日々の料理に欠かせない食用油は相場の変動が大きく、家計や飲食店のコストに大きな影響を与える。島商株式会社は、食用油の卸売りを中心に事業を展開している会社だ。享保年間に創業した老舗企業で、300年以上もの歴史を持つ油問屋である。
油の専門問屋ならではの強みや、自身の基盤を築いたエピソード、日頃お世話になっている方々に伝えたいメッセージなどについて、島田豪氏にうかがった。
油の専門問屋としての強みを活かし、顧客を獲得
ーーまずは貴社の事業内容について、ご説明いただけますか。
島田豪:
主力事業は食用油の卸売業で、売上の大半を占めています。食用油は価格が変わりやすいため、相場の変動なども考慮しながら営業活動を行っています。
取引先としては、飲食店とスーパーマーケットが中心ですね。特に天ぷら屋との取引が多く、食品加工工場や中華料理店とも取引をしています。その他にも20年ほど前からパスタやお菓子などのグロッサリー商品(加工食品)の販売と、不動産事業も手がけています。
お客様と接する上で心がけているのが、素材や調理法に合った油を提案することです。オリーブオイルの専門資格「オリーブソムリエ」の資格も活かし、「この素材にはこの油が合いますよ」とアドバイスしています。
なお、ワインの試飲会や松茸の試食会などのイベントを開催し、取引先と新たなお客様との出会いの場を提供しています。こうして取引先の売上の拡大に貢献することで、お客様との関係強化を図っています。
ーー貴社の強みについて教えてください。
島田豪:
専門問屋としての知識と経験が最大の強みです。たとえば油の価格が下がる前に販売価格を下げ、高騰しそうなときはお客様に多めに購入しておくことをおすすめしています。こうしたことの積み重ねによって、お客様からの信頼を得ることで、高いリピート率を維持しています。
また、社員が各自で価格や販売する商品を決めているため、個人商店のように細やかな対応が可能であることも特徴です。社員にすべてを任せているため、月に1回の連絡会議では、私が知らない商品の話が出ることもありますね。
社員にとっては見積もりの作成から商談、入金確認まで行わなければいけませんが、裁量権を持って働けるのは魅力だと思います。
これまでの転機となったエピソード。自身の成長につながった経験
ーー会社を継ぐことを意識したのはいつ頃からですか。
島田豪:
就職活動を始めるときに、先代である父から会社の事業内容について聞かされてからです。「家業のことも頭に入れて就職活動をしなさい」と言われ、会社を継ぐことを意識し始めました。
ーー社長就任の経緯について、お聞かせください。
島田豪:
父は「70歳になったら引退する」と言っていたのですが、その年齢を過ぎても引退しないままでした。そこで転機となったのが、東日本大震災です。父は目の前で本棚が倒れる光景を見て、「死んでいてもおかしくなかった」と言っていました。
そして、関東大震災のときに、ちょうど同じ場所で家族や従業員が亡くなったことを思い出したそうです。これを機に、父は次の代に引き継ぐ決断をし、私が39歳のときに社長に就任しました。
ーー自身の基礎を築いた具体的なエピソードを教えていただけますか。
島田豪:
大学時代の應援指導部での経験と、ガソリンスタンドでの現場経験です。應援指導部では過酷な練習を強いられ、今でも夢でうなされるほど、当時は精神的にきつかったですね。ただ、このときの経験で、壁に突き当たっても乗り越える精神力が身に付きました。
社会人になってから辛かった経験は、ガソリンスタンドの業務を行っていたときのことです。真冬には洗車機が凍って動かない中で作業をし、アルバイトが来なかったときは一人で対処しなければなりませんでした。
また、「ガソリン以外で月に300万円の粗利益を出す事業を考えるよう」にという課題を課されたこともありました。このときは1日14時間ほど働き、休みを返上してアイデアを練りました。こうして目標達成に向けて必死に働いた経験は、今の私の礎になっています。
大切にしている価値観や今後の取り組みについて
ーー島田社長が大切にしている価値観について、教えてください。
島田豪:
会社の売上や利益よりも、社員の幸せを第一に考えています。2023年にはオフィスをリフォームし、働きやすい環境を整えました。また、キックオフや年末には食事会を開くなど、社員たちをねぎらう場を設けています。
ーーMBA(経営学修士)を取得して得た知識は、経営にどのように活かされていますか。
島田豪:
正直に言うと、経営や経済の知識が直接経営に活かされる場面は少ないと思います。ただ、プロジェクトの進め方やリーダーシップのとり方、優秀な人材の集め方など、実践的なスキルは役に立っていますね。特にチームで課題に取り組む経験は、経営にも通じる部分があると思います。
ーー物流面での取り組みについて教えてください。
島田豪:
ドライバーの稼働時間の短縮による影響を考慮し、物流ネットワークの強化に取り組んでいます。具体的にはメーカーからの直送ではなく、問屋を介した新たな物流の仕組みづくりを進めています。
ーー事業承継については、どのようにお考えですか。
島田豪:
まずは「油のことは島商に任せよう」と言っていただけるよう、油専門問屋としての地位を確立することが重要だと考えています。特に弊社は個人店と多く取引しているので、直接お店にうかがって会話をし、関係性を深めることを大切にしていきたいですね。
こうしてネットワークを広げた上で、次の世代に引き継いでいきたいと思っています。
新規開拓の取り組みと島田社長が伝えたいメッセージ
ーー今後の展望をお聞かせください。
島田豪:
油専門問屋としてユニークNo.1の会社を目指したいと考えています。そのため、すでにスーパーや中華料理店、寿司店、うなぎ料理店などと幅広く取引していますが、さらに販路を開拓していきたいですね。
最近では催事やマルシェで販売を行うなど、BtoCの販路開拓に取り組んでいます。これにより島商の認知度拡大につながり、お客様の紹介によって新たな取引先を獲得しています。
ーー最後に島田社長から読者に向け、メッセージをお願いします。
島田豪:
企業理念は「人と自然と食の豊かな調和」で、今後も品質の良い油と、お客様にとって有益な情報を提供していきたいと思います。そして社員からお客様、消費者の方々へ幸せを広めていければと思っています。
最後に、これまで支えてくださったすべての方々に感謝の気持ちを伝えたいと思います。特に「300周年感謝の会」を開いたとき以降、今の島商があるのはお客様そして家族や友人など、多くの方々のおかげだと思っています。今後も感謝の気持ちを忘れず、成長していきます。
編集後記
創業から300年以上続く家業を守り、次の世代へつなぐため、新たな挑戦を続ける島田社長。島商株式会社は周囲の方々へ感謝の気持ちを抱き、顧客との信頼関係を構築してきたからこそ、ここまで息の長い企業になっているのだと感じた。島商株式会社は、これからも強固なネットワークを活かし、人々から信頼される油問屋であり続けることだろう。
島田豪/1972年生まれ、東京都出身。1996年、慶應義塾大学を卒業。昭和シェル石油株式会社(現・出光興産株式会社)に勤務した後、株式会社サイリスで現場経験を積む。2002年、サンダーバード国際経営大学院にてMBAを取得後、島商株式会社に入社。課長、取締役営業部長、専務取締役を経て2011年、代表取締役社長に就任。常に新業態の発掘・開拓を行い、2024年現在、東京油問屋市場(食用油脂に関する卸売販売業者の協同組合)の理事長を務め、業界の発展に力を注いでいる。