※本ページ内の情報は2024年5月時点のものです。

内閣府の調査によると、2022年10月時点の日本の高齢化率は29%。7%を超えれば高齢化社会だといわれる中、今後さらに進む超高齢社会に向けて日本では、介護業界の人材不足などが問題になっている。

たとえば人手が必要な介護業務には、オムツの取り換えやトイレ介助が挙げられる。この問題の解決に寄与しているのが、トイレ介護の負担を減らす排泄予測支援デバイス「DFree(ディフリー)」。手がけているのはDFree株式会社だ。

代表取締役の中西敦士氏によると、同社が開発したデバイスは介護問題だけでなく、環境問題も解決するという。DFreeはどのようにして生まれ、どのように社会を変えているのか。中西社長に詳しい話を聞いた。

発展途上国の成長著しい状況を見るために青年海外協力隊へ

ーー起業を志すことになったきっかけや経歴についてを教えてください。

中西敦士:
もともと祖父が事業を興していたこともあり、起業に興味がありました。また、私が小学生の頃にビル・ゲイツがWindowsを発表して世界に衝撃を与えたのを見て、「起業家はかっこいい」と思うようになったのもひとつのきっかけです。

大学卒業後はコンサルティングファームで働き、その頃テレビでベトナムを取り上げた番組が目に入りました。当時、ベトナム国民の平均年齢は27歳と若く、国の平均成長率は約5%。1年も経てば街の様子が大きく変わっていると聞いて、発展途上国の環境に興味を持つようになりました。

そのことがきっかけで、青年海外協力隊に入り、フィリピンで2年間ボランティアを経験することになりました。現地の人にマーケティングを教える、村落開発普及員という専門職の仕事をしていました。

超音波センサーでトイレの介護負担を軽減

ーー介護事業を立ち上げることになった経緯を教えてください。

中西敦士:
青年海外協力隊の後、カリフォルニア大学バークレー校でビジネスを学びました。そこでは4か月のインターンシップの間、投資家へ20個ほどビジネスを提案する機会があり、出資してもらうためにプレゼンもしました。

そのときに、起業家2人に「トイレのタイミングを予測する事業が面白い」と言われたのがきっかけです。プロに言われたなら挑戦するしかないなと思い、最初は友人に少しだけ出資してもらい、そこから製品のプロトタイプを完成させて法人化しました。

ーー事業内容について詳しく教えていただけますか。

中西敦士:
トイレのタイミングを予測する「DFree」というデバイスの開発と提供です。これは、超音波センサーで膀胱の膨らみを捉えて、膨らみが一定以上になったら事前にトイレに行くように知らせるというものです。

高齢者だけでなく、体の不自由な人、発達障害のお子様などにも使っていただいています。先月実施したトライアル後の調査では、満足度はほぼ100%でした。

介護業界の問題は現在、深刻な状況にあります。たとえば介護現場では、施設の利用者が介護士を呼んでトイレに連れて行ってもらうことが多いのですが、トイレに行ったばかりなのにまたすぐにトイレに行きたくなり、介護士が何度も呼び出されてしまうといったことが起きています。

弊社のデバイスは、膀胱の見える化によって、その要因を知ることができ、より根本的な解決につながるケアをサポートすることで、こういった問題もカバーできます。

ーー貴社ならではの強みはありますか。

中西敦士:
大きな社会問題を解決していることです。日本は大人1人あたりのオムツの消費量が世界平均の3倍で、適切な排泄ケアをするための人手が不足しています。

また、日本で排出されるゴミのうちの5%以上が使用済みの紙で、2030年にはそれが7%になると言われています。それらのゴミの原料の大半はプラスチックで、リサイクルできません。最終的には燃やすしかなく、環境に非常に悪いのです。

弊社の事業は介護業界の問題だけでなく、こういった環境問題の解決などSDGsへの貢献にもつながっています。

夢は国内外での認知拡大と、90歳まで社長を続けること

ーー今後の展望をお聞かせください。

中西敦士:
弊社のデバイスを導入しているのは一部の施設に限られ、まだ広く知られてはいません。そのため今後は、困っているケアマネージャーや福祉用具の販売店に、「DFree」を当たり前のように勧めてもらえるようにしていきたいと考えています。また、国内だけでなく、海外での認知度もしっかりと高めていきたいと思っています。

ーー会社としての夢、社長個人としての夢はありますか。

中西敦士:
世界中の人が当たり前のように使っているiPhoneのように、弊社のデバイスも社会に当たり前に浸透して使ってもらえるようになれたら良いなと思っています。具体的な数字でいえば、累計1,000万台の販売達成を目指しています。

私個人の夢は、90歳まで社長を務めることです。苦労すればするほど自分自身が面白い人間になっている気がしますし、面白い人間であり続けるために、経営はとても良いフィールドだと感じています。

編集後記

「90歳まで社長をすることが夢」と熱く語る中西社長からは、自社の製品を通して介護業界を変えたいという強い意志が感じられた。

高齢化が進む日本において、「DFree」は画期的な製品としてこれからより必要性が高まっていくだろう。同製品がさらに認知度を高め、介護業界に変革を起こすことを期待したい。

中西敦士/1983年兵庫県生まれ。慶應義塾大学卒。大学卒業後、医療分野も含む新規事業立ち上げコンサルティングファームに従事。その後、青年海外協力隊に参加。2013年よりカリフォルニア大学バークレー校でビジネスを学び、2015年にトリプル・ダブリュー・ジャパン株式会社(現DFree株式会社)を設立。著書:「10分後にうんこが出ます―排泄予知デバイス開発物語―」(新潮社)