サステナブルな社会の実現やSDGsの達成に向けた取り組みが、今や企業の重要な使命となっている。特に、環境負荷の低減や資源の再利用において、技術革新が求められていることは確実だ。
このような状況の中で、株式会社 放電精密加工研究所は、その卓越した技術力と持続可能なモノづくりで注目を集めている。同社は放電加工技術を駆使し、住宅サッシのための金型や航空機エンジン部品など、幅広い分野で革新的な製品を生み出している企業だ。2023年、代表取締役社長に就任した村田力氏に、放電精密加工研究所が歩んできた歴史から他社とは異なる強み、さらには人事評価制度の見直しに至るまでをうかがった。
放電加工機の開発の歴史と、会社の転換点
ーー放電加工技術と会社の歴史についてお話いただけますか。
村田力:
放電加工は、ドリルや旋盤などを使って加工する一般的な機械加工とは異なり、電気のエネルギーを使って金属を加工する技術です。簡単にいうと、雷のような物理現象を人工的に再現したモノづくりの方法なのです。私たちはその技術をベースに、さまざまな分野で活用される製品を生み出しています。
1954年に国産初の放電加工機が開発され、そのチームには創業者が技術者として参加していました。その後も創業者は放電加工技術を活用したモノづくりを研究し、1961年に放電精密加工研究所を起業しました。その頃はまだ放電加工技術を何に使っていくか模索していた時期だったことから、「研究所」という名称が、社名に入っています。
ーーこの業界に足を踏み入れたきっかけや、貴社に入社された経緯について、お聞かせください。
村田力:
私はもともと、放電加工機を開発した企業に勤めていたのですが、他の企業が経営に参加するようになったことを機に、この会社を去りました。
一方で、当時の放電精密加工研究所は、今までにない金型の使い方で部品づくりができるプレス機のメーカーになろうと考えていたのです。その状況が重なり、放電精密加工研究所の社員から「一緒にやってみないか」と誘われて入社しました。それ以来、プレス機の開発に30年近く携わり、今日に至ります。
草創期から育んだ、技術力と信頼関係という強み
ーー事業内容や強みについて、教えていただけますか。
村田力:
主な事業は、放電加工技術を活用して金属を加工することです。現在、三菱重工業株式会社様や川崎重工業株式会社様、株式会社LIXIL様といった大手企業との取引を中心に、火力発電所で利用されるガスタービン部品や航空機エンジン部品などの製造、さらに住宅分野ではアルミサッシの金型を製造するなど幅広く、それぞれの分野に役立つ製品を提供しています。
当社は、放電加工の草創期からこの技術について研究してきたという歴史があり、豊富なノウハウや高い技術力を持っています。特に、航空機エンジンのような高い信頼性が求められる製品においては、航空機メーカーの認証も必要なので、他社では簡単にはつくれません。また、放電加工だけでなく、前後の工程も含めて対応できることも、他社との差別化につながっています。
さらに、大手企業様が新しいことを始めようと考えたとき、部品の製造方法について当社に相談してくださるのです。これは創業当初から取引を続けている企業との信頼関係を築いてきたことが大きく、「お客様の発展に貢献してこそ、当社の発展がある」という経営理念のもと、お客様の想いを実現してきた結果だと思います。放電精密加工研究所は、お客様を支える「縁の下の力持ち」なのです。
ーー注力している機械設備分野や環境分野への取り組みについて、教えてください。
村田力:
機械設備分野では、長年にわたり、プレス機械の開発に取り組んできました。開発した機械であれば非常に高精度な加工ができるので、付加価値の高い製品を生みだせます。また、お客様に試しに使ってもらえるように、シェアリングサービスを提供しています。当社の工場で実際に使用してもらい、お客様が商品の開発に成功したら、機械を購入していただくという形です。
環境分野では、廃棄プラスチックの再生循環利用を目指した混合溶融装置を開発しました。この装置は、プラスチックごみを再利用可能な材料に戻すことに使用するだけではありません。プラスチックと木を削ったときに出る大鋸屑(おがくず)などの天然素材を混ぜることで、化石由来のプラスチック使用量を削減した材料をつくる事ができます。
また、この装置は、今まで再生が難しく焼却処分されていた複合プラスチックもリサイクル可能にしたことから、脱炭素社会に貢献する技術として社会から期待されています。
サステナビリティを見据えた育成、モノづくりの追求
ーー人事評価制度の見直しやキャリアマッチングに関しては、どのような取り組みをしていますか。
村田力:
以前の人事制度はコースが1つしかない単線型で、総合職に限られていました。これを、マネジメント職、技術職、スタッフ職、テクニカル職の4つのタイプに分けて、各自の得意分野に応じた評価を行う複線型の制度にしたのです。これにより、従業員一人ひとりの得意分野を活かしながら、より柔軟かつ効果的にサポートすることが可能になりました。
また、全社員にキャリアアンケートを配布し、回収することで、各自が希望するキャリアパスや配属先を把握しています。適性と希望が合致すれば、それに応じた配置がかなうように、キャリアマッチングに関する制度も大幅に変更しました。毎年、新卒採用で10名程度が入社しており、この取り組みによって直近3年間で定着率は100%を達成しています。
入社後の研修制度も充実しており、2週間の新入社員研修に加え、半年後・二年後と定期的にフォローアップ研修を行っています。女性社員向けの研修プログラムも導入しており、女性管理職の育成と横のつながりの強化を図ることにより、社員全体のスキルアップだけでなく、ダイバーシティの推進にもつなげています。
ーー人材の採用において、重視していることを教えてください。
村田力:
リーダー気質やエンジニアリング気質を持っている方、または技術者としての専門性を持ちたいと考えている方などに注目しています。最近では、スポーツチームの主将経験者などを積極的に採用しており、彼らに対しては、チームの推進役として活躍してくれることを期待しています。
また、お客様のビジョンを形にしていくことが私たちの仕事なので、技術に対して興味関心が高く、変化を恐れずに挑戦し続け、柔軟性もある方は当社にマッチしていると考えています。
ーー今後の展望を教えてください。
村田力:
当社は、サステナビリティを目指したモノづくりの提供を掲げています。なかでも2050年のカーボンニュートラルの実現に向けて、放電加工技術をさらに進化させることを意識しています。さらには、プラスチックのリサイクルだけでなく、プレス機を使った燃料電池やセラミックの成形技術など、開発にも力を入れ、社会に貢献できる製品力や技術力の向上も追求していきます。
編集後記
放電精密加工研究所の発展は上場企業でありながら変化を恐れないこと、技術への飽くなき探究心、人材育成に対する熟慮の3つに支えられていることが村田氏の言葉から感じられた。また、インタビュー中に感じられた社員の方々の穏やかな雰囲気も、こうした村田氏の姿勢があるからこそ。技術革新と社員の成長が併存する放電精密加工研究所は、さらなる高みを目指して歩み続けることだろう。
村田力/1956年、北海道生まれ。1979年にジャパックス株式会社に入社。1990年に株式会社 放電精密加工研究所に転職し、2023年に代表取締役社長に就任。