
1999年に設立された株式会社ツインズ。生活者の「元気」と「健康」を追求する企業として、スポーツ・健康・ケアに関わる商品を開発してきた。一番の売れ筋商品は、結ぶ必要がない伸縮性のある「靴ひも」である。代表取締役の梶原隆司氏に、看板商品が生まれた背景や独自のブランディング、今後の展望についてうかがった。
ターゲットを変えたら大ヒット商品に。キャタピランの魅力の伝え方
ーー経歴や貴社の歩みをお話しいただけますか。
梶原隆司:
私は電機部品メーカーに就職し、海外工場の立ち上げスタッフとして香港へ出向しました。ワーキングホリデーで2年間オーストラリアに滞在した経験があり、英会話力が評価されたのです。帰国後、31歳で独立し、香港、中国、日本で築いた人脈を活かして弊社を創業しました。
ツインズは、香港メーカーの調理家電を輸入販売する代理店ビジネスから始まった会社です。中国で製造された電気製品は、安価なので利益が非常に少なく、品質も不安定でした。検品や不良品の修理も自身が担っていたため、常にギリギリの状態で商売していたといえます。
転機となったのは、スポーツクラブで購入したフランス製の結ばない靴ひもです。約3,000円の高級靴ひもでしたが、伸縮性の高さやゴツゴツとした見た目を面白く感じ、「もっと手頃な価格なら日本でも売れるはず」と考えました。そのような中で2012年に発売した「結ばない靴ひも キャタピラン」が売れ筋商品となり、スポーツ用品・健康用品・電気用品の卸売会社へ変化した経緯があります。
ーー商品開発で苦労した点はありますか?
梶原隆司:
発売当初の「キャタピラン」のターゲットは靴を頻繁に脱ぎ履きする内装業者、及び運送業者でしたが、売れ行きが悪く、訴求ポイントを変える必要がありました。そこで、当時のブームでもあった「ランニング」に着目し、中でも市場が大きい「ファンランナー」に狙いを定めたのです。
楽しく走ることを目的としたファンランナーの多くは、プロのように足が鍛えられていません。長時間走れば足がむくみ、靴ずれやマメ、ふくらはぎの痙攣などを引き起こします。足の形は十人十色ということも踏まえて、絶妙なフィット感を得られる靴ひもを使えば、トラブルを軽減できると考えました。
「キャタピラン」は、コブ状のふくらみとゴムのような伸縮性があり、コブをずらすことで足への締め付けを調整できる靴ひもです。ランナーにPRした結果、商品は大ヒットとなりました。良いものを世の中に広めるには「魅力の伝え方」が大切だと改めて感じましたね。
「健康」と「満足度」を意識した商品&コミュニティ運営でファンづくり

ーー売上以外にも変化があったのでしょうか。
梶原隆司:
靴ひも開発をきっかけに私も走り始めて、「汗をかくっていいな」と思うようになりました。57歳になった今も、年に数回はマラソン大会に出場するほか、トライアスロンにも挑戦するほどスポーツが大好きです。気分が前向きになり、健康維持もできるため、素晴らしい趣味が持てたと思っています。
ツインズは、「人と健康を結びつけるインターフェイスでありたい」をスローガンに掲げ、「すべての人の健康に寄与すること」をビジョンとしています。会社の経営も、精神的かつ肉体的にタフでなければ務まらないため、まさに人生をかけられる仕事を見つけたといえるのではないでしょうか。
「キャタピラン」は、ファッション性や機能性が進化し、現在は「日本製の結ばない靴ひも」として「CATERPY(キャタピー)」シリーズを展開中です。2016年に発足した「Caterpyランニングクラブ」は、定期的なランニングイベントや商品のお試し会を行うコミュニティです。参加者に新しい出会いがあることはもちろん、商品のファンづくりの一環となっています。
ーー経営における心がけをうかがえますか。
梶原隆司:
創業当時から「不便を利便に変える」ととなえ、「エンドユーザーが何を望んでいるか」を考え続けてきました。ゴールは「商品が売れること」ではなく、対価を払ったお客様に「満足していただけるかどうか」です。それを一番大切にしながら、商品の機能やデザインに見合った値段でマーケットに入りこめば、つくり手と使い手の間で大きなズレは生じないでしょう。
調理家電を柱としていた頃は、在庫の山を抱えることもありました。大変な時に助けてくれた方たちとは、今でも深くお付き合いしています。会社が上手くいっていない時ほど、その経営体質が明らかになるものです。ピンチな時ほど外部の人に見てもらい、信頼を得られるチャンスだと捉えて、何ごとも逃げずに対応するオープンなビジネスを心がけています。
人と人が関わる上では、やはり相手の顔を見ながら伝えるというコミュニケーションが大切です。弊社では毎週月曜日の朝、東京・千葉・新潟・大阪・仙台にある全拠点をつないでWEB朝礼を行い、組織力を高めています。
「ひも」に特化し、MADE IN JAPANの魅力を世界へ発信
ーー今後の展望をお聞かせください。
梶原隆司:
「CATERPY」シリーズでは、靴ひもだけではなく、サングラスや眼鏡の落下を防ぐグラスコード、工具向けセーフティコード、携帯電話のストラップ、髪に跡がつきにくいヘアゴムなども販売中です。これからも高機能な「ひも」に特化した事業として、商品開発に注力していこうと思います。
ものづくりの町である新潟県燕三条市の工場で製造した弊社の商品は、フロリダの代理店を経由して欧米約20カ国に輸出しています。根底には「MADE IN JAPANのひもを世界に広めたい」という強い思いがあるのです。
まずは、2025年に発売するトレーニング用品やストレッチバンドの魅力も伝えられるように、SNSやECサイトといったデジタル面を強化し、2030年までにIPO(新規株式上場)を目指します。
編集後記
事業が大きく変化する中でも、出会った人々との繋がりを大切にし続けてきた梶原社長。ランニングから生まれたコミュニティを公私ともに活用することで、会社の認知度向上や意見を聞く機会にしているという。独自性あふれる商品を自社工場で開発できる、MADE IN JAPANという強みも、ツインズがさらに飛躍する決定打となるだろう。

梶原隆司/家電部品メーカー勤務を経て、1999年に株式会社ツインズを創業。前職で築いた人脈を活かして、中国に工場を持つ香港・台湾系資本のメーカーから家電製品を輸入し、日本国内で販売。国内マーケットのニーズを踏まえて商品開発を継続し、「結ばない靴ひも キャタピラン」を大ヒットに導いた。