※本ページ内の情報は2024年10月時点のものです。

1958年にワーク用品業界へ進出した株式会社萬年屋。創業者かつ現社長であり、八木智子氏の父でもある萬年廣人氏は、労働安全・労務管理指導講師として活躍した人物だ。新宿の好立地にある店舗は、遠くからでもひと目でわかる黄色い外観が目印である。長年にわたって働く人々を支えてきた会社について、専務取締役の八木智子氏に近年の注力テーマや今後の展望をうかがった。

父の会社を継ぐ一大決心。広告業界から「作業服」の世界へ

ーー八木専務の経歴についてお話しいただけますか。

八木智子:
デザインが好きなことから、大学卒業後は広告制作会社に入社しました。電車内や駅構内、街中などに掲載される広告を手がける大手メーカーで、商品を売る戦略を立てる楽しさも知りました。その後、2013年に広告業で独立したのち、2021年に家業である萬年屋に入社した次第です。

もともと後を継ぐ予定はありませんでしたが、父が高齢になったという理由で失うにはもったいなく、まだ伸びる可能性のある会社だと思いました。やるからには現状維持ではなく、さらに成長する会社にしていかないと意味がありません。経営層として本腰を入れるにあたって、それまでの伝統も活かしつつ、時代に合わせて商品や売り方、経営の方向性を変えていこうと決めました。

働く人々の安全を考えた商品を届けたい

ーーこれまで大切にしてきた思いや考えをうかがえますか。

八木智子:
「過去と他人は変えられないが、未来と自分は変えられる」という言葉が好きです。過去の苦労話をしたり、他人への不満を言う前に、未来を変えるために自分が動くことを心がけています。大学を卒業した後、デザインを学びながらアルバイトでお金を貯め、「今しか行けない」という思いで海外を10カ国ほど巡りました。仕事と家庭を両立する未来が来たら自由に動けなくなると考え、今のうちに、出来るだけ色々な世界を見て、視野を広げ、経験値を上げておこうと思ったのです。

会社としては、「危険な場所や過酷な環境の中で働く方たちのことを考えて商品を売りたい」という思いが一番にあります。電子化やテレワークが普及しても、現場で働く仕事がなくなることは当分ないだろうと思います。父は元々社会保険労務士として、「働く人にケガをさせない」という理念のもと弊社を立ち上げました。

私たちは昔からある理念を柱に、市場の需要をしっかりと汲み取りながら、より快適さや安全性を高めたアイテムを追加し、自分らしい働き方ができる商品を普及していきたいと考えています。

「空調ファン付き作業服」が世界的に大ヒット

ーー貴社の特徴を教えてください。

八木智子:
作業用品や安全用品の小売業をメインとしています。新宿に自社ビルを構えているという点で信用度が高く、営業担当のフットワークの軽さも強みです。売上としては法人営業の比重が大きく、主に製造や建築といった危険と隣り合わせの業界にアプローチしています。

長い歴史の中でいろいろなメーカー様とつながり、「お客様のニーズに沿った商品をご紹介できる」という強みが得られました。お客様の層や年代は本当に幅広く、店舗には外国の方も多くいらっしゃいます。観光客はもちろん、仕事で来日して、性能が高く、壊れにくい日本製の空調ファン付き作業服を買って帰る方も増えていますね。もともとは防寒作業服で成長した会社でしたが、近年は環境の変化も大きく、熱中症対策の作業服に力を入れています。

ーー注力している取り組みはありますか?

八木智子:
私が入社してからはWEBマーケティングに積極的に取り組んでいます。SNSはホームページよりも情報に辿り着きやすく、海外へも高い発信力があり、実際にSNS経由でご注文をいただくケースもあります。

2025年にはECサイトをオープン予定です。作業服は買いたい時に店が開いていないと不便なので、営業時間を問わず利用できるECはより強化したいと思います。空調ファン付きの服は私用ニーズも高まっているため、BtoC(消費者向け)分野にも売れるのではないでしょうか。

今後、販路を広げていく上で、店舗をはじめとして、人員も募集しています。大企業と違って一人ひとりの裁量が大きいので、責任を持って働けるだけでなく、自分の範囲を決めつけずに会社に広く貢献する意思がある方が理想ですね。内部の体制を崩さないように工夫しつつ、営業面も伸ばしていく予定です。

メイド・イン・ジャパンの信頼を味方に――海外進出を見据えた活動

ーー今後の展望をお聞かせください。

八木智子:
10年後を目標に海外へ進出し、より多くの人に「安心・安全」と「快適」を提供していきたいと思います。日本の作業服やインナーは高品質で、メイド・イン・ジャパンという信頼性もあります。海外市場への進出の余地は確かにあるのでアプローチをかけていきたいですね。特にアメリカでは、日本のインナーが重宝されています。日本と季節が真逆なオーストラリアも最初のステップに最適だと考えています。

無謀と思われるかもしれませんが、年商100億円という目標もあり、自社製品をより良くするための研究やニーズに関する市場調査を進めています。5年以内に基盤をつくった上で、一気に海外へ進出するためにも今が一番のがんばりどころです。

編集後記

異業界からの経営層入りについて、「まったく畑が違ったからこそゼロからスタートできた」と語った八木専務。人々の「安全」を守るという会社の理念はそのままに、商品ラインアップやECの強化をスピーディーに実現してきた。海外でも、涼しげな作業服が定番になる日はそう遠くないと感じる。

八木智子/東京都出身。2010年に中央大学経済学部を卒業後、デザインを学ぶためにロンドンへ留学。その後、広告制作会社を経て、2013年に広告業で独立。2021年に株式会社萬年屋に入社後、専務取締役に就任。