※本ページ内の情報は2024年12月時点のものです。

人手不足が深刻な建設業界では、ドローンやAR(拡張現実)などの先進テクノロジーを活用したDX推進が進んでいる。測量機器の販売を行う株式会社新和測機は、ICT関連サービスを提供し、建設業界の業務の効率化を支援している会社だ。

社員の相次ぐ退社を経験して得た気付きや、顧客のアフターフォローに注力する理由、建設業界のICT促進への取り組みなどについて、代表取締役の福地一路氏にうかがった。

組織を指揮する立場になって気付いた経営の心構え

ーーまずは福地社長の経歴についてお聞かせください。

福地一路:
大学卒業後は、家業と同じ測量機や事務機を取り扱う会社で経験を積むため、6年ほど他社で営業として働きました。1日100件の飛び込み営業をした経験は、私にとって大切な財産となっています。その後1年間の研修を経て、新和測機に入社しました。

入社当初は、いきなり取締役として入ったことや、前職での営業方法を押し付けていたこともあり、社員からは猛反発を受けましたね。その頃はまだ地元で競合が少なく、新和測機の名前を出せば商品が売れる状態でした。

そのため当時の社員たちは、自分たちが変わる必要はないと思っていたのです。それからエース級の社員が次々と辞めてしまい、売上も下がっていき、最初の5年間は精神的に相当つらい思いをしました。

これは自分の非を認めることができなかった、私の未熟さが招いた結果でもあると感じています。この失敗を経て、会社経営も人間関係も心の余裕が大切だと学びました。

ーーそうした苦労を乗り越え、現在の体制になったわけですね。

福地一路:
私の入社後に入ってきた社員は私が守るという覚悟を持って、指導にあたりました。こうした積み重ねにより、社員との信頼関係を構築できたのではないかと思っています。今では信頼できる仲間ができ、顔つきも優しくなったと言われますね。

社員の定着率が高まり、社長就任後も勤続年数の長い社員が幹部としてサポートしてくれて、大きな支えとなりました。私が社長でいられるのは、社員たちがいてくれるおかげだと日々実感しています。

アフターフォローを徹底し、機器導入後の定着を支援

ーー貴社の事業内容と強みについてお聞かせください。

福地一路:
測量機器やOA機器の販売・レンタル・修理を行う会社で、最近はIT機器の売上が全体の半分ほどを占めています。特に力を入れているのが、国土交通省が推進するi-Construction(※1)に関連するICT機器(※2)・DX関連機器です。ドローンや3Dスキャナーを活用するなど、従来の測量業とは異なる新しい技術を取り入れています。

そして、弊社の最大の強みは「人」です。売上を上げるのも、お客様との信頼関係を築くのも結局は人なので、時代が変わっても要となる部分だと思います。コロナ禍を含め7年連続で売上を伸ばしているのも、社員の力があってこそと感謝しています。

(※1)i-Construction:ICTの全面的な活用の施策を建設現場に導入することによって、建設生産システム全体の生産性向上を図ること

(※2)ICT機器:デジタル技術を用いた3Dモデリングやドローン、GPS、センサー

--ICTの導入は他社に先駆けて早くから進めてきたそうですね。

福地一路:
設備投資に多額の資金が必要でしたが、建設業界より先に動くためにも、思い切って導入を決めました。代替わりしたタイミングだったのも功を奏し、スタートダッシュを切れたのは良かったと思います。

特に弊社では、IT機器SE部門やDX推進事業部門の専門的な部署をつくり、アフターフォローに力を入れています。現在ではアフターフォローに多くの人員を配置し、営業の際には必ず同行するようにしています。

営業活動に比べてサポートの比重が大きくても売上が右肩上がりなのは、お客様から信頼を得ているからだと思いますね。また、ICT・DXに力を入れつつ、ミスなく作業を行えているのは、すべて社員の努力の賜物です。

