※本ページ内の情報は2025年2月時点のものです。

1924年の創業以来、地域のライフライン整備としてガス工事や空調衛生工事に長年携わってきたモンノ株式会社。大阪ガスネットワークの導管・設備工事を中心とし、メーターの交換から機器メンテナンスまで幅広く手がけている。

近年ではガスだけに留まらず、水道の配管設備の設置や電気工事などにも着手しており、電気・ガス・水道のライフラインを一括してサポートできる体制を築き上げた。同社の代表取締役に就任した門野裕太氏は、4年間大規模企業に勤めた後、1年間のワーキングホリデーを経て同社に入社している。創業から100年続く企業を継承し、再建させた秘訣とは?地域への取り組みや今後の展望など、門野代表に話を聞いた。

死に物狂いの挑戦から経営者へーー経営改革への道のり

ーー入社までのご経歴をお聞かせください。

門野裕太:
弊社は私の曽祖父が創業した会社ですが、私は4人兄弟で兄がいたこともあり、10代の頃は自分が会社を継ぐとは思っておらず、就職活動では「多くの人と出会って幅広い事業を経験したい」と考え、新卒でベルシステム24という会社に入社しました。

ベルシステム24では、依頼された仕事に対してチーム編成からマニュアル作成、組織管理、成果管理にクライアントの対応まで全て1人でおこなわなければならず、アルバイトを採用しては個々人の作業スピードやトイレ休憩の時間についてまで細かいコスト管理をしていました。おかげで20代前半にして経営の感覚を身に着けることができ、現職に活かせていると感じています。

その後、父から会社に招かれましたが、入社前に1年間の猶予をもらい、今しかできない経験を求めカナダのバンクーバーにワーキングホリデーで向かいました。

自分の貯金だけでまかなっていたためお金もすぐに底をつき、死に物狂いでアパートと仕事を探しました。英語も一切話せない状況でしたが、3ヶ月経つ頃にはなんとか職に就くことができ、「いざとなれば大抵のことは乗り切れる」という経験を得られたのは大きな収穫でしたね。

ーーその後2013年にモンノ株式会社へ入社されていますが、入社後どのような取り組みを行われましたか?

門野裕太:
まず、入社後に会社全体の仕事への姿勢やコンプライアンス意識といった会社風土に改善の余地を感じ、また経営状態の厳しさにも気づきました。5年間の現場経験の中で経営課題を200個ほど書き綴り、専務に就任した頃から改革を始めました。

迅速な改革が必要と判断し、当時の社長である父に「1人でやります」と啖呵を切り、毎回激しくぶつかりながらも折れずに押し通すことで成果も出始め、少しずつ認めてもらえるようになりました。今思えば、33歳の若僧にあそこまで権限を委ねて、要望を飲んでくれたことは感謝に尽きますね。おかげで改革にも早期に着手することができました。

地域の避難所を兼ねた営業所を建設、地域に愛される企業へ

ーー2020年に「人々の生活と地域の未来に貢献する」と経営理念を再制定されていますが、地域に根差したご活動のエピソードを教えてください。

門野裕太:
昨年、兵庫西営業所を新築移転した際のエピソードですが、加古川周辺に移転を決め、土地を調べると、川の氾濫で10メートル級の浸水が起こる可能性のあるエリアだということがわかりました。

周辺には避難所が見当たらず、唯一川の近くにある学校へ避難するには川の氾濫に向かって歩かなければなりません。そこで「私たちが一役買おう」と、営業所を避難所として活用していただけるよう設計しました。

3階建ての鉄骨コンクリートで丈夫な造りにし、屋上は浸水時にも水が届かないよう工夫しています。あえて大通りに向けて非常階段を大きく見せるようにして、鍵は中と外どちらからでも開けられるようになっています。非常用の飲食物や携帯トイレなども備蓄し、30人が丸3日間はそこで避難生活を送れるようにしました。

完成後は地域の皆さんに知ってもらうため、避難訓練を兼ねたオープンイベントを開催しました。実際に鍵を開けて、非常階段で屋上まで上がっていただきました。「あの川から水が氾濫してくるんだな」と災害時の意識を高めていただくきっかけにもなったのではないでしょうか。

最終的に、学生から高齢者まで地域の方々400名以上に参加していただき、地域の活性化にもつなげられたと思っています。今後も時には避難所として使用していただきつつ、会社としても認知してもらい、地域の皆さんに貢献していければと考えています。

電気・水道・ガスのライフラインを包括し、兵庫県全域をカバーする

ーー今後のご展望をお聞かせください。

門野裕太:
ガスを中心とした既存事業に関しては、現場で働く社員からの声を聴いてより強化していきます。毎年全社員と1人1時間ほどかけた1on1ミーティングを続けており、実際の現状を知り課題を改善していくことで、より技術力や安全性を高めることにつなげていきます。

電気と水道に関する新規事業では、新たにM&Aで協業している電気工事会社と電気設備の強化に努め、さらに全国的に老朽化が進む配水管設備は、今後大きな需要が見込まれますので事業として伸ばしていくつもりです。

電気・水道・ガスのライフラインを全て包括し、兵庫県全域をカバーできるような会社に成長していくことで、地域の皆様へ貢献していきたいです。そして将来的には、東南アジアなどの水道が行き届いていない地域の配水管整備を担えるまでになっていければと考えています。

ーー最後に、仕事に対する社長の考えや事業継承される方に向けたアドバイスがあればお聞かせください。

門野裕太:
事業承継される方に向けてアドバイスをするとしたら、まずは実用書通りの経営学をそのまま会社で実践する、ということを徹底してみてください。特に中小企業に関しては、セオリー通りに物事を進めると安定して効率的に運営ができるので、そこである程度実績を積んでから個性を発揮すれば良いと思います。

親や先輩経営者が身近にいると、つい教えていただいた勘や経験などに流されてしまうことがありますが、スポーツにも基本の型というものがあるように、まずは自分の学んだ経営学を自分の責任でしっかりと組織に落とし込むことが何よりも重要だと私は実感しています。

編集後記

1人で責任を担い組織改革をおこなってきた門野社長。改革当時は違いを受け入れられなかった社員たちも、今では目の前の仕事に真面目に取り組む社風に変わったという。社員の声に耳を傾け、時代に合わせた職場環境に変革させたからこそ信頼を得られたのだろう。

「福利厚生の充実やイベントなどで社員同士が楽しそうにしているのが何よりも嬉しい」と穏やかに語った。同氏の活躍により、今後も地域の基盤を支える企業として活躍していくだろう。

門野裕太/1985年兵庫県生まれ。大学卒業後、2008年に株式会社ベルシステム24に入社し、約4年間BPO事業に携わり事業開発やBPRを経験。退社後1年間、カナダでのワーキングホリデーを経験し、2013年モンノ株式会社に入社。5年間の職人見習いや現場監督の経験を経て、2018年に同社専務取締役に就任し組織改革に着手する。2022年に代表取締役社長に就任すると、地域貢献にも力を注いでいる。