愛知県でワイヤーハーネスの設計、製造・販売を手がける千代田電子工業株式会社。同社の代表取締役社長である伊藤社長は、ふるさとへの恩返しと世界への挑戦をテーマに掲げ、さまざまな事業に挑戦し続けている。その一つが果実を破壊せずに、甘さ・食べごろを計る測定器だ。この新たな事業を始めた理由や、時代の流れを汲み取りユーザー目線を重視した事業戦略、今後の展望について詳しくうかがった。
職場環境と時代が変わっても謙虚さを忘れずに歩み続ける
ーーまず、前職で印象に残ったことについて教えてください。
伊藤敏博:
高校卒業後、大手自動車メーカーの販売店で営業担当として働きながら、現場でたくさんの学びを得ました。特に社内研修でも強調されていた、知恵や経験が増すほど謙虚になることを意味する「実るほど頭を垂れる稲穂かな」という教えは、印象に残っています。会社が変わった今でも、この教えを大切にしており、常に謙虚であることを心がけていますね。
ーーその後、どのような経緯で千代田電子工業に入られたのでしょうか?
伊藤敏博:
自動車ディーラーの仕事はどうしても土日に業務が集中するため、家族との時間がなかなか取れないことがネックになり、退職を考え始めました。ちょうどその時、地元に新しい会社を立ち上げるという話があり、「地元」という点に興味を抱き、今の会社に入社しました。
ーー中国に赴任されたご経験があるということですが、現地で学んだこと、気づいたことについてお聞かせください。
伊藤敏博:
中国での経験は、現地の文化や考え方を理解しながら、協力して働く姿勢の大切さを学びました。これらの経験は私にとって非常に貴重なものです。
赴任した当初は言葉の壁や文化の違いに苦労し、現地のスタッフとのコミュニケーションが難しく感じたことが多々ありました。たとえば、通訳を介した情報伝達が不正確だと、こちらの意図が正しく伝わらず、信頼関係を築くのに時間がかかったこともあります。しかし、このような経験をしたことで、情報伝達の正確さと、信頼できる通訳を選ぶことが大切であると気づきました。
また、現地では指摘すべき問題があっても、それを開示しないがために問題そのものに気づいていないケースがありました。このような環境のなかで、現地スタッフと一緒に問題を見つけ出し、解決するプロセスを重ねることで、少しずつ信頼関係を築くことができました。
多角化の実現に向けた挑戦で生産者を支えたい
ーー貴社ではどのような事業を展開しているのでしょうか?
伊藤敏博:
主力事業はワイヤーハーネスの製造です。弊社では、顧客から提供される図面に基づき、ハーネスの設計から製造、納品まで一貫して行っています。特に、複雑で大型のハーネスの製造が強みです。さまざまな分野で多数の取引があり、高度な技術力と柔軟な対応力を活かして、多様なニーズに応えることを目指しています。
例えば、設計人員不足でハーネス設計に人員が割けない顧客の要求に応じてハーネス設計の受託業務を提供する事も行います。
これに加え、「おいし果」という非破壊で果物の糖度を測定する機器の開発・販売にも取り組んでいます。この機器は、わずか0.5秒で果物の糖度・酸度・硬度・熟度及び乾物率を測定できるため、生産者にとっての迅速かつ効率的な品質管理や、仲卸業者様・小売店様に於ける商品品質の保証・高品質な商品の付加価値をさらに向上させるツールとして、又食品製造会社様では原材料や工程で特定物質の品質確認等のツールとして活用が可能です。
ーーワイヤーハーネスの会社が、なぜ「おいし果」を開発されたのですか。
伊藤敏博:
「おいし果」を開発した背景には、リーマン・ショック後の経済的な不安定さがありました。ちょうどその時、ワイヤーハーネス事業だけに携わるというリスクを感じ、もう一つの収益の柱をつくる必要があると判断したのです。
また、地域の特産品であるメロンなどの農産物の品質を向上させることや、商品の特性を計測しブランドを作り上げる事に活用頂き、地域農業を支援したいという思いもありました。地域資源を活用し、新たな価値を生み出すことで、地域経済に貢献したいと考えています。
現在「おいし果」は農家だけでなく、法人市場にも広がりつつあり、さまざまな製品の特性を計測することで品質管理に役立っているのです。「おいし果」を通じて、地域農業を支えるだけでなく、ブランド力の強化にも寄与していきたいです。
グローバル市場への進出と人財育成で未来を切り拓く
ーー今後の展望について教えてください。
伊藤敏博:
今後は、海外展開とブランド力の強化に注力していきたいと考えています。現在、中国市場での販売を強化しており、毎月Web会議を通じて現地法人との連携を図っているところです。また、「おいし果」を使って新たなブランドを立ち上げることで、地域だけでなく世界にも通用する製品を目指しています。
ーー従業員向けの教育についての考えと取り組みをお聞かせください。
伊藤敏博:
資金や設備が備わっていてもこれらを有効に活用できる人財が無ければ経営を継続する事は出来ません。その意味において、従業員の育成は非常に重要だと考えています。弊社ではリーダーシップ研修を通じて、次世代のリーダーの育成に注力しています。現在、係長以上の従業員を対象に、2年間にわたりリーダー育成研修を月に一度実施しており、約15名から30名が参加しています。
また、従業員一人ひとりが成長できるよう、教育には積極的に投資しています。特に「人としての原理原則」、つまり何が重要であるかを全員に常に意識させることを重視しています。この取り組みによって、従業員の成長と会社の発展を同時に実現していきたいです。
編集後記
伊藤社長は、自身の経験を活かしつつ、地域と世界をつなぐ事業を展開している。その姿勢は、地元への深い愛情とグローバルな視野を併せ持つ企業家としての同氏の信念を強く感じさせるものであった。従業員の育成にも力を注ぎ、今後の発展がさらに楽しみである。
伊藤敏博/1958年岐阜県生まれ。公立高校卒業後、トヨタ自動車販売店にて営業に従事した後、千代田電子工業株式会社に入社。2002年に中国へ赴任し、2003年に2社目の子会社を立ち上げる。2012年より2回目の赴任中に自社工場を取得し、2017年より同社代表取締役社長に就任。