産業廃棄物の適切な処理は、持続可能な社会の実現には不可欠だ。しかし、この分野は行政との協議に時間がかかるなど、革新が起こりにくいとされてきた。そんな常識を覆そうと挑戦を続けているのが、東海環境株式会社だ。創業以来、幾多の困難を乗り越えてきた同社の軌跡と未来像について、代表取締役の中島聖智氏にお話をうかがった。
有言実行で、幾多の困難を乗り越えた
ーー貴社を創業された経緯を教えてください。
中島聖智:
2008年に創業しましたが、正直なところ、当時は産廃業界に特別な興味があったわけではありませんでした。とある縁がきっかけで、産廃処理の営業許可を取得する機会をいただいたのです。最初はお客様もゼロの状態でしたが、やるかやらないかの岐路に立ったとき、挑戦してみようと決意しました。当時25歳でしたが、自分の力で何かを築き上げたいという思いが強かったですね。
ーー創業当初はどのような苦労がありましたか?
中島聖智:
借金が4億5000万円ほどある中で、最初の1ヶ月の売上は20万円程度でした。さらに、3ヶ月目には主要取引先が倒産してしまい、5000万円ほどの手形が不渡りになるという大きな打撃を受けました。その後も、トラブルに巻き込まれて売上が90%も減少し、会社の存続が危ぶまれる状況に追い込まれました。
そんな状況にも関わらず、大半の社員が会社に残り、立て直しに尽力してくれたのです。「これまで社長は言ったことを実現してきました、だから私たちは残ります」と。その経験を通じて、人とのつながりの大切さを学びました。より多くの人と会い、密にコミュニケーションをとることで、新たなチャンスが生まれることを実感しています。
他社が避ける分野にこそ、積極的に挑戦する
ーー貴社の事業内容を教えてください。
中島聖智:
私たちは主に産業廃棄物の中間処理を行っています。特に力を入れているのが、土壌に含まれている廃棄物の処理です。この分野は全国でも5社ほどしか取り組んでおらず、参入障壁の高い事業です。建設現場や工場から出る廃棄物を適切に処理し、リサイクルすることで、環境負荷の低減に貢献しています。新しいことに挑戦するためには行政との協議が必要なこともあり、新規事業に踏み出そうとする会社は多くありません。しかし、私たちはそこにチャンスがあると考え、積極的に取り組んでいます。
ーー貴社の強みはどのようなところでしょうか?
中島聖智:
私たちの強みは、常に新しいことにチャレンジする姿勢です。産廃業界は保守的な雰囲気があると感じていますが、私たちは積極的に新しい技術を導入し、リサイクル率の向上に取り組んでいます。
また、社員との距離が近いことも強みですね。社長である私と社員が気軽に意見を交わせる環境を大切にしています。さらに、お客様に対しても新しい価値の提案を心がけています。単に廃棄物の処理費用を下げるだけでなく、リサイクル率を上げることでお客様の環境貢献度を高めたり、処理にかかる手間を減らしたりできるという利点もあります。お客様のニーズにあわせて、総合的なご提案をしています。
社員の幸せが会社の成長につながる
ーー人材育成についてどのようにお考えですか?
中島聖智:
私は、優秀な営業マンを1人育てるよりも、多くの営業マンを育てる方が重要だと考えています。さらに、育った営業マンが次の営業マンを育成するというサイクルをつくれば、数の力でより多くの人材を育てることができるのです。
また、従業員には「会社のため」ではなく、「自分のため」に頑張ってほしいと伝えています。自分の幸せのために頑張ることが、結果的に会社の成長につながると信じているからです。人事評価制度についても、常に改善を重ねており、営業部門だけでなく、処理現場のスタッフにもインセンティブが行き渡るような仕組みを検討しています。
ーー今後の事業展開についてお聞かせください。
中島聖智:
これまでの産廃処理は埋め立てに依存していましたが、現在はリサイクル率のさらなる向上に取り組んでいます。磁力や風力を活用した選別機、光学式選別機などの設備を導入し、処理工程を増やすことで、これまで「ごみ」とされていたものから「資源」をとり出す。設備投資には多額の資金が必要ですが、これは環境保護にとどまらず、会社のブランディングにもつながると考えています。
将来的には、年間売上200億円を目指しており、全国各地に拠点を展開していきたいですね。M&Aなども活用し、各地域にアンテナを張り巡らせていく予定です。こうした取り組みを経て、これからも環境に配慮しつつ、社員一人ひとりが幸せを感じられる会社づくりを目指していきます。
編集後記
中島氏の「自分のために頑張る」という言葉が印象的だった。一見、個人主義的に聞こえるが、社員一人ひとりの成長と幸せが、結果として会社全体の発展をもたらすという深い洞察が込められている。リサイクル率向上への積極的な投資や、全国展開への意欲的な姿勢には、業界の未来を変える可能性を感じた。環境問題が深刻化する中、同社の挑戦は持続可能な社会の実現に向けて、重要な役割を果たすことだろう。
中島聖智/2008年、大学卒業後に東海環境株式会社を創業、現在に至る。