました。半導体工場、自動車関連、水処理施設、水道工事店とさまざまなお客様と契約することができ、その企業様とは現在もお取引させていただいています。

最初の頃は「営業しても注文をもらえなかったら、いくら頑張っても無駄だよな」と思うこともありました。ただ、お客様と接するうちに業界の仕組みなども理解できたので、私にとって得がたい経験になったと思います。

創業78年のポンプ商社の強み

ーー貴社の事業内容や特徴を教えてください。

多田吉孝:
弊社は創業78年の商社で、ポンプをメインとした製品の販売や施工、メンテナンス、修理を行っています。国内のポンプメーカー400社の中から適切なポンプを選定し設置するのが主な仕事で、冷暖房や空調設備のほか、トイレなどの水回り設備の施工も手がけています。国内にあるポンプメーカー400数社のうち、純粋な水道の水だけを扱うのは数社しかなく、残りの400社余りは多種多様な液体などを扱っています。

また、無駄なコストをカットするため、省エネの提案も行っています。実はポンプを駆動するために消費される電力は、国内電力消費量の約20%を占めているともいわれており、実際には稼働時以外も電力を消費しているケースが多いのです。そこで環境への負荷を軽減するためにも、弊社では設定を変更し、エネルギー使用量を減らす工夫をしています。

なお弊社は、船舶用の空調設備やセルフ式ガソリンスタンドなどに関するものも含め、製品を幅広く取り扱っているため、取引先は多岐にわたります。そのため、船や井戸に強い人、排水設備に詳しい人など、社員一人ひとりがプロフェッショナルとして「個人商店化」していることが特徴です。

ーー貴社が持つ最大の強みは何ですか。

多田吉孝:
現場の状況を見ただけで、最適なポンプを選別できるのが最大の強みです。ポンプは一つのメーカーで100万種類以上もあるので、それぞれの用途に合った最適な製品を見極めなければなりません。

また、創業から78年にわたり、多くの企業様にごひいきをいただいているのも強みの一つですね。弊社は製品を設置して終わりではなく、その後も継続的にメンテナンスを行っています。お客様の施設で稼働しているポンプを「新しいものに取り替える」か「修理する」という2つの選択肢を提示し、納得して選んでいただくスタンスで、自然と長いお付き合いとなり、お客様との信頼関係の構築につながっています。

その結果、先々代の頃から付き合いがある企業様も含め、今では取引先が2,000社に上ります。多田ポンプと付き合ってよかったと思っていただけるよう、今後もお客様とのつながりを大切にしていきたいですね。

ーーポンプを扱う上で、特に意識されていることを教えてください。

多田吉孝:
液体を次の場所へ持っていくのがポンプの仕事であり、人間でいえばまさに心臓の部分にあたります。血液を回して浄化するように、動き続けることが何より重要です。だからこそ、機能を絶対に止めてはならないお役所や国のインフラポンプ、ホテルやスーパー銭湯などでは、何かが起こる前に定期的なメンテナンスを行う習慣があります。

一方で、ポンプは配管とセットで機能するため、トラブル対応の早さや関連業者様との関係性も重要です。配管から音がしていてもポンプのせいにされることがあるほど、配管業者様からの信頼とパワーバランスは商売に直結します。弊社に任せておけば全部やってくれると思ってもらえるように、人と人とのつながりを第一に考えています。

規模拡大を追わず中身を濃くする35名の組織づくり

ーー組織づくりにおいて、現在どのような方針を掲げていますか。

多田吉孝:
創業者である祖父が「1人の経営者が見られるのは35人までだ」と、「学校の先生が1クラス寄り添える人数と同じだ」と言った教えを守り続けて、従業員数は35名をキープしています。人数を無闇に増やして規模拡大を追うのではなく、一人ひとりの働きやすさや待遇を充実させ「中身を濃くする」ことに力を注いでいます。

具体的には、就業時間を少し短くしたり、土曜日を休みにしたりと環境を整えました。また、人事評価の面では個人差が大きくなる業界でもあるため、役割手当てや営業手当てなど変動する手当てを取り入れて、頑張った人がしっかり報われる報奨金制度を拡充しました。

ーー社員同士のコミュニケーション活性化のためにどのような工夫をされていますか。

多田吉孝:
お客様との相性を見て営業担当を適切に配置し、同行するスタッフを増やすなどしてサポート体制を整えています。営業担当も一人の人間ですから、お客様との相性の良し悪しもありえるでしょう。そのため、担当を変えたりアシスタントを付けたりして、できるだけ社員に負担をかけないように人員を配置しています。現場対応を求めるお客様には現場に強い事務担当を配置し、スピードを求めるお客様には処理の早い担当にすることで、社員の意見も尊重して、心地良くお客様とお会いして働いてもらえるように工夫しています。

