※本ページ内の情報は2024年12月時点のものです。

2008年に、シャッター通りになっていた公設市場を再生し、プロデュース、運営を手掛ける「恵比寿横丁」。これを皮切りに、都内に次々と「食✕エンターテインメント」が楽しめる空間を生み出している浜倉的商店製作所の代表浜倉好宣氏は、古き良き「横丁文化の再生」に着目し、業績を伸ばしている。創業のきっかけや、これまで手がけた飲食店プロジェクトの実績と、現在始動中の大型プロジェクトにかける思いについて伺った。

目先の華やかさではなく、古き良き文化の活性を重視

ーー東京・門前仲町にある魚屋の「町の魚屋」再生プロジェクトを手がけたきっかけについて、詳しくお聞かせください。

浜倉好宣:
鮮魚店の店主から、「スーパーマーケットの進出に押され、町の魚屋さんが年々減っていっている。そして自分たちも仕事がなくなっている」というご相談から、プロジェクトが始まりました。当時の店主たちは、いわゆる団塊の世代のおやじたち。彼らの強みを世の中につなげていきたいと想い、そこで浜焼きをコンセプトにした「鮮魚酒場」をプロデュース、運営しました。

相談してくれた方々は元々魚屋さんだったので、調理のプロではないのです。そのため彼らでも繁盛させられるかたちとして、彼らが調理せず、お客さん自身が自ら七輪で焼く“浜焼き”スタイルをメインにしました。

そして客席をギュウギュウに詰め込むことで賑やかさを演出し、お客さま同士のコミュニケーションが自然に生まれる環境づくりに徹し、活気とコミュニティが生まれる酒場を創る、というこだわりをもってプロジェクトをまっとうしました。この魚屋だからこそできる浜焼酒場をコンセプトにプロデュースしたことが「魚屋の再生」でした。

このプロジェクトをきっかけに、元々自身の中で感じていた、飲食の原点でもある「時代の移り変わりとは関係なく続いていく、自分らしく居られるコミュニティの場」を作りたいという思いが強くなりました。

ーー御社はプロデュースのみならず、運営も自社でされています。どのようなことを大切にしているのですか。

浜倉好宣:
私たちのブランドの中ではRAYARD MIYASHITA PARKの「渋谷横丁」や「新宿 カブキhall」がよい例ですが、企画から運営まで手掛けた方が施設全体のイベントや、空間としての一体感が生まれ、弊社が大切にしている「人と人、人と文化、そして古き良き文化を次代へ繋いでいく」ということが体現できる場になると考えています。

飲食店として「焼き鳥屋を●●軒オープンさせよう」という目標設定ではなく、場所とそこに息づいていた文化や雰囲気をどのようにすれば地域のマーケットに伝わり持続していくことができるのか、人や古き良き文化を次代につなげていくことができるのか、ということを念頭にプロデュース、運営しています。

現代は、人と人が昔のように気軽にコミュニケーションできる時代ではありません。人が集まる場所をつくるのであれば、人と人をつなげるしかけも重要であり、横丁はさまざまな店舗の集合体ですので、みんなで自然と賑わい、盛り上げながら、コミュニケーションが生まれる環境づくりをしています。

同社最大規模のプロジェクトとして手がける食✕エンタメビルを新橋に

――2024年11月にオープンを予定している「グランハマー」プロジェクトについて詳しくお聞かせください。

浜倉好宣:
「グランハマー」は、地下1階〜地上8階、屋上までの9フロアで展開される、フードエンターテインメントレジャービルです。

かねてより、「食」をキーワードに、異なるシーンを楽しめる空間をひとつのビルに集めれば、ビル自体の価値もあがり、新たなビジネスモデルを作りながら、飲食体験を超えたエンターテインメント体験を届けられ、人と人、人と文化、そして古き良き文化を次代に繋いでいくことができるのではないかという構想をずっと温めていました。

新橋SL広場前という空間に、飲食店からなる横丁が楽しめることはもちろん、ビル全体を縦へとつなげ、エンターテインメントや日本文化なども体験できる場所になる予定です。

ーー9フロアと面積に換算すると広大ですが、エリアの構想はどうなっているのでしょうか?

浜倉好宣:
横丁・エンターテインメント・おもてなし・レジャー&リラクゼーション・日本文化という5つのコンセプトを設定しています。1階はにぎわいを求め日本全国の食材やB級グルメが楽しめる地域別酒場が集まる横丁にし、2階は日本だけでなくアジア各国の店を集めた横丁となる予定です。

また、3階には食事をしながら生のアーティストによるエンターテインメントショーを楽しめる「座・グラン東京」がオープンします。歌手やパフォーマー、イリュージョニスト等によるショーを開催することによって、グランハマーだからこそ味わえる食×エンターテインメント体験ができる時間と場所をご提供します。

ーービジネスパーソン向けのコンテンツも想定しているのでしょうか?

浜倉好宣:
4階には高級感のあるホテルラウンジのような空間を設けることで、商談などのニーズに対応できる場所をつくっています。ボックス席で、ゆったりとくつろぎながらビジネスの商談の場にもご活用いただけます。加えて、5階は1・2階の横丁でお食事をお楽しみいただいた後、「もう1軒、寄りたい」という方にもお応えする場所となる予定です。

ーー食にまつわるさまざまな楽しみ方を提供する、浜倉的商店製作所のノウハウが詰まった施設になりそうですね。

浜倉好宣:
食は私たちにとって最も身近なレジャーと考えています。「グランハマー」単体をお楽しみいただくだけではなく、「グランハマー」をきっかけとして新橋の昔ながらのディープで魅力ある街を知っていただくような入口にしたいですね。

また、訪れるお客さまを楽しませるだけでなく、飲食業界で活躍する人材を増やしたいという思いもあります。外食産業は、離職者も増え、人手不足の時代に突入しています。「グランハマー」で働く人々に対して「楽しそうだな」と感じ、飲食の仕事に関して明るい未来を描く人を増やしていきたいですね。

「飲食は街や時代をつくる、素晴らしい仕事であること」。そのようなメッセージが、ひとりでも多くの方の心に届く場所となってほしいという願いを込めて、プロジェクトを手がけています。

編集後記

私たちの暮らしに欠かせない「食」。飽食の時代と言われる現代において「食」は、生きるために必要なものである以上に、コミュニケーションや楽しさを提供するものとなりつつある。まさに、浜倉社長は時代のニーズを反映した、食のエンターテインメント化を推し進めている。新プロジェクトを含め、これから浜倉的商店製作所がどのように展開するか、楽しみだ。

浜倉好宣/1967年、神奈川県横須賀市生まれ、京都市育ち。1990年代、飲食のアルバイトから成長期の飲食企業各社の幹部を務め、2004年に独立。株式会社浜倉的商店製作所を2008年に設立。同年にオープンした「恵比寿横丁」のプロデュース、運営を皮切りに、数々のヒット店舗をリリース。一般社団法人日本居酒屋協会名誉会長。