
トラックドライバーの労働時間が制限され、人手不足が懸念される「2024年問題」など、さまざまな課題をもつ物流業界。そんな中、物流とDXをかけ合わせ、業務の効率化と売上拡大をサポートしているのが、トラボックス株式会社だ。
通信業界から物流業界に転身した経緯や、業界の課題改善にかける思いなどについて、代表取締役社長の皆川拓也氏にうかがった。
運送業者間のマッチングサービスを提供
ーー貴社の変遷と強みを教えてください。
皆川拓也:
弊社は2000年の創業当時から、運んで欲しい荷物と空いているトラックをマッチングさせる求荷求車サービス「TRABOX(トラボックス)」を提供しています。運送会社の2代目2人が1999年にこのサービスを始め、法人化したのが始まりです。2020年にVisionalグループに加わり、私は2022年に入社しました。そしてその翌年に、社長に就任しました。
弊社の最大の強みは、業界に先駆けて新しいサービスを作り、それを20年以上提供し続けている点です。累計会員数は2万以上、マッチング成約数は70万件、荷物の登録数は280万件(※2023年時点)と、国内トップクラスの実績があります。グループ参画後も、順調に会員数と荷物登録数を増やしています。大手グループの高いチーム力と、トラボックスの顧客基盤を組み合わせることで、唯一無二の力を発揮しています。
ーーメインサービス以外に貴社が提供しているのはどんなサービスでしょうか。
皆川拓也:
2014年から「トラボックス運賃全額保証サービス」を開始しました。これは荷主から代金が支払われなかった場合に費用を負担するサービスです。これにより、運送会社が初めての荷主とも安心してやりとりできるようにしています。
また、2023年11月からは、運送関連の商品や業務支援サービスを紹介するポータルサイト「トラボックスモール」を立ち上げました。
その他にも、請求書を自動作成する「トラボックス請求発行」や、請求書登録から決済までをワンストップでできる「トラボックス請求受領」も提供しています。これらのサービスを通じ、お客様が本業に集中できる環境を整えています。
物流業界に関わるきっかけとなった前職での出会い

ーー前職で通信業界に入ったきっかけをお聞かせください。
皆川拓也:
もともとは技術職に就くつもりで、国立の工業高等専門学校で電子制御の勉強をしていました。しかし、アルバイトを機に経営に興味を持ち、法律と経営を学べる日本大学に入学しました。
大学時代のアルバイトがきっかけで、これからは携帯電話が社会インフラになると確信しました。生活をより便利にするためのサービス企画・開発・提供に関わる仕事はやりがいがあると考え大手の通信会社KDDIに就職しました。
ーーそこからCBcloudに転職し、トラボックスに移るまでの経緯を教えてください。
皆川拓也:
スタートアップ支援プログラムで、CBcloudの松本社長と出会ったのが始まりでした。その後、「取締役として来てほしい」という話を受けました。ちょうど通信会社で異動が決まっていたので、動くなら今だと思いました。他のスタートアップ経営者から「返答が遅い人には任せたくない」という見解を聞いていたこともあり、1週間で決断しましたね。
転職後は軽貨物事業者と荷主を直接つなぐ配送マッチングプラットフォーム「PickGo」のサービス拡大に携わりました。その活動の一環として佐川急便、ANAカーゴと実現した取り組みが評価され、日本オープンイノベーション大賞の国土交通大臣賞を受賞しました。
ただ、BtoBの荷物輸送のシステムを根本的に変えなければ、物流業界全体を改善することはできないと気づきました。そのためにはヒト・モノ・カネの資源がそろっている大企業の力が必要だと考え、再びKDDIに戻ることになります。
そこでVisionalグループの南社長に協業の提案をしたのですが、自分の力不足で実現に至らず、新事業の立ち上げは頓挫してしまいました。そのような経緯から再びKDDIを退職し、自分の構想が実現できそうなトラボックスへの入社に至ったというわけです。
異業種出身の皆川社長が物流業界の改善に全力を注ぐ理由
ーー大手企業を辞めてまで物流業界の発展に尽力してきた理由は何だったのでしょうか。
皆川拓也:
下請け、孫請け、ひ孫請けという多重下請け構造による賃金の低さなど、物流業界が抱えるさまざまな課題に直面したからです。さらに、ドライバーの労働時間が制限されることで、人手不足が危惧される働き方改革関連法の適用時期も迫っていました。
このままだと30年後には運送料金は大幅に上がり、さらに注文した商品がいつ届くかわからない状態になると危機感を覚えたのです。
また、夜間配送や新幹線による荷物輸送の実証実験を通して、最終的に商品が届くまでのラストワンマイルの重要性に気付いたことも大きかったですね。こうした背景からテクノロジーで物流現場の柔軟性を高める重要性を実感し、業界の改革に貢献したいと思うようになりました。
ーートラボックスで実現したいことは何ですか。
皆川拓也:
テクノロジーと連携させることで運送業者様の売上を高めつつ、業務の効率化を実現させることです。ただ、運送業界ではアナログ業務が主流で、事業所ごとに仕組みが異なるため、デジタル化は容易ではないと感じています。これからじっくり時間をかけ、運送業者様にとってより良い形を模索していきたいと考えています。
オフラインで直接顔を合わせる信頼感。物流業界の課題には誰もが向き合うべき
ーー貴社ならではの独自の取り組みについて教えてください。
皆川拓也:
少しでも業界の状況を良くしたいという思いから、全国の運送業者様が交流するオフラインイベントを開催しています。コロナ禍を除きこれまで80回以上開催し、都市部では300人以上の方々にご参加いただいています。
また、各地域の経営者の方にお話しいただくセミナーも開催しています。このように直接お客様と向き合う姿勢を大切にするのが、弊社ならではの特徴です。
ーー最後に読者の方々へメッセージをお願いします。
皆川拓也:
物流業界の課題は他人事ではなく、私たち一人ひとりに関わる問題です。実際にECサイトで注文し商品を受け取るすべての人が、「着荷主」として物流業界に関わっています。そのため業界の問題から目を背けず、再配達を減らすなど、荷物を届けてくださる方々への配慮を意識してほしいですね。
また物流業界に興味を持っていただいた方はぜひご連絡ください。様々な方との協業も積極的にやっていきたいですし、仲間が増えることは大歓迎です。
編集後記
異業種からベンチャーの取締役に就任した後、大手企業のリソースを活かすべく前職に戻って物流事業の立ち上げを画策するなど、即決速攻の皆川社長。そこには「世の中の急速な変化に合わせて、物流システムを進化させたい」という強い思いを感じた。トラボックス株式会社は物流業界に変革をもたらし、運送会社の地位向上とサービスの改善で、より良い社会の実現に貢献していくだろう。

皆川 拓也/2005年、日本大学法学部卒業後、KDDI株式会社に入社。2018年よりCBcloud株式会社に取締役として参画。その後、再びKDDIを経て2022年にトラボックス株式会社に入社。事業部長などを歴任し、2023年に代表取締役社長に就任。