互いに協力し合い、ともに成長を目指す。現状に満足せず常に進化する組織へ

ーー組織づくりや人材育成についてはいかがですか。

福地一路:
前職で営業に携わっていたときに、すべての責任を1人に背負わせる体制に疑問を感じていました。そのため弊社では団結力を高め、社員一丸となって仕事に取り組むことを目標にしています。協力して売上をつくり、クレーム処理の対応をするなど、つらさも喜びも全員で分け合うようにしています。

人材育成に関しては、自分のやり方を押し付けるのではなく、長所を伸ばすことを意識しています。「誰でも必ず良いところがある。自分の得意分野を活かし、それを自分の武器にしなさい」と伝えるようにしています。

また、私は会議よりも雑談の時間を大切にしています。会議室で固い雰囲気で話すよりも、コーヒーを飲みながら思ったことを話した方がいいアイデアが出ますからね。

会議にあえて出席しないようにしているのは、社員たちに自由に意見交換をしてもらうためです。その代わりに、各事務所を回り、朝の5〜10分の雑談の中で社員が困っていることなどを聞いています。

ーー経営をする上で意識していることを教えてください。

福地一路:
創業以来47年間、一度も赤字を出していないことは、誇るべきことであると同時に失敗できないというプレッシャーもあります。だからこそ、現状維持は衰退だという意識を持ち、常に新しいことに挑戦しています。

現在は他社の協力を得ながら、既存の商品を組み合わせた新商品の開発に着手しています。各メーカーの技術を組み合わせて複数の作業を行えるようにして、利便性を高めることが目的です。また、3次元データをスムーズに扱えるようにするため、クラウドの活用も進めたいと考えています。

ICT施工の普及を進め、地元で活躍する建設会社の発展に貢献したい

ーー5年後、10年後の目標をお聞かせください。

福地一路:
現時点では会社の規模を大きくすることや、10年後に売上を倍にするといったことは考えていません。それよりも今のメンバーがさらに成長することで、自ずと売上が伸びる状態を目指していきたいですね。

また、新規開拓よりも、既存顧客との取引を深めていく方が効率的だと考えています。県内に2,000〜3,000件ほどの顧客がいるので、今後も埼玉を拠点に活動していく予定です。さらに関東地方整備局ICTアドバイザー(※3)として、施工者の技術指導にも力を入れる方針です。

その中で時代の流れを敏感に察知し、必要な商材を取り入れると共に人材の育成にも力を入れていきたいと思っています。

(※3)関東地方整備局ICTアドバイザー:国土交通省の関東地方整備局からの認定を受け、ICT施工の普及を促進するため、地域の施工者や発注者に助言や技術的指導を行う役割のこと

ーー最後に今後の展望をお聞かせください。

福地一路:
建設業界の技術革新は進んでいるものの、実際にICTを導入している企業はごく一部です。そこで弊社がその普及のために行っているのが、DXやICTに関するセミナーや講習会です。建設業界で働く人だけでなく、工業高校の生徒さんを対象にした特別授業も行っています。

これらの活動は直接的な利益にはつながりませんが、建設業界全体の発展と将来の人材確保につながることを期待しています。これからも私たちが先陣を切り、建設業界のICT・DXの促進を支援していきます。

編集後記

強い反発を受けた苦しい時期を乗り越え、社員との信頼構築に努めてきた福地社長。インタビュー中には社員に対する感謝の気持ちがひしひしと伝わってきた。株式会社新和測機が社内の強い結束力を活かし、建設業界の発展に寄与していく姿をしっかりと見届けたい。

福地 一路/1973年、埼玉県出身。大学を卒業後、現キヤノンシステムアンドサポート株式会社に入社。6年の修業を経て、2000年に株式会社新和測機に入社し、2016年代表取締役に就任。就任後は測量業者の登録を受け、ドローン、3Dスキャナを活用したICT、DXを推進するべく建設業界をサポートしている。