※本ページ内の情報は2024年12月時点のものです。

学生服から始まり、会社のユニフォームや警察・消防の制服まで、多くの人が一度は「ユニフォーム」のお世話になったことがあるだろう。兵庫県神戸市で創業、現在は大阪市中央区に本社を構える株式会社チクマは、そんなユニフォームを120年以上つくり続けてきた老舗企業だ。

長い歴史の中で山も谷も経験しており、代表取締役社長の堀松渉氏もまた、会社と共に多くの苦難を乗り越えてきた経験を持つ。創業130年を見据えるチクマは、これからどんな道を歩もうとしているのか。新たな時代へ進むためのビジョンを堀松社長にうかがった。

自分の好奇心から入社し、社長まで上り詰める

ーー堀松社長の経歴をお聞かせください。

堀松渉:
私は学生のころから洋服が大好きで、アルバイトで稼いだお金をすべて洋服に費やすほどでした。弊社を希望したのも洋服に関する仕事がしたかったためです。また、貿易に関わりたい気持ちもありましたので、地元神戸から国内外を相手に活躍する弊社はピッタリな会社だったわけです。

入社後の配属先は学生服部門という想像もしていなかった部署でした。いろいろな洋服に携わりたいと思っていた私にとってはショックで、正直な話モチベーションを大きく落としました。

しかし、後から「学生服部門が会社の収益を最も支えている部門だ」と聞かされ、責任感からモチベーションを持ち直します。

ちょうど制服のモデルチェンジが活発な時期だったこともあり、仕事は多忙を極めました。土日返上で働くほど忙しかったのを覚えていますが、それ以上にやりがいがありました。

その後2004年に取締役、2012年常務取締役に就任。そして2017年に代表取締役社長を拝命し、今に至ります。

長い歴史が培った業務基盤を武器に着実に成長を続ける

ーー貴社の事業内容を教えてください。

堀松渉:
弊社はビジネスユニフォーム、学生服、婦人服の生地素材及び製品を主に取り扱っている繊維専門商社です。創業は1903年と120年以上前で、海外との貿易も100年以上前から行っています。

事業の中心となっているのは、学生服、警察・消防などのいわゆる官需、そして企業ユニフォームなどです。120年以上培ってきた技術力の高さとデザイン力が自慢で、さらに1995年から続けているユニフォームのリサイクル活動によりSDGsの推進にも力を入れています。

一時は業績が落ち込んだものの無事回復したことをうけ、これからは「攻めの経営」に転じ各種の施策を既に打ち出しています。また将来的にはM&Aなども考える必要があるかと考えています。

今、学生服ではLGBTQ、ユニフォームでは環境配慮やジェンダーの流れでモデルチェンジのニーズが増えており、私どもには非常に追い風になっています。

ーー貴社独自の強みは何でしょうか。

堀松渉:
学生服と警察・消防という2つの大きな需要ベースがあることです。これらは毎年のマーケットの規模があらかじめ分かるので、売上がとても安定しています。

企業ユニフォームにおいても、全国の代理店や販売店とのネットワークを構築することで安定した需要を確保しています。人口減少が進むほどに、限られた需要の中で売上を上げることが求められますので、安定した事業基盤があることは大きな強みといえるでしょう。

また、環境問題に古くから取り組んできたことも強みの一つです。当社は既に1995年には業界に先駆けて環境関連部署を立ち上げ、2004年には産業廃棄物のリサイクルの特例制度である「広域認定制度」(環境大臣指定)を国内第一号として取得、2014年には北九州市との間で国内初となる官民共同事業として「古着のリサイクル事業」を開始するなど常に業界をリードしていると自認しております。

最近の事例でも、有名ホテルチェーンの制服リサイクルの話や某大手流通会社とコラボした衣料品の分別回収など、このようなお話は時代背景を受けて加速度的に増加しています。

このように、SDGsという言葉が生まれるずっと前から、古着の回収や制服管理システムによる無駄の削減などに取り組んでいたので、最近の社会的な流れは弊社にとって追い風となっています。

創業130年に向けて、社会の追い風を味方に進み続ける

ーー今後、特に注力したいテーマを教えてください。

堀松渉:
創業130周年に向けた長期計画の策定に取り組んでいます。今までは中期計画を中心に運用してきたのですが、ここで長期計画を定めて、会社としての「大きな夢」を描くことにしました。大きな夢から社員のエンゲージメント向上につなげ、結果として会社の成長発展を目指していきます。

特に大きな方針としては、2019年のSDGs宣言と同時に掲げた「CSV経営」(クリエイティブ・シェアード・バリュー)で、要するに社会貢献を行うことによって弊社の発展に繋げるということで、今後も全社一丸となってこの動きを加速化させて参ります。

具体的な事業の面では、様々なやりたいことがあるのですが、当社が業界の先駆者である環境配慮面はさらに注力していきたい。従来からある北九州市のグループ企業のリサイクル工場を活用した衣料品回収システムを、この度「チクマノループ®️」としてブランド化しました。社会を挙げたサステナブル推進の流れを活用しない手はありません。企業からの回収を強化して、弊社の存在感を高めて行ければと思います。

ちなみに、リサイクルの面ではLCA(ライフサイクルアセスメント※1)を受けて、リサイクルによるCO2削減効果を数値で提示できるようになりました。持ち込んだ企業はその数値をカーボンニュートラルに活用できるので、今後ニーズはより一層高まると思います。

(※1)ライフサイクルアセスメント:製品やサービスの製造・生産から消費、廃棄、リサイクルに至るまでの過程でどれだけ環境負荷がかかっているかを見える化する手法のこと

ーー最後に、貴社の今後の展開についてお聞かせください。

堀松渉:
社会にSDGsの追い風が吹いていることなど、これからの時代は弊社にとってチャンスが訪れる時代になると思います。

このチャンスを逃さないために、人的資本投資に注力し始めました。たとえば仕事の基礎となるマーケティングやイノベーションの研修や、課長職以上を対象にしたファシリテーション型マネジメント研修などを実施し、会社全体をボトムアップで強化しようと考えています。

今後はより一層、教育とフォローに力を入れていきますので、皆さんには自身の成長の場としても弊社を選んでいただければと思います。

また、管理部門や環境推進、情報統括など専門知識が必要な部署では、キャリア採用にも力を入れています。自信の能力を生かす場所を探している方は、ぜひ一度お声がけください。

編集後記

ユニフォームは一斉に与えられる服だからこそ、その供給元が担う責務は大きい。チクマは供給から品質、さらにはリサイクルという回収の部分まで責任を持ち、制服業界に良い循環をもたらしている。社会にSDGsの追い風が吹き始めた今、チクマは創業130年へ向けて、さらに大きく羽ばたいていくことだろう。

堀松渉/1952年神戸市生まれ。1975年京都外国語大学卒業後、同年竹馬産業株式会社(現株式会社チクマ)に入社。2004年取締役就任、2012年常務取締役、2017年代表取締役社長に就任。2024年より公益社団法人 環境生活文化機構の理事長も務める。