大阪府西区にある多田ポンプ株式会社は、関西や中部圏内で各種ポンプやモーター、ファンなどの販売・修理・メンテナンスを行っている。3代にわたって会社を受け継ぎ、創業76周年を迎えた老舗ポンプ商社だ。
取引先との関係を大切にする同社は、多くの顧客からの信頼を得ている。
多田ポンプの強みや会社を引き継いだ経緯、今後の目標などについて、3代目社長の多田吉孝氏にうかがった。
創業76年のポンプ商社の強み
ーーまずは貴社の事業内容や特徴をご説明いただけますか。
多田吉孝:
弊社は創業76年の商社で、ポンプをメインとした製品の販売や施工、メンテナンス、修理を行っています。
国内のポンプメーカー400社の中から適切なポンプを選定し、設置するのが主な仕事です。冷暖房や空調設備のほか、トイレなどの水回り設備の施工も手がけております。
また、無駄なコストをカットするため、省エネの提案も行っています。実はポンプを駆動するために消費される電力は、国内電力消費量の約20%を占めているとも言われているんです。
実際には稼働時以外も電力を消費しているケースが多いんですね。そこで環境への負荷を軽減するためにも、設定を変更し、エネルギー使用量を減らす工夫をしています。
なお弊社は、船舶用の空調設備やセルフ式ガソリンスタンドなどに関するものも含め、製品を幅広く取り扱っているため、取引先は多岐にわたります。それゆえ船や井戸に強い人、排水設備に詳しい人など、社内で個人商店化しているのも特徴です。
ーー貴社の強みをお教えください。
多田吉孝:
現場の状況を見ただけで、最適なポンプを選別できるのが最大の強みです。ポンプはひとつのメーカーで100万種類以上もあるので、それぞれの用途に合った最適な製品を見極めなければなりません。
また、創業から76年にわたり、多くの企業様にごひいきいただいているのも弊社の強みのひとつです。弊社は製品を設置して終わりではなく、その後も継続的にメンテナンスを行っています。そのため自然と長いお付き合いになり、お客様との信頼関係の構築につながっています。
その結果、先々代の頃から付き合いがある企業様も含め、今では取引先が2000社に上ります。多田ポンプと付き合ってよかったと思っていただけるよう、今後もお客様とのつながりを大切にしていきたいですね。
祖父の思いを引き継ぎ、会社を継ぐことを決心
ーー多田社長の学生時代のエピソードをお聞かせください。
多田吉孝:
祖父が社会奉仕団体のライオンズクラブのメンバーだったので、大学生の頃にはアメリカで奉仕活動も経験しました。現地では人の温もりに触れることができ、とても貴重な経験になりました。また、大学時代に一人暮らしを経験したことで、家族のありがたさも実感しました。
ーー会社を継ぐことは以前から意識していたのですか。
多田吉孝:
私はシステム情報の分野に興味があったので、まずは一般企業に入って働こうと思っていました。しかし、就職活動中に会長だった祖父の体調が悪化し、私に会社を頼むと言い残して亡くなったんです。
そのときにようやく会社を継ごうと決心しました。その後は業界のノウハウや経験を積むため、株式会社荏原製作所と株式会社荏原シンワ(現・荏原冷熱システム株式会社)で3年半ほど修行しました。
入社1年目は1年間工場で商品の組み立てをする、ライン作業に携わりました。製品をつくる現場と品質管理を最前線で見ることができ、貴重な経験となりました。
それから営業に1年間異動になり、ゼネコンや設計事務所へ飛び込み営業をしたのですが、この経験は今も活きていますね。
飛び込み営業を続け、1年で売上1億円を達成した多田社長の今後の目標
ーー入社から社長就任まで、どのような経験を積んだのですか。
多田吉孝:
当時、社長だった父親から「一人で売上1億円を達成しなさい」とノルマを課されたんです。そこで新規の取引先を見つけるため、ポンプを積んでいるトラックを見つけたら、車でついていっていました。そして、自社名が入った販促品のタオルを手に、「このポンプ多田が据付いたしますよ」と売り込みをしていました。
そうして1ヶ月でおよそ150件ほど営業に行き、1年で目標を達成しました。半導体工場、自動車関連、水処理施設、水道工事店とさまざまなお客様と契約でき、その企業様とは現在もお取引させていただいています。
最初の頃は「営業しても注文をもらえなかったら、いくら頑張っても無駄だよな」と思うこともありました。ただ、お客様と接するうちに業界の仕組みなども理解できたので、私にとって得がたい経験になりました。
ーー社長に就任してから行った取り組みはありますか。
多田吉孝:
お客様との相性を見て営業スタッフを適切に配置し、同行するスタッフを増やしてサポート体制を整えています。営業スタッフも一人の人間ですから、お客様との相性の良し悪しも出てきます。
そのため、担当を変えたりアシスタントを付けたりして、できるだけ社員に負担をかけないように人員を配置しています。社員の意見を尊重し、現場対応を求められるお客様には現場に強い事務担当を配置し、スピードを求められるお客様には処理の早い担当にすることで、心地良く働いてもらえるよう工夫しています。
ーー多田社長の今後の目標をお聞かせいただけますか。
多田吉孝:
この会社に入ってよかったと思ってもらえるような、環境づくりをしたいと思っています。そのひとつとして、社員やメーカーの担当者さんを集め、ボーリング大会を開催しています。
私が家電好きということもあり、副賞として家電製品を用意して説明するんです。聞きたくないと思いますが(笑)こうして社員やお世話になっているメーカーさんと、仕事以外で集まる場を設けています。
また、水というライフラインに携わるポンプ商社として、安定的に水まわりなどの設備を利用できるようにし、みなさんの日常を守っていきたいと考えています。特に日本人は周りの人に迷惑をかけてはいけないと考え、なかなか声をあげられない方が多いんです。私は困っている人が自分の思いを発言でき、お互いが助け合える世の中にしたいと思っています。
編集後記
祖父から父へ渡されたバトンを引き継ぎ、経営者となった多田社長。わずか1年間で売上1億円を達成したエピソードには驚かされた。人々の生活や工場の業務を支える多田ポンプ株式会社は、これからも私たちの日常を守りつづけてくれることだろう。
多田吉孝/1974年大阪市生まれ。関西大学工学部卒業。1992年に3か月間、アメリカのデトロイト、シカゴに行き、奉仕活動に携わる。1997年に株式会社荏原製作所、1999年株式会社荏原シンワ(現・荏原冷熱システム株式会社)へ入社し、3年半の修業期間を経て2000年に多田ポンプ株式会社へ入社。2002年に特販営業課課長、2006年に専務取締役、2016年に代表取締役社長に就任。