通信・金融・エネルギー・行政分野におけるシステムの開発・運用に強みを持つジャパンシステム株式会社。同社は、企業および自治体での豊富な実績を有する。近年は新たな事業展開や人材育成にも注力し、さらなる成長を目指している。今回は、同社の代表執行役社長である斎藤英明氏に、経営理念や今後の展望について、お話をうかがった。
留学とシリコンバレーから学んだ、挑戦の精神
ーー現在の立場に至るまでの経歴を教えてください。
斎藤英明:
大学を卒業後、「国の基礎を支える農業を通じて、貢献していきたい」という気持ちから、農林中央金庫(以下、農林中金)に入庫しました。金融を通して農業振興に携わる中で、もっと世の中を広い視野で捉えたいという気持ちから社内留学制度に応募。かねてから希望していたスタンフォード大学ビジネススクールへ留学しました。大学があるシリコンバレーは、Yahoo!が設立されるなど、今のIT産業を支える企業やテクノロジーの勃興期で、その時の空気を最前線で吸ったことが、新しいものに挑戦する姿勢を身につけるきっかけになったと思います。
帰国後は、農林中金に戻って数年間勤めた後、コンサルティング企業のボストン・コンサルティング・グループで12年勤務しました。その後、コンサルティング業務を通じて、ITが世界を変えるという直感が確信に変わったこと、人生の転機になったシリコンバレー創業という縁も感じ、IT企業のシスコシステムズに移りました。同社で、IT技術とビジネスをブリッジし新たな事業をつくった経験が、次のアクサダイレクト生命保険、そして、現在のジャパンシステムの経営に携わることにつながっています。
ーー仕事をするうえで、大切にしている考え方を教えてください。
斎藤英明:
私がよく言うのは、「ふりをする」ということです。できないと思っても、まずは真似てやってみる。そうすることで、自分の中に経験が増えていき、やがて本物になると思っています。実際に私もこれまで、多くの企業の社長に会い、多くのことを真似してきました。挑戦して失敗することは問題ありませんが、挑戦しないことは問題ではないでしょうか。まずはやってみることで、成功も失敗も全て自分の糧となるのです。
長期的な信頼関係が生み出す、独自の競争優位性
ーー貴社の主要な事業内容について、詳しくお聞かせください。
斎藤英明:
弊社の主力事業は、民間および自治体向けのミッションクリティカルなシステムの開発・運用です。具体的には、地方公共団体の会計システム、銀行・保険会社の基幹システム、通信事業者の料金計算システムなどを手がけています。特徴としては、長年の実績があることですね。IT業界は差別化が難しいのですが、そんな中でも弊社に継続して依頼してくださる企業が多いです。
また、大手企業との取引が多いのも特徴で、メガバンクや大手通信事業者などもクライアントです。システム開発は長期的な仕事になることが多く、10年、20年と同じプロジェクトを継続することもあります。
ーー多くの企業と長年の取引が続く理由は何でしょうか?
斎藤英明:
弊社の強みは、長年培ってきた信頼関係と専門性にあります。たとえば、地方公共団体向けのシステムでは、200以上の自治体との取引があり、これは業界内でもトップクラスの実績です。また、金融機関や通信事業者向けのシステムも数十年の経験があります。このような長期的な取引関係は、単なる技術力だけでなく、顧客の業務に対する深い理解があってこそ成り立つものです。システムトラブルなどの難しい局面でも粘り強く対応する社風が、お客様から信頼されている理由の1つではないでしょうか。
米国ServiceNow社との提携で切り開く、新たな成長戦略
ーー現在のお客様、および今後の成長戦略を教えてください。
斎藤英明:
大手企業が中心ですが、中小企業のお客様もいらっしゃいます。最近は、企業・自治体向けにクラウドサービス「ServiceNow」を提供する、米国本社のServiceNow社と提携し、日本市場での新規開拓も進めています。これが弊社に新たな成長をもたらしてくれるのではと期待しています。ただし、システム開発は長期的な仕事です。既存の顧客との関係も大切にしながら、バランスをとって新規開拓を進めていきたいと思っています。
ーー人材育成についての方針を教えてください。
斎藤英明:
新卒採用だけでなく、ポテンシャル採用にも力を入れており、システムの経験がなくても社会人経験があることを評価し、しっかりとした研修制度で育成できるよう心がけています。採用の際に特に重視しているのは、チャレンジ精神とコミュニケーション能力です。技術は日々進化していきますから、新しいことに挑戦する姿勢が大切です。同時に、お客さまのニーズを理解し、チーム内で協力して仕事を進める能力も欠かせません。
しかし、会社は社員の成長のためだけに存在しているわけではありません。会社の成長と社員の成長のベクトルが一致したとき、最も良い結果が生まれると考えています。そのような環境を整え、社員を全力でサポートし、ともに成長していきたいと考えています。
編集後記
インタビューを通じて、斎藤社長の多彩な経験が現在のジャパンシステムを形づくっていることが強く感じられた。シリコンバレーへの留学、コンサルティングから事業会社、日経から外資系への就業など、異なる組織への飛び込み、常に新しいことに挑戦し続ける姿勢が印象的だった。基幹系システムという、縁の下の力持ち的存在であり、これからの社会を変えていく重要な分野で、着実に実績を積み上げつつ、新規事業にも果敢に挑む。どんな分野や規模であれ、あらゆる企業が進化を続けるヒントがそこにあるように思えた。
斎藤英明/1963年東京都生まれ。1986年東京大学法学部を卒業後、農林中央金庫に入庫。1994年より米スタンフォード大学ビジネススクールへ留学し、1996年にMBAを取得。1998年ボストン・コンサルティング・グループに移り、パートナー&マネージング・ディレクターを務める。その後、2010年シスコシステムズ合同会社の専務執行役員、2013年アクサダイレクト生命保険の代表取締役社長に就任。2019年ベイン・アンド・カンパニーのパートナーを務め、2021年にジャパンシステム株式会社取締役代表執行役社長に就任。