株式会社愛和は、その前身である有限会社愛和サンクリーンの時代から訪問入浴サービスの提供を行ってきた、介護事業のパイオニア企業だ。介護保険制度が始まる17年前から介護の事業に携わり、現在では障害児通所施設の運営や、湯灌サービスなどのセレモニー事業、ペットのエンゼル・ケアサービスなど多岐にわたる事業を展開している。同社の代表取締役である勘澤忠義氏に、創業から現在までの事業と今後の取り組みについてうかがった。
仕事がつらいという気持ちはなく、ただ前向きに取り組んだ
ーー創業に至るまでの経緯をお聞かせください。
勘澤忠義:
20歳から30歳までは、サラリーマンとして働いていました。サラリーマン時代から「いずれは社長になりたい」と思っていましたが、30歳のときに病気で入院することになったのです。思いがけず時間ができたので、将来について真剣に考え、「今が独立する最後のチャンスかもしれない」と思いました。たまたま知り合いが高齢者介護の仕事をしていたこともあり、弊社の前身である愛和サンクリーンを立ち上げ、寝たきりの高齢者の布団や絨毯のクリーニングサービスを始めたのです。
ーー創業にあたって苦労されたことはありましたか。
勘澤忠義:
苦労したと感じたことはなかったですね。私が社長になったとき、とりあえずとことん営業をかけようと考えました。そこで、1日につき往復500円の交通費と500円の昼食代を使い、片道250円で行けるエリアで営業活動を行ったのです。ベンチでお昼ご飯を食べていても、特につらいとかきついなどの感情はありませんでした。今でも、仕事がつらいと思うことはありません。後ろは見ないように、とにかく前だけを向いてやってきました。
愛を持って人に接し、世の中が必要とするサービスを提供
ーーその後はどのような事業を展開しましたか。
勘澤忠義:
お客様のご自宅を訪問した際に、「お風呂に入りたい」という声を多くうかがいました。「だったらうちでやろう」と思い、訪問入浴のサービスを始めたのです。茨城の水戸でお風呂を専門につくっている会社の社長と相談して、訪問入浴専用の車をつくりました。当時はまだ介護保険の制度がなく、ほとんど役所からの委託事業のような感じでしたね。
訪問入浴事業の次に高齢者向けのお弁当配食サービスを立ち上げたのですが、こちらは10数年前に廃止しました。現在は、障害がある子ども達のための福祉事業や、セレモニー事業も行っており、2023年からは新規事業であるペットのセレモニー事業を始めました。
ーーペットのセレモニー事業を始めたきっかけを教えてください。
勘澤忠義:
ご遺体を葬儀の前に湯灌をしてきれいな状態で棺に収めるように、家族であるペットも同じようにきれいな状態で送り出してあげたいという思いから始めた事業です。ペット関連事業の会社とはすでにつながりがありますが、これからは葬儀社やペット病院などとのつながりを深め、さらに事業を拡大していく方針です。
ーー貴社ならではの強みはどのようなところにありますか。
勘澤忠義:
「お風呂に入れない人がいたら、お風呂に入れるサービスを提供する」「食事がつくれない人がいるなら、配食サービスを始める」など、固定観念にとらわれず、本当に世の中が必要とするサービスを提供してきたことが、弊社の事業の強みだと考えています。
弊社の社訓は「愛を持って人に接し、和を持って仕事に従事し、人の悲しみを我が悲しみとし、人の喜びを我が喜びとする」です。この言葉が好きで弊社で働くことを選んだ社員もいます。「自分が喜ぶことは、人も喜ぶ」という信念を持って、利用者さん自身が楽しめるように工夫をこらしています。たとえば、カジノをデイサービスのプログラムに取り入れるなど、柔軟な取り組みを行っているところが、弊社の強みです。
介護の事業は、いい人材を確保することが大切です。やはり社長の私が元気でいないと人が集まりにくいので、常に元気でいることを心がけています。また、子育て中の人や自分の親を介護している人が、柔軟に働けるような仕組みづくりについても考えてきました。さまざまな取り組みが功を奏した結果、かつては36%と高かった離職率が8%まで下がったことは、大きな成果だと受けとめています。
未来を担う人材を育成し、社員が働きやすくなる取り組みを
ーー今後、注力したい取り組みについて教えてください。
勘澤忠義:
私たちの仕事は、人が集まれば集まるほど仕事ができるので、人材を増やすことが事業拡大につながります。人材の定着率を高めるために、今後は確定拠出年金の導入など、社員が働きやすくなる取り組みを充実させていきたいですね。また、これからは未来を担う人材の育成にも力を入れていきたいと考えており、勤務時間中に専門学校に行って学べる制度なども取り入れています。学校に通う費用なども、全額会社で負担する仕組みです。中途採用ではマネジメント経験がある方を採用して、社内に新しい風を入れていきたいと考えています。
いろんな人に対して偏見がなく接してくださる方で、基本的に優しい人が応募してくれたら嬉しいですね。利用者の方やお客様に対して、思いやりを持って接してくださる方と一緒に働きたいと考えています。
編集後記
介護の仕事は感情労働と言われるように、働く側の気遣いやコミュニケーション能力、自律が求められる。そんな中で社員が働きやすくなる取り組みに力を入れている勘澤氏の温かな人柄が伝わってきた。働く人も利用者も、すべてが温かく幸せな気持ちになれるサービスを今後も展開してほしい。
勘澤忠義/1949年、東京都生まれ。1967年、東京都立小松川高等学校卒業。1978年、愛和サンクリーン創業。1983年、有限会社愛和サンクリーン設立(1995年、株式会社愛和に名称変更)。全国入浴福祉事業協議会(現:日本在宅介護協会)理事、全国在宅介護事業協議会(現:日本在宅介護協会)理事、全国配食事業者協議会会長などを歴任し、現在に至る。