現代の建設業界は、少子高齢化による人手不足や環境問題への対応、さらにはDXの推進といった多くの課題に直面している。こうした中で、創業から100年以上にわたり、建築設備用排水器材の開発・製造・販売を手がける老舗企業の小島製作所。長い歴史を通じて培った技術力と信頼性を基に、時代の変化に対応して、新たな商品開発と働きやすい職場環境の構築に取り組む代表取締役社長である小島久典氏に、成功の秘訣を聞いた。
100年超の歴史を持つ家業を引き継ぐ意思
ーー貴社の創業の歴史と、社長就任までの経緯をお聞かせください。
小島久典:
弊社は曾祖父が創業しました。私は曾祖父には会ったことがないのですが、祖父が長く社長を務めていたため、その影響が大きかったですね。幼い頃から社員旅行に参加したりして、自然と家業に親しんでいました。祖父から誘われたことをきっかけに、その後、父からも声をかけられたことで、次第に家業を継ぐ決意を固めていきました。
大学では理工学部に進み、卒業後はIT企業で働きました。主にシステム開発やセキュリティ対策に携わり、大きな案件では、三菱UFJ銀行の合併に伴うシステム統合プロジェクトにも参加しています。
その後、家業に戻り、デジタル推進室でDXを進める役割を担当しました。一番大変だったのは基幹システムの入れ替えです。当時使っていた古いシステムを誰も理解できず、改修するにも技術者がいないという状態で、多くの部門との調整に苦労しました。
その過程で摩擦が生じることもありましたが、最終的には乗り越えました。ペーパーレス化やセキュリティの強化など、DX推進によって社内の効率化や業務改善が進み、現在も継続的に取り組んでいます。
現場作業の効率化を追求した製品開発
ーー他社との違いや差別化のポイント、強みについて教えてください。
小島久典:
弊社は建築設備用排水器材の開発・製造・販売を手掛けるメーカーです。強みは、製品の施工性と現場の負担軽減に重点を置いている点です。
たとえば、弊社の商品には防音材や防塵材をあらかじめ巻いた状態で出荷するものがあり、現場の手間を大幅に削減できます。他社では、現場でそれらを巻く作業が必要なことが多いのですが、弊社では一体化して出荷できるので、配管工事業者にとっても大きなメリットとなっています。
それにより人件費の削減や工事のスピードアップが可能となり、特に人手不足やコロナ禍の影響で人員が減少した現場から高い評価を得ています。
ーー新製品として樹脂製品の開発に力を入れているとのことですが、どのような背景があったのでしょうか。
小島久典:
従来は鋳物製品を中心に取り扱っていましたが、現在は重い鋳物の代替として樹脂を使用した製品を開発しています。樹脂の重さは鋳物に比べて約3分の1で、取り扱いが非常に楽です。現場の負担を軽減でき、特に女性や高齢の労働者にも好評です。
また、樹脂は錆びないため、鋳物よりも長期間の使用が可能です。これにより、特に長寿命が求められるマンションや公共施設などにおける需要が高まっています。既に複数の改良版を開発しており、耐久性と軽量化を両立させた製品として、業界内で高評価を獲得しています。
デジタル化による業務改革と従業員との協働で築く新たな経営ビジョン
ーー経営体制や組織の改革に関する取り組みを教えてください。
小島久典:
昨年、社長に就任してから、経営ビジョンの刷新を目指してきました。その一環として、来月には中核社員とともに「ビジョン合宿」を実施し、今後10年の会社の方向性を策定する予定です。
トップダウンではなく、従業員の意見を反映させる形でビジョンを策定することで、現場の理解を深め、全員が共有できる目標をつくりたいと思っています。お客様はもちろん、社員やご家族がより幸せになれるように、環境などを整備していきたいと思います。
ーー働きやすさやキャリアアップについては、どのような施策をおこなっていますか。
小島久典:
社員一人ひとりの働きやすさを重視した、柔軟な勤務体制を整えています。残業時間は平均して月に1時間未満で、ほとんどの社員が定時で帰宅しています。また、有給休暇の取得率も非常に高く、全社員の平均が7割以上、さらには8割の取得を目指している状況です。新入社員でも入社初年度から積極的に有給をとる風土があり、ワークライフバランスを大切にしながら働ける環境です。
弊社の事業は、建設業界において社会インフラを支える重要な役割を果たしています。自分が携わった製品がビルやマンション、公共施設などで使用され、社会の根幹を支えていることを実感できるのは大きなやりがいです。また、全国各地の現場を担当するため、さまざまな地域での経験が積めることも魅力です。
今後、従業員がチャレンジする目標を評価に反映させる「チャレンジ目標」制度を導入します。社員がそれぞれ自主的に目標を立て、その達成度を人事評価に組み込むことで、頑張った人がより報われる体制をつくりたいと思っています。
ーー将来的な展望についてお聞かせください。
小島久典:
現在、東京エリアの売上が全体の6割を占めているので、今後も東京の営業体制を強化していきたいと考えています。営業マンの数を倍に増やすことでさらなる成長を目指し、九州や北海道への進出も見据えています。
さらに、将来的には海外展開も視野に入れています。特に東南アジアを中心に、アジア市場や建設需要が高まっている地域に進出したいと考えています。まずは国内での営業体制を強化し、十分な基盤が整った段階で海外市場にも挑戦します。
高い品質へのこだわりと顧客ニーズにこたえる商品の提供が長寿の秘訣
ーー100年以上、貴社が続いている理由について教えてください。
小島久典:
弊社が長年続いている理由は、品質に対するこだわりと顧客との信頼関係の強さゆえだと思います。特に品質に関しては、常に最高のものを提供するという姿勢を崩さず、大手のデベロッパーにも認められるような製品づくりを続けてきました。これにより、地元の中小デベロッパーにも「大手が使っているなら安心だ」と信頼していただけるようになりました。
また、現場のニーズに合わせた製品開発も強みです。工事現場での効率化を追求し、手間を省ける商品を提供することで、現場作業者の負担を減らすことができ、リピート率も非常に高い状態を保っています。長年の実績と信頼を築き上げることで、競合他社との差別化を図り、今後も成長し続けていきたいと思います。
編集後記
同社は創業100年以上の歴史を持つ建築資材メーカーでありながら、今まさに変革期を迎えている。基幹システムの刷新や紙ベースの業務からの脱却は経営効率の向上だけでなく、社内外の信頼や従業員の士気向上にもつながっていると感じた。同社が、次のステージに向けてどのような手を打っていくのか。今後の成長と挑戦に期待したい。
小島久典/1983年生まれ。愛知県出身。2006年、近畿大学理工学部電気電子工学科卒業。株式会社小島製作所のデジタル推進室室長、専務取締役などを経て2023年、代表取締役社長に就任。