創業から70年以上にわたり、地元岐阜県に根ざした総合建設業として成長を続ける株式会社久保田工務店。公共土木工事を主力とし、「道の駅」やまちづくり事業など、地域貢献にも注力している。代表取締役社長の久保田智也氏に、会社の成り立ちや地域貢献への思い、そして今後の展望についてうかがった。
大手建設会社で技術力と精神力を鍛えたのちに入社
ーー社長に就任するまでの経緯を教えてください。
久保田智也:
親から家業の「久保田工務店を継げ」と言われたことは一度もなく、幼い頃は医者になりたいと思っていました。家業を継ぐと決意したのは、大学進学の頃です。生まれたときから久保田工務店があり、会社があったからこそ私も生きてこれたのだと考えて、恩返しをしたいという気持ちになったのです。
しかし、大学卒業後はすぐに家業に入らず、岐阜県内の大手建設会社に就職しました。いわば修行のようなものです。8年間お世話になり、そこでハイレベルな技術を学び、現場監督として一人前に育ててもらえたと思います。
土木をやっていく人間としての技術を教えてもらったことは大きな収穫でした。それと同時に、メンタル面も鍛えられました。仕事はかなりハードでしたから、精神的にも成長できたと感じています。その後、2008年に久保田工務店に入社し、2020年に代表取締役社長に就任しました。
「地域愛」を受け継ぎ、活性化につながるプロジェクトへの取り組み
ーー貴社の事業について教えてください。
久保田智也:
主な事業は、総合建設業です。土木・建築を中心とした総合建設業であり、特に公共のインフラ整備に力を入れています。道路、橋、トンネルといったインフラをつくる土木工事が主要な事業です。
また、建設業を主軸としながらも、地域貢献にも力を入れています。たとえば、「道の駅」の管理運営やジビエの解体処理施設の運営など、地域の活性化につながるさまざまなプロジェクトにも取り組んでいます。
ーー地域貢献に注力しているのはどのような理由からですか。
久保田智也:
私は「地域愛」と呼んでいるのですが、地域を愛する心というのは、創業の頃から脈々と受け継がれている弊社の文化だと思います。そういう文化の会社で育ち、また両親からもそのような価値観を教えられてきました。ですので、自然とそういう思いが育ったというのが理由の一つです。
もう一つは、建設業というのは、地域と切っても切り離せない関係にあるということです。地域の支えがあってこそ、弊社は創業から75年以上も長く続けてこられました。これからもその関係を続けていきたいですし、地域への恩返しをしていきたいという思いが強くあります。
社員の自発的なアイデアに「イエス」で応える環境づくり
ーー経営者として大切にしている理念について教えてください。
久保田智也:
私が経営者として大切にしているのは、社員が自発的にアイデアを出し、提案してくれる環境をつくることです。会社の中で「こうしたい」「こうした方がいい」といった意見が、私の知らないところで出てくることが一番の喜びです。
それを実現するためには、社員が意見を言いやすい環境を整えることが必要ですし、提案があればなるべく「ノー」と否定しないようにしています。可能な限り「イエス」で応え、その意欲を大切にしています。
また、トップダウン型の経営にしないと決めています。私一人の考えだけで進めるのではなく、社員全員が考えたことが形になるような会社にしていきたいと常に思っています。社員一人ひとりが主体的に動ける環境が、会社の成長につながると信じています。
ーー今後の展望を教えてください。
久保田智也:
まず建設業者として、事業の幅をさらに広げていきたいと考えています。現在、公共土木工事が弊社の最も得意とする分野ですが、その分、偏り過ぎている感があります。
そこで、今後は「公共」と「民間」、「土木」と「建築」という要素をバランスよく展開していきたいと考えています。現在、土木が全体の約9割を占めており、建築は1割程度にとどまっていますが、これを8対2、あるいは7対3くらいにしたいと思います。
建築の割合を増やせば、自然と民間の仕事も増えていくと期待しています。さらに、地域貢献の事業についても、単なる社会貢献ではなく、しっかりとしたビジネスモデルとして確立させたいと考えています。
空き家対策とキッチンカー運営で事業の幅を広げる
ーー地域貢献に関して具体的に取り組んでいることを教えてください。
久保田智也:
空き家活用のプロジェクトを進めています。数年前から弊社が所有していた空き家があり、最初は資材置き場として利用する案も出ていました。しかし、もっと効果的な活用方法があるのではないかと考えたのです。そこには、今後ますます深刻化するであろう空き家問題への対策が必要だという認識がありました。
そこで、モデルケースをつくることにしました。弊社が所有していた空き家2棟のうち1棟を改修し、賃貸物件として運用を始めました。空き家の改修に投資し、それを借りる人から家賃を得て回収するという一つのビジネスモデルです。今後はこのモデルを良い形で展開していきたいと考えています。
ーー新たな取り組みについてもお聞かせください。
久保田智也:
新たな取り組みの一つに、キッチンカーの運営があります。これは、私が発案したわけではなく、経理担当の社員が出したアイデアです。こういった社員からの自発的な提案があることが非常に嬉しいですね。「やってみよう」ということで、2024年の夏から始めました。
現在、アイデアを出した経理担当の社員と、もう1人の女性社員の2人で運営しています。もちろん本業がありますので、休日やさまざまなイベントの際に出店しています。
メニューの特徴は、弊社が手掛ける鹿肉の解体事業と連携した、ジビエ料理です。また、会社のある揖斐川町が北海道の根室市と姉妹都市提携していることから、根室の特産品も販売しています。このような地域の特色を活かした取り組みは非常に良いと思います。
社員からの自主的な提案が形になることは、モチベーション向上につながりますし、それが他の社員にも良い影響を与えます。このような取り組みを通じて、社員の自主性を育み、会社全体の活性化につなげていきたいと考えています。建設業という枠にとらわれず、社員のアイデアを大切にし、新しいビジネスの可能性を探っていくことが、弊社の成長につながり、ひいては地域への貢献にもつながっていくと信じています。
編集後記
地域貢献と建設業の両立に情熱を注ぎ、揖斐川町をはじめとする地域社会の発展に大きく寄与する久保田社長。これからも、地域に根ざしながら多様な挑戦を続ける久保田社長が、どのような形で新しい価値を創出していくのか、注目していきたい。
久保田智也/1978年、岐阜県生まれ。大学卒業後、岐阜県内の大手建設会社である岐建株式会社に入社。現場監督として8年間の修業期間を経て、2008年に株式会社久保田工務店に入社。2020年に代表取締役社長に就任。総合建設業を事業の主としながらも、地元の揖斐川町を盛り上げるべく「まちづくり事業」にも注力している。