現在は営業担当が約20名、技術担当が8名在籍していますが、団塊ジュニア世代を中心に、営業だけでなく現場へ行って修理も両方できるスタッフが増えてきました。修理業者の廃業が相次ぐ中、自社で一貫して対応できる体制は大きな強みとなっています。

また、社内イベントについては、休日に参加したくない社員の気持ちも考慮し、今後は開催数を減らしていく方針です。とはいえ、親睦を深める場として続けていきたい思いもあります。そこで、現在はボウリング大会や年2回のゴルフ会、社員旅行を自由参加の形で実施しており、ボウリング大会では景品を豪華にするなど、参加したくなるような工夫を取り入れています。社員に気を使わせないように、幹事や手配はすべて私が担当しているのも特徴ですね。

さらに、絆づくりという点では社外とのつながりも大切にしています。営業担当が優秀に育ってお客様から引き抜きの声がかかることも珍しくありません。しかし、そうした事態を防ぐためにも私が直接お客様のもとへ足を運び、関係性を深めるように努めてきました。結果として、社員を高く評価してくださった企業の方と公私を交えたお付き合いへと発展し、周囲を巻き込みながら強固な信頼関係を築けています。飲食店で意気投合した方や前職の同期を採用するなど、社内外を問わず人との関わりを楽しんでいます。

水流で空気を浄化する新商品「ケスマック」と未来への挑戦

ーー新たな領域への挑戦として、現在注力している取り組みについて教えてください。

多田吉孝:
ポンプ技術を応用して開発した「ケスマック」という、粉塵や臭気などを対象とした画期的な環境型の回収装置の展開に注力しています。これは、水流だけの力を利用して粉塵や煙、油、蒸気などを根本から回収し、同時に消臭、気化熱により熱の吸収も行えます。シャワーを使うと空気の流れも強まるのと同じで、ジェットで粘性のある水が風力を起こし、共に空気と水がそのまま排水できる仕組みになっています。

ーーどのような現場での導入を想定して販売を進めていますか。

多田吉孝:
食品工場や油煙や蒸気の出る現場など、近隣への臭い対策が求められる現場を中心に、すでに十数台が導入されています。クラフトビールの醸造所で壁に臭いがつくのを防いだり、揚げ物やポテトチップスの工場で油を含んだ空気を回収したりと、幅広いニーズがあります。

さらに、粉塵が飛び散る木材加工の現場や解体業界などにも最適です。いきなり販売するのではなく、お客様の現場にデモ機を設置し、「本当に臭いがよく取れる」などと効果を実感した上で購入していただいています。2026年6月には、東京ビッグサイトで開催される世界最大級の食品機械工業展である「FOOMA JAPAN 2026」にも出展し、さらなる普及を目指します。

ーー最後に、今後の展望や目標をお聞かせください。

多田吉孝:
「この会社に入ってよかった」と思ってもらえるような環境づくりを、さらに進めたいと思っています。その一環として、築42年になる自社ビルリニューアル、新しいオフィスと倉庫とアナログ的な部分も残しつつ、職場環境の向上を図る予定です。また、水というライフラインに携わるポンプ商社として、みなさんの日常を安定的に守っていきたいと考えています。

そして将来的には、この35名というコンパクトな組織を維持しながら、社員がそれぞれの得意分野でプロフェッショナルとなり、独立して起業できるような風土を醸成したいですね。独立した社員が、また弊社からポンプを買ってくれる。そうしたつながりが広がり、良い関係の輪がさらに大きくなっていくことを願っています。

編集後記

祖父から父へ渡されたバトンを引き継ぎ、経営者となった多田社長。わずか1年間で売上高1億円を達成したエピソードには驚かされた。過去の取材から2年が経過し、画期的な新商品への挑戦や、自ら進んで幹事を務めるなど公私を交えて社員との温かい絆を築く姿に、老舗の商社でありながら進化を止めない姿が印象的だった。会社の規模よりも「35名の法則」で一人ひとりの社員の幸福を追求する多田ポンプ株式会社は、これからも私たちの日常を力強く守りつづけてくれることだろう。

多田吉孝/1974年、大阪市生まれ。関西大学工学部卒業。1992年に3か月間、アメリカのデトロイト、シカゴに行き、奉仕活動に携わる。1997年に株式会社荏原製作所、1999年に株式会社荏原シンワ(現・荏原冷熱システム株式会社)へ入社し、3年半の修業期間を経て2000年に多田ポンプ株式会社へ入社。2002年に特販営業課課長、2006年に専務取締役、2016年に代表取締役社長に就